第272話:セイヤのやり方

※三人称視点※


 次の日から、アリサの弟のセイヤが、ヒュウガの仲間たちを本格的・・・に鍛え始めた。


「全員纏めて掛かって来てください。何も考えないで突っ込んで来たら、瞬殺しますけど」


 ヒュウガの仲間たち全員と、限りなく実戦に近い模擬戦。武器も魔法もスキルも一切制限無しで戦う。

 セイヤは戦いの中で、ヒュウガの仲間たちに身体で覚えさせる・・・・・・・・つもりだ。


 勿論、セイヤは手加減しているが。近づけば剣で身体を切り裂いて、肉片と血飛沫が舞い。拳や蹴りで骨を砕いて、血だるまにする。

 距離を取れば、範囲攻撃魔法を叩き込んで、纏めて大ダメージを与える。


「良く考えて動いてください。僕も子供の頃に、アリサ総督に散々鍛えられましたけど。皆さんは子供の頃の僕のレベルよりも下なんですよ」


 不甲斐ない戦いをすれば、セイヤは容赦なく死なないギリギリまで痛めつける。

 セイヤは万能型で、近接戦闘は剣と格闘術の両方。魔法も第10階層の範囲攻撃魔法から『完全治癒パーフェクトヒール』まで使いこなす。


 人間がどうすれば死ぬのか、セイヤは良く知っていて。身体の半分近くを吹き飛ばした直後に、『完全治癒』で回復させるなど。端で見ているとサディストとしか思えないようなことを、セイヤは平然とやっている。


 いくら魔法で治療しても、痛みはある訳で。一歩間違えば死ぬような状況だから、ヒュウガの仲間たちも必死になる。


 だが、ここまでやれば、脱走者が出そうなもので。実際に何人か脱走を試みたが、アリサが許す筈もなかった。

 ボロ雑巾のような状態で戻って来た者も、それを見た者も、強くなる以外に選択肢がないことを悟る。


 ヒュウガの方は『クスノキ商会』のアリサに次ぐ実力者、刀使いのリョウに、様々なことを叩き込まれている。

 単独戦闘は、格上のリョウと模擬戦をしながら、技術的な指導を受けて。連携については、鍛練のために高難易度ハイクラスダンジョンに行く『クスノキ商会』のメンバーに同行して。パーティーとしての戦い方を学んでいる。


 ヒュウガは元々ソロの冒険者で。A級冒険者時代から、同格以上のメンバーとパーティーを組んだことがないから。『クスノキ商会』のメンバーから得ることは多い。


「ヒュウガ。てめえは、ぽっと出のくせに生意気なんだよ!」


「クリスさん。そいつは申し訳ねえが。俺はあんたに負ける気がしないぜ!」


 『クスノキ商会』の問題児クリスとは、ヒュウガは会う度にガチガチやっている。

 現時点ではクリスの方が格上で。2人が最初に会ったときの殴り合いでは、クリスがヒュウガをボコボコにした。


 しかし、どんなにボロボロになっても、ヒュウガは立ち上り、目は決して死ななかった。そんなヒュウガにクリスは内心で恐怖を感じたのか、以降は殴り合いになることはない。


「人間の中にも、強い奴はたくさんいるようだな」


「そうね。この街に来て良く解ったわ。セイヤにヒュウガ。あの2人も、私たちより確実に強いわ」


 魔族の流浪者はぐれものバトリオとイメルダは、そんなヒュウガたちの鍛練の様子を眺める。

 バトリオとイメルダは『自由の国フリーランド』の衛兵としてアリサの配下に加わって。2人の子供のトリスタと一緒に城塞の兵舎で暮らしている。


 『自由の国』に魔族の衛兵はバトリオとイメルダの2人しかいないが、アリサは特別視しないで。2人を実力だけで判断して、人間の傭兵や冒険者と同じように扱っている。


 『自由の国』で働く傭兵や冒険者たちは、魔族に対する偏見が比較的少ないことと。傭兵も冒険者も、結局は実力主義だから。実力があるバトリオとイメルダに一目置いて。今のところ、大きなトラブルは起きていない。


※ ※ ※ ※


 ヒュウガたちが『自由の国』に来てから数日後。

 俺は魔界の国イスペルダの首都イズルに向かった。魔神エリザベートに、この世界の天界と神について訊くためだ。


「勇者の力を封じるマジックアイテムが天界に存在するかだと? アリウス、おまえは、また面倒なことに関わっているようだな」


 巨大な玉座に、玉座の大きさに相応しいサイズの魔神エリザベート・イルシャダークが、片肘をついて座っている。

 血のように赤い髪と金色の瞳の美女。褐色の肌に赤銅色の甲冑を纏う姿は、魔神というよりも闘神という感じだ。


 フレッドは勇者を辞めたけど、勇者のスキルという爆弾を抱えたままだ。勇者のパッシブスキル『魔道具破壊アイテムブレイク』のせいで、マジックアイテムで勇者の力を封じることができなくなったからな。


 だけど『魔道具破壊』も聖属性の魔力を付与したモノは破壊できないから。魔力を封じる聖属性のマジックアイテムが存在すれば、勇者の力を封じることができるかも知れない。


 魔力を封じるマジックアイテムは、普通は魔力属性を持たないけど。もしそんなマジックアイテムが存在するとすれば、一番可能性が高いのは天界だ。


「僕はアリウスらしいと思うけど。だけど残念ながら、天界にどんなマジックアイテムが存在しているかまで、僕は把握していないね」


 魔神エリザベートの隣に用意された人間サイズの椅子に座っているのは、魔神ニルヴァナ・ハンティエルド。

 両目を包帯で覆った白い髪の女子の姿で、身長は170cmくらい。顔立ちは整っているけど、蝋のように白い肌と痩せた身体は、まるで人形のようだ。


 なんで魔神ニルヴァナまでいるのかと言うと、魔神エリザベートがニルヴァナに俺が来ることを話たら、面白そうだから同席させろと言って来たそうだ。


「何れにしても、天界で神たちに直接訊くのが手っ取り早い。今のアリウスは我らを超える力を持つ存在だから、自分が天界に行けば、神たちが警戒すると危惧するのは解るが。おまえの力なら、力ずくで黙らせれば良いだけの話であろう」


 魔神エリザベートが獰猛な笑みを浮かべて言う。


「エリザベートは暴力で解決するのが好きだからね。だけどアリウスは、できれば無益な戦いはしたくないんだろう。

 ならば僕が天界の神たちと話をしてみようか? 僕は彼らと繋がりがあるからね」


「ニルヴァナ……やはり貴様は、天界と通じていたのか。貴様ならやりかねたいと思っていたが」


 魔神エリザベートが呆れた顔をする。


「エリザベート。ほんの少し前まで、僕たちは魔神同士で敵対していたんだから。自分が勝つために最善を尽くするは当然だろう? だけど天界の神たちは頭が固くて、聞く耳を持たないからね。話をするだけでも苦労したよ」


 『RPGの神』がこの世界の魔神と神を唆して、俺を殺そうとしたとき。天界の神たちは結局、何の動きも見せなかった。

 不気味なくらい静かに沈黙を保っていたけど。魔神ニルヴァナが裏で動いていたってことか。


「アリウスは何か勘違いしているようだけど。天界の神たちがアリウスを狙わなかった理由は、僕が画策したからじゃない。天界の神たちが、魔神よりも傲慢だからだよ」


 魔神ニルヴァナが見透かしたように言う。

 結局、魔神の中でも『RPGの神』の誘いに乗ったのは、魔神シャンピエールだけだ。強大な力を持つこの世界の神たちは、『RPGの神』の言葉を無視してたってことか。


「ニルヴァナ陛下、悪いけど天界の神と話をしてくれないか。俺はフレッドの勇者の力を封印したいんだよ。勇者の力を強制手的に使わせるスキルが、存在する可能性があるからな」


 ブリスデン聖王国のジョセフ公爵は、ハッキリと答えた訳じゃないけど。奴の反応から、俺は確信している。

 もしそんなスキルにフレッドが覚醒したら、あいつに沢山の人を殺させることになる。


「アリウスは魔神の僕に、気楽に頼みごとをするね。まあ、神と話をするくらいは構わないけど。あまり期待しないで欲しいものだね」


 魔神ニルヴァナは揶揄からかうように笑う。包帯で両目を隠しているから、表情から意図を読み取るのは難しいけど。


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