第270話:選択肢
この日。俺がカーネルの街に向かったのは、ヒュウガから『
午後3時頃に、カーネルの街の冒険者ギルドに行くと。まだ早い時間だからか、ギルドにいる冒険者はヒュウガたちだけで。ヒュウガの仲間たちは大きなテーブルを囲んで、この時間から酒を飲んでいる。こいつらは、ホント、相変わらずだな。
「アリウスさん。時間を取って貰って悪いな」
ヒュウガが申し訳なさそうに言う。細い目が特徴的だが、美男でもブ男でもないフツメン。身長も170cm台半ばで、身体つきは至って普通。目が細いこと以外に、特に特徴のない感じだけど。ヒュウガは仲間たちが一目置くSS級冒険者だ。
「いや、話を聞くくらいは構わないよ。ヒュウガ、遠征に結構時間が掛かったみたいだけど。依頼は問題なく完了したのか?」
ヒュウガたちは、傭兵崩れが勝手に占拠した辺境の城塞を奪還する依頼を請けて、遠征に出ていた。ヒュウガたちが遠征に出たのは9月だから、2ヶ月以上前になる。
「ああ。なんとか城塞は奪還したけど、正直言うと結構苦戦したな。城塞を占拠していた傭兵崩れのリーダー格の実力はS級冒険者クラスで、他にもA級冒険者クラスが何人もいたんだ。他の奴らも戦い慣れしていて、城塞に立て籠られると正面突破は厳しくて。結局、俺が城塞に潜入して潰すことになったぜ」
ヒュウガは仲間たちに経験を積ませるために、あえて自分は前に出ないで戦った。だけどヒュウガの仲間たちは、連携なんて言葉を知らないような連中だから。組織的に戦う相手に苦戦して、城塞の攻略はなかなか進まなかった。
不甲斐ない仲間たちにヒュウガは鉄拳制裁で、どうすれば城塞が攻略できるか、色々教えたけど。何度も危うく死者が出そうな状況になって、結局ヒュウガが自分で攻略することになったらしい。
「何度言っても、あいつらは勝手に動くんだよ。独断先行した奴は集中砲火を浴びるし、後衛を守ろうとする奴なんていない。それなりに実力があるから、なんとか生き残って来たが。同格以上の連中と真面に戦ったら、殺されるのがオチだな」
ヒュウガは仲間たちの方を見て、呆れた顔をする。そんな状況だったのに、仲間たちは気楽に酒を飲んでいる。ヒュウガが鉄拳制裁すれば、その場は反省するけど、直ぐに忘れる。結局のところ、ヒュウガがどうにかしてくれると思っているんだろうな。
「アリウスさんに相談したいのは、あいつらのことなんだ。色々やってみたが、俺じゃ、あいつらをどうにかすることができない。俺はずっとソロで戦って来たし、人に教えるのが上手い方じゃないからな。そこで無理を承知で頼みたいんだが、あいつら全員『
ヒュウガは面倒見が良い奴で、馬鹿な仲間たちを放っておけないけど。自分も1人で戦って来て、基本的には暴力で物事を解決するタイプだから。仲間たちに連携することの大切を教えるのは難しいってことか。
「ヒュウガ。先に訊いておくけど、おまえの仲間たちは承知しているのか?」
「アリウスさん。あいつらに文句は言わせないぜ」
つまり力ずくで言うことを聞かせるってことか。まあ、本当に嫌なら仲間から抜ければ良いだけの話だし。俺は自由に生きる冒険者を『自由の国』に縛りつけるつもりはないけど。こいつらは自由というより、適当に生きているって感じだからな。
「ヒュウガ。もし『自由の国』で仲間たちを引き受けるとしたら、おまえ自身はどうするつもりなんだ?」
「勿論、『自由の国』に一緒に行くぜ。俺はあいつらをアリウスさんに押しつけて、丸投げするつもりはないからな。『自由の国』の近くにもダンジョンはあるだろう? 俺はあいつらに目を光らせながら、時間があるときにダンジョンに行ければ良い」
確かに『自由の国』の街から徒歩で数日の距離にダンジョンはあるし。SS級冒険者のヒュウガなら『
「解った。ヒュウガ、ちょっと待っていろよ」
俺はアリサに『伝言』で大よその状況を伝える。返事は直ぐに帰って来た。
「ヒュウガ。俺も色々とやることがあるから、俺がおまえの仲間の面倒を見る訳じゃないけど。『自由の国』で鍛えるのは構わないよ。だけど『自由の国』のことを任せているSSS級冒険者のアリサは、本当に容赦のない奴だからな」
「ああ、それで構わない。アリウスさん、ありがとう。助かるぜ」
ヒュウガは頭を深く下げると。
「じゃあ、早速話をして来るから」
席を立って、仲間たちが酒を飲んでいるテーブルの方に向かう。
ヒュウガの説明に、仲間たちは全然乗り気じゃない感じだけど。文句を言う奴をヒュウガが拳で黙らせたら、静かになった。
「アリウスさん、待たせたな。あいつら全員に承諾させたぜ」
ヒュウガの仲間たちが恨みがましい目で、こっちを見ている。全然納得しているって感じじゃないな。
「ヒュウガ。あいつらを無理矢理連れて行くなら、俺も話をさせて貰うからな」
俺はヒュウガの仲間たちのテーブルに向かうと。
「おまえらは軽く考えているかも知れないけど。『自由の国』に来たら、一切容赦はしないからな。ヒュウガが怖くて従っているだけなら止めた方が良い」
「アリウス、てめえ……俺たちがヒュウガを怖がっているだと?」
巨漢の入れ墨男ロギンが、怒り任せに立ち上がる。シリウスとアリシアと模擬戦をした金髪ウルフカットのタンク、マウアも俺を睨んでいる。
「いや、そこはどうでも良いんだよ。『自由の国』でおまえたちの面倒を見る奴は、ヒュウガよりも、もっと容赦がないからな。逃げるなら、今のうちだって言っているんだ」
アリサがヒュウガみたいに、殴るだけで済ませる筈がないし。一度、自分の配下に置いたら、こいつらを逃がすつもりはないだろう。
「アリウス、ふざけるんじゃねえ! 誰が逃げるか!」
まあ、そう言うとは思ったけど。一応、選択肢は与えたからな。
「他の奴も良いんだな? 後で文句を言っても、聞くつもりはないからな」
念を押しても、ヒュウガの仲間たちは俺を睨むだけだ。
無理矢理やらせるよりも、自分で選択させた方が逃げ道がなくなる。これでヒュウガの仲間たちも少しは頑張るだろう。
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