第274話:実力行使
「なあ、冒険者ギルド本部長のオルテガに、アーチェリー商会の強制捜査の
デュラン・ザウウェルは、
アドミラル連邦共和国の『神獣』に関わる事件で、『神獣』討伐の依頼を請けたのに。自分勝手に戦って、『神獣』のせいで発生したスタンピードを放置した罪で、SS級冒険者に降格になった。
オルテガはデュランみたいな奴を野に放つよりも、自分の監視下に置く方が良いと判断して。デュランの冒険者資格までは、剥奪しなかった。
そんなデュランがアーチェリー商会の強制捜査なんかしたら、何を仕出かすか想像できる。勿論、それが依頼した奴の狙いで。依頼したのが『東方教会』だってことも解っている。
「はて……アリウス閣下が何を言っているのか、私にはサッパリ解りませんが。何か思い違いをされているのではないでしょうか?」
ロイガー・マクスロフ子爵は惚けるけど。こいつが『冒険者ギルドを支配する者たち』の1人だってことは、調べはついているんだよ。
『冒険者ギルドを支配する者たち』の正体を知っているのは、奴らが指名した冒険者ギルド本部の役員だけで。しかも役員も自分を指名した相手の正体しか知らないから。これまでは、俺も奴らの正体が解らなかった。
だけど俺だって、これまで何もしていなかった訳じゃない。自分の情報網とエリクとアリサに依頼して『冒険者ギルドを支配する者たち』のことは、ずっと調べて来た。
だからある程度、目星はついていたし。
「ロイガー。おまえは自分の正体がバレる筈がないと、タカを括っているみたいだけどさ。俺には証拠なんて必要ないんだよ。別におまえたちを法で裁く訳じゃないからな」
俺はロイガーを真っ直ぐに見据える。
「俺は
ロイガーの表情が変わった。忌々しそうな顔で俺を睨む。
「オルテガが裏切って、私のことを喋ったのか?」
『冒険者ギルドを支配する者たち』の世襲者の1人。ロイガー・マクスロフが冒険者ギルドの役員に指名したのは、現SSS級冒険者序列第1位で、冒険者ギルド本部長を兼任するオルテガ・グランツだ。
代々SSS級冒険者を輩出しているグランツ家と、マクスロフ家は蜜月関係にあって。マクスロフ家はグランツ家の人間を、ずっと冒険者ギルド本部の役員に指名して来た。
「オルテガが裏切る筈がないだろう。あいつは義理堅い奴だからな。まあ、それなりに時間が掛かったけど。冒険者ギルド本部の金の流れを調べれば、誰が『冒険者ギルドを支配する者』なのか目星はつくし。目星さえつけば、周りの人間に口を割らせる手段なんて、幾らでもあるんだよ」
「冒険者ギルド本部の金の流れを調べただと? そんなモノが解る筈が……」
「ギルド本部にある魔道具を、送金に使っているからか? だけど魔道具を『
冒険者ギルド本部にある送金用の魔道具は、遠隔地にあるマジックバッグの入口みたいなもので。『冒険者ギルドを支配する者たち』の秘密金庫に繋がっている。
まあ、仕組み自体は『
「アリウス……まさか貴様は、冒険者ギルド本部に忍び込んだのか? そんなことをしたら、完全に犯罪だろう?」
「いや、俺は例えばの話をしただけだからな。仮に俺が忍び込んだとしても、証拠がないだろう?
まあ、どうせおまえたちじゃ、証拠を手に入れることも、
今の俺なら、世界中の冒険者ギルドを敵に回しても問題ない。
SSS冒険者の資格を剥奪されても、今さらだし。意趣返しとして、冒険者仲間たちに何かするつもりなら。受けて立つだけの話だ。
「なあ、ロイガー。今さら依頼を断って、『東方教会』との関係が崩れることを気にしているなら。おまえたちの自業自得には違いないけど。『東方教会』の教皇ルードには、俺が
順番的には、依頼を出した『東方教会』を止めるのが先だからな。
まあ、『東方教会』の相手をするのも、いい加減、面倒になって来たから。『東方教会』の本部がある小国アリスト公国に行って、教皇ルード・マクラハンに釘を刺して来たんだよ。
これでも懲りないなら、
「俺の方の話は以上だ。ロイガー、俺の力をいちいち証明させるような真似はするなよ。おまえだって俺の噂は色々聞いているだろう? 俺の周りの人間に関わらないなら。とりあえず、
こっちが放っておいても、また向こうから仕掛けて来るんだからな。俺は喧嘩を売った奴に対して、穏便に済ませることは止めにしたんだよ。
ロイガーは俺をじっと見るだけで、何も言わない。まあ、沈黙は承諾と受け取って問題ないだろう。反故にしたら、実力行使に出るだけだ。
勿論、俺はロイガー以外の『冒険者ギルドを支配する者たち』にも全員会って。俺が正体を知っていることと、俺の敵になったらどうなるか、教えてやるつもりだ。
これまでに、ブリスデン聖王国と『奈落』は押さえてあるし。『東方教会』と『冒険者ギルドを支配する者たち』の動きを封じれば、しばらくは問題ないだろう。
『東方教会』の方は下手に潰すと問題が大きくなるから、教皇ルードと上層部の連中を上手く使う必要があるけど。
※ ※ ※ ※
さらに数日後。俺はみんなと一緒に、ロナウディア王国の王都にいる。双子の弟と妹のシリウスとアリシアの誕生日を祝うためだ。
俺の実家であるジルベルト家の邸宅。俺たちの両親のダリウスとレイアと一緒に、みんなでパーティーを開く。
みんなも母親のレイアと一緒に、料理と苺と生クリームたっぷりのケーキを作る。
「ねえ、アリウス。貴方はみんなと結婚したんだから。みんなの誕生日もパーティーを開いて、一緒にお祝いすることにしましょう。勿論、貴方たちが甘い夜を過ごすのを邪魔するつもりはないけど。それはそれとして、家族としてお祝いしたいのよ」
母親のレイアの提案に、みんなは顔を赤くする。だけど一緒にパーティーをやること自体は乗り気だ。
勿論、みんなの誕生日は毎年祝っているけど。これまでは一緒に食事をするくらいだったからな。
「だったらアリウスお兄ちゃんの誕生日も、お父さんとお母さんの誕生日も、パーティーをしないとね」
「そうだよ、アリウス兄さん。特に兄さんは自分の誕生日に無頓着だから」
俺の誕生日も、みんなが祝ってくれるけど。グレイとセレナと一緒に世界中のダンジョンを巡っていた頃は、お互いの誕生日に乾杯するくらいで。
俺もグレイもセレナも、誕生日パーティーを開くような性格じゃないからな。自分の誕生日にパーティーを開くとか、発想自体がなかったげと。
「そうだな。父さんと母さんの誕生日も、家族でパーティーをやろう」
自分の誕生日は別にしても。俺は7歳で冒険者になって、ほとんど家にいなかったから。両親の誕生日を祝ったことがない。
だけど父親のダリウスと母親のレイアの子供に転生してことを、俺は心から感謝しているからな。
みんなも賛成してくれるようだし。これらは、2人の誕生日をみんなで祝おうと思う。
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