第271話:歓迎の意味

 ヒュウガと仲間たちが『自由の国フリーランド』に到着したのは、翌日の午後。

 普通に移動すると時間が掛かるから、荷物を纏めたこいつらを、俺が『転移魔法テレポート』で全員連れて来た。


 10人以上を同時に転移させたことに、ヒュウガの仲間たちは驚いていたけど。SS級冒険者でも、これくらいできる奴はいるからな。


「あんたら、よう来たな。うちがアリウスはんの名代、『自由の国』総督のアリサ・クスノキや」


 アリサはヒュウガたちを城塞の広間に集めて、ニヤリと笑みを浮かべる。ここからは全部アリサに任せているから、俺は見ているだけだ。


「まずは契約書や。変なことは書いてへんけど、きちんと読んでからサインするんやで」


 アリサが用意した契約書は、『自由の国』がヒュウガたちを冒険者として雇うためのもので。『自由の国』が魔族の領域に接していることもあって、報酬は相場の二倍ほど。辞めるときはアリサの許可・・・・・・が必要という以外は、特に重要なことは書かれていない。


 ヒュウガがサインすると、仲間たちも次々とサインする。中身を読んだのか怪しいけど。全員がサインするのを待って、アリサは説明を続ける。


「ヒュウガはSS級冒険者やから別メニューやな。リョウ、ヒュウガのことはあんたに任せるで」


「ああ。承知した」


 黒髪に眼鏡の男リョウ・キサラギは、冒険者パーティー『クスノキ商会』の刀使いだ。ヒュウガと同じSS級冒険者だけど、リョウの方がレベルが高いし、総合力では数段格上だろう。


「ヒュウガ以外は全員、セイヤ、あんたが面倒を見るんや。何をしたら良えか、解っとるやろう?」


「ええ、アリサ総督・・。僕はこいつらが真面に戦えるように、仕込めば良いんですよね」


 セイヤはアリサがフレッドの勇者パーティーに送り込んだSS級冒険者で。セイヤ・マクガフィンという名前で冒険者登録しているけど、本名はセイヤ・クスノキ。アリサの弟だ。

 勇者パーティーが解散した後。アリサはセイヤを自分の配下として使うために、『自由の国』に連れて来た。


「おい、真面に戦えるように仕込むだと? ふざけるんじゃねえ、俺はA級冒険者だぜ! 魔術士のてめえに、何ができるんだよ!」


 セイヤの言葉に、早速、巨漢の入れ墨男ロギンが噛みつく。


「おい、ロギン。てめえ――」


「ヒュウガ、構いませんよ」


 割って入ろうとしたヒュウガを、セイヤが止める。


「A級冒険者程度で、イキがらないでください。僕もここでは新参者ですけど。貴方が使えない・・・・ことくらいは解りますよ」


 呆れた顔をするセイヤに、ロギンは眉間に青筋を立てる。


「何だと、てめえ……舐めたことを言いやがって! 俺が使えねえかどうか、実力で解らせてやるぜ!」


 ロギンは怒り任せに、セイヤに殴り掛かる。

 ローブ姿のセイヤは、如何にも魔術士って感じで。身長は180cmくらいあるけど、身体つきは華奢に見える。それに対してロギンは身長2m超の巨漢だ。見た目だけで判断すれば、殴り合いで勝つのはロギンの方だろう。


 だけどセイヤはロギンの拳を掌で受けると、同時に背負い投げの要領で巨体を飛ばす。ロギンは顔からモロに床に叩きつけらて、くぐもった呻き声を上げる。セイヤの奴、わざとやったな。

 セイヤは続けざまに、ローブの下に隠し持っていた剣を抜くと。ロギンの首元に突きつける。


「格好だけで相手を判断するとは、本当に使えませんね……って、もう意識を失っているんですか? これくらいで戦闘不能になるなんて論外ですよ」


 ロギンはピクリとも動かない。赤い血が床に広がっていく。

 唖然とするヒュウガの仲間たち。セイヤは他のヒュウガの仲間たちを見渡す。


「まだ文句がある人がいるなら、纏めて掛かって来ても構いませんよ。僕はこう見えても、貴方たちのリーダー、ヒュウガと同じSS級冒険者ですから」


 ヒュウガの仲間たちは何も言わない。いや、言えないんだろう。ヒュウガの仲間たちは恐怖の色を顔に浮かべて、セイヤを見ている。


「まあ、貴方たちはレベルの問題じゃなくて、根本的に使えませんから。僕が徹底的に鍛えてあげますよ。訓練中に死なないように、気をつけてくださいね」


 セイヤはロギンの巨体を軽々と持ち上げると。


「床が汚れましたね。貴方たちで掃除して貰えますか?」


 ヒュウガの仲間の一人が慌てて『浄化ピュリファイ』を発動する。ロギンの血で汚れた床は一瞬で綺麗になった。


「それでは、皆さん。僕について来てください」


 ヒュウガの仲間たちは青い顔で、セイヤの後に続いて広間を出て行く。


「アリウスはん、騒ぎを起こして悪かったな。うちの弟はああ見えて、気が短いんや」


 アリサは形だけ謝るけど、全然悪びれる様子がない。


「まあ、あいつらのことは、セイヤに任せて問題ないな。ヒュウガ、仲間たちのことが気になるなら、時間があるときに様子を見に行けよ」


「……ああ、そうさせて貰うぜ」


 ヒュウガもセイヤの容赦のなさと、俺たちが止めなかったことに、驚いているようだな。勿論、セイヤが本気でロギンを殺そうとするなら、俺が止めたけど。殺すつもりがないことは解っていたからな。


「では、我々も行くとするか」


 リョウがヒュウガを促す。


「ヒュウガ。アリウスさんから、おまえの話は聞いているが。まずは実力を見極めさせて貰う。その上でおまえの適正に合わせて、『自由の国』における役割を決めさせて貰う」


 リョウは『クスノキ商会』ではアリサに次ぐ実力で、人に教えるのも上手いからな。ヒュウガの足りないところを補うにも、リョウが指導するのが適任だろう。


 リョウとヒュウガが向かったのは城塞の地下にある鍛錬場だ。鍛錬場の壁や床は、最難関トップクラスダンジョン産の魔石で、魔力を付与してあるから。SS級冒険者同士が本気を出しても、問題ないだろう。

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