第276話:神の誘い


「俺が望むモノって。つまり聖属性の魔力を封じるアイテムを、持っているってことだよな?」


 神王アルテミシアは、不敵な笑みを浮かべる。


「そういうことだ。魔力を封じるマジックアイテムに魔力属性を持たせることは、本来であれば不可能だが。アイテムの素材自体が魔力属性を帯びていれば不可能ではない」


 アルテミシアが取り出したのは装飾が施された銀色の腕輪で。聖属性魔力の白い光を放っている。


「この腕輪は『星屑スターダスト』と呼ばれる、天界にしか存在しない聖属性を持つ希少金属で創った物だ。勿論、魔力を封じる効果を持たせてある。勇者の力を封じるなど、この腕輪を使えば容易いことだ」


 さすがは神と呼ばれる存在ってことか。存在するかも怪しいと思っていたマジックアイテムを、アルテミシアはアッサリと提示する。


「それで。俺の本当の力を見せろって話だけど」


「ああ。アリウス、おまえが魔力を隠していることは解っている。おまえが本当に神や魔神を凌ぐ力を持っているか。話をするのは、それを確かめてからだ」


 俺には力を見せつける趣味はないし。手の内を晒さないためにも、世界迷宮ワールドダンジョンに挑むとき以外、俺は魔力を隠している。


「アルテミシア陛下は、俺と戦いたいのか?」


「戦うかどうかを決めるのは、おまえの力を見極めてからだ。私は鼠を痛ぶるような性格ではないからな」


 天界の神が魔神以上に不遜だというのは、本当のようだな。神王アルテミシアは俺に敗けるなんて微塵も思っていないだろう。


「じゃあ、遠慮なくやらせて貰うよ」


 別に気合を入れるとかじゃなくて。俺は自然ナチュラルに本来の魔力を解き放つ。その瞬間、神王アルテミシアが大きく目を見開く。


「アリウス。おまえは……『能力隠蔽カバーアビリティ』を使っていたのではないのか?」


 『能力隠蔽』は相手の『鑑定アプレイズ』にマイナス補正を掛けるスキルで。自分よりもレベルの高い奴が『鑑定』しても、レベルやステータスを隠すことができる。勿論、『能力隠蔽』のマイナス補正にも限界はあるけど。


 神王アルテミシアは、俺が『能力隠蔽』を使っているから、レベルが解らないと思っていたのか。だけど本来の俺の魔力を見て、それが間違いだと気づいたようだ。

 まあ、俺にはアルテミシアのレベルとステータスだけじゃなくて、使えるスキルや魔法まで普通に見えているからな。


「俺が鼠じゃないことは解ったみたいだけど。俺と戦うのか?」


 神王アルテミシアはニヤリと笑うと、巨大な水晶のような長椅子から立ち上がる。


「アリウス。おまえのような男には初めて会ったぞ」


 金と銀で装飾された鎧を纏う、銀色の髪と金色の瞳の巨大な美女。神王アルテミシアは何を思ったのか。突然、アルテミシアの巨体が小さくなって、人間サイズになる。


「おまえの魔力は最早、神や魔神などというレベルではないな。確かに戦ってみたい気持ちもあるが……私はおまえが欲しくなった」


 金と銀で装飾された鎧鎧が消滅して。アルテミシアは誇らしげに、一糸纏わない完璧な身体を晒す。いや、いきなり何をするんだよ?


「アリウス、私の男になれ。そうすれば全てを与えてやろう」


 ああ、そういうことか。だけど答えは決まっているからな。


「アルテミシア陛下。悪いけど、俺には大切な奴らがいて。もう結婚もしているんだよ」


「私は神だぞ。勿論、それくらいは知っているが。だから何だと言うのだ? 人間風情と神である私を比べるまでもないだろう?」


 神王アルテミシアは魅惑的な笑みを浮かべると、全裸で俺に抱きつく。ちなみに今の俺はいつものシャツ一枚にズボンという格好だ。

 アルテミシアの凛々しい顔も身体も、確かに人間にはあり得ないほど完璧な造りで。美の究極という感じだけど。


「人と比べるのは好きじゃないけど。俺にとってはアルテミシア陛下よりも、結婚しているみんなの方が、ずっと大切なんだよ。それこそ比べるまでもないくらいにね」


 神王アルテミシアは面白がるように笑う。


「アリウス。神である私の誘いを無下に断るとは、おまえは不遜な男だな。だが私の誘いを断れば、おまえが望む物は手に入らないが。それで構わないのか?」


 天界の神のアルテミシアに、不遜だなんて言われたくないけど。


「ああ。俺が陛下の言いなりになって、魔力を封じるアイテムを手に入れても。たぶん勇者は喜ばないからな」


 俺がそんなことをすれば、フレッドは怒るだろう。

 まあ、とりあえず、フレッドがこれ以上鍛錬しなければ、新たな勇者のスキルに覚醒することはないようだし。勇者の力を封じる方法は、時間を掛けて探せば良い。


「微塵も揺るがないようだな。アリウス、私は益々おまえが欲しくなったぞ。あのしたたかな魔神ニルヴァナが、おまえのために動いたのも頷ける。どうだ、試しに私と一夜を共にしないか?」


 この世界の神の貞操観念がどうなっているか、疑わしいものだけど。


「アルテミシア陛下、遠慮しておくよ。俺は身体だけの関係とか、興味ないんだ」


 そんなものは、俺には関係ないし。みんなを裏切るつもりはないからな。


「そうか。残念だが、仕方あるまい」


 神王アルテミシアはアッサリと引き下がると、一瞬で元の鎧姿になって。


「だが気が変わったら、いつでも言ってくれ。私はおまえのことを諦めた訳ではないぞ」


 ぬけぬけと、そんなことを言った。いや、俺の気が変わることはないからな。


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