第275話:天界
魔神ニルヴァナから連絡があったのは、さらに1週間ほどたった頃だ。
『天界の神の1人が、アリウスに会いたいと言っているが。どうする?』
そいつが何を企んでいるか解らないけど。向こうから会いたいと言うなら、会わない理由はないな。俺は魔神ニルヴァナに承諾の『伝言』を送った。
※ ※ ※ ※
天界は魔界の遥か上空にある。だけど簡単に行き来できる訳じゃない。時空を断絶する壁が、魔界と天界の間に存在するからだ。
まあ、この世界の魔神や神が本気を出せば、壁を壊せるらしいけど。
「僕は天界に招かれていないからね。ここからは、アリウス、君だけで行くことになるよ」
魔神ニルヴァナが案内したのは、魔界と天界の狭間。
地上に広がる活火山に囲まれた溶岩溜まり。ここは上空2,000mに
さらに上空は、時空を断絶する壁のない空間。魔界と天界が唯一繋がっている通り道がある。
「アリウス。僕が天界の神と結託して、君を陥れる可能性は考えないのかい?」
魔神ニルヴァナが面白がるように笑う。
「ニルヴァナ陛下なら、やりかねないとは思っているよ。だけど
「アリウス、どういう意味だい?」
「ニルヴァナ陛下がやることに、全部意味があることは解っている。少なくとも陛下は、悪戯に世界を混乱させるつもりはないだろう?
だったら天界の神と話をつけて貰った礼として。俺が陛下の役に立つなら、利用されても構わないと思っているよ」
俺の答えに、魔神ニルヴァナは突然腹を抱えて笑う。
「……いや、失礼。やはり君は面白いよ。アリウス、そろそろ僕のことを陛下と呼ぶのを止めにしないか? 君の力はすでに魔神を凌駕している。そんな君に敬称で呼ばれるのは、違和感があるね」
「じゃあ、そうさせて貰うよ。ニルヴァナ、行ってくる」
「ああ、アリウスなら上手くやれるんじゃないか。君は強いだけの男じゃないないからね」
「ニルヴァナにそんなことを言われると、なんか、むず痒いな。まあ、俺も天界の神と争うつもりはないからな」
俺は加速して上空に向かう。何もない空間を駆け抜けていると。突然、視界に光が溢れる。
下から湖を突き破って、俺が辿り着いた場所は、空に浮かぶ島だ。周りには同じような島が幾つも浮かんでいる。
島は緑に溢れて、銀や金の幹の木々が生い茂っている。如何にも天界って感じだな。
「貴様がアリウス・ジルベルトか?」
俺を待ち構えていたのは、白銀の鎧を纏う10人ほどの女子たち。身長は人間サイズで、背中から鳥のような翼が生えている。
『
「ああ。俺がアリウスだ」
「貴様は魔神に匹敵する力を持つと聞いていたが……上手く魔力を隠しているようだな」
リーダーらしい金髪の女子が俺を睨む。他の女子たちもそうだけど。客観的に言えば、物凄い美人だ。
「俺は喧嘩を売りに来た訳じゃないからな。力を見せつけるような真似はしないよ。おまえたちが俺を案内してくれるのか?」
「そうだ。アリウス、我々について来い」
俺は天界で誰に会うのか、魔神ニルヴァナから聞いていない。勿論、事前に聞こうとしたけど、ニルヴァナは教えてくれなかった。
『アリウス、君に余計な先入観を与えたくないんだ。君の目で見極めるが良い』
俺はエリクやアリサと付き合っているから、
高速移動で天界の島を巡る。
予想していたけど、天界の生き物たちも普通に1,000レベルを超えている。ペガサスやユニコーンの上位種とか、金銀のドラゴンが当たり前のようにいるけど。全部1,000レベルを超えだ。
魔界に悪魔が住んでいるように、天界の住人は天使で。空に浮かぶ島で暮らしている。
俺の『
俺を案内する白銀の鎧を纏う女子たちは、上級天使のヴァルキリーで。リーダーの金髪女子は天使長のアクシアだ。
いや、移動中に暇だったから、本人たちに訊いたんだけど。質問したら、意外と素直に教えてくれた。
アクシアたちが案内したのは、空中に浮かぶ巨大な城塞。天界の城だから、もっと神秘的かと思ったけど。使われている金属が金色や銀色ってだけで。装甲で覆われた鋼鉄の要塞って感じだ。
城塞の中は巨人の住処のような巨大な造りで。まあ、この辺は魔界の城と同じようなモノだな。
天井の高い回廊を進んでいると、天界の騎士を思わせる甲冑を纏う天使たちを、そこかしこで見掛ける。
天使たちは俺が来ることを知っているのか。警戒心に満ちた鋭い視線を向けて来る。
「さあ、ここだ。アリウス・ジルベルト。くれぐれも陛下に失礼な真似はするな」
俺の前にあるのは、高さ20mほどの両開きの金色の扉。精巧な彫刻が施されていて、扉だけで金貨数万枚の価値があるだろう。
アクシアが扉をノックして、到着したことを伝えると。扉が勝手に開く。だけど中は眩しい光に溢れていて、何も見えない。
アクシアに促されて光の中に入ると。その先は巨大なドームような空間だった。
まるでプラネタリウムのように、暗い天井に輝く星のような光。
中央にある巨大な水晶のような長椅子。もたれ掛かるように座っているのは、椅子のサイズに相応しい、巨大な銀色の髪と金色の瞳の美女。
金と銀で装飾された、動き易そうな実用的な鎧。銀色の光を放つ長剣。不適な笑みを浮かべる凛々しい顔は、人間にはあり得ないほど完璧な造りで。美の究極という感じだ。
「アリウス・ジルベルト、良く来たな。私は天界の国イシュタルの神王、アルテミシア・イストリウスだ」
魔界の国では、魔神のことを普通に王と言うけど。天界の国では神を神王と呼ぶのか。
「アルテミシア陛下、アリウス・ジルベルトだ。今日は招いてくれて、ありがとう」
敵対するつもりはないからな。俺は普通に挨拶する。
「アリウス、ここには私とおまえしかいない。楽にしてくれ」
いきなり2人きりとか。密談でもするつもりか? 確かに俺の『
この部屋に入るとき。天界に入ったときと同じように、光の壁を抜けたから。この部屋は隔絶された空間なのか。部屋の周囲にいるだろう天使たちの魔力も感知できない。
「アリウス、おまえは状況を理解した上で、落ち着き払っているのだろう。余程自分の力に自信があるようだな」
神王アルテミシアが不敵に笑う。
「私は、おまえを陥れるために空間を閉ざしたのではい。まあ、おまえが本当に神や魔神を超える力を持つなら、この空間くらい破壊できるだろうが」
神王アルテミシアは、俺を見極めようとするように目を細める。
「魔神ニルヴァナから話は聞いているが。私は
アリウス、おまえの本当の力を見せてみろ」
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