第269話:警戒


※フレッド視点※


 ほんの数ヶ月ぶりだけど。アーチェリー商会の看板が、懐かしく感じる。


「みんな、ただいま」


 入口の扉を潜ると。俺に気づいた従業員が、マジマジと顔を見る。


「みんな、フレッドさんが帰って来たぞ!」


 集まって来た従業員たちに囲まれる。騒ぎを聞きつけて奥から出て来たのは、俺の両親と兄だ。


「フレッド……お帰りなさい!」


 母親に思い切り抱きつかれる。


「良く無事で帰って来たわね……もう二度度会えないかと……」


 母親に胸で泣かれるなんて、ホント、照れ臭いけど。心配を掛けたんだから、仕方ないだろう。


「フレッド。私もおまえが帰って来たことは嬉しいが……大丈夫なのか?」


 父親が何を言いたいのかは解っている。俺が聖都に連れて行かれたときは、突然やって来た聖騎士たちに、有無を言わせない感じで連行された。

 俺が勇者になったことは、秘密にされているし。俺だって誰も信じないと思って、家族にも言っていなかった。


 だから、まるで犯罪者のように連行された俺が突然帰って来て。もし俺が脱獄犯だったら、匿うことでアーチェリー商会は犯罪の片棒を担ぐことになる。


 従業員たちを抱えるアーチェリー商会責任者として、父親が危惧するのは当然だろう。


「ああ。父さんが考えているようなことには、ならないから。とりあえず、問題ないよ。だけど色々あって、説明するから時間を取ってくれないか」


 俺は両親と兄に、自分が勇者の力に目覚めたこと。ブリスデン聖王国が、勇者の力を利用しようとしていたこと。アリウスがジョセフ公爵と聖王ビクトルを止めてくれたことを、順を追って説明する。


 両親と兄の反応は、半信半疑って感じだけど。こんな話を突然聞かされて、簡単に信じる筈がないからな。端から否定されないだけマシだろう――そんなことを、俺が考えていると。扉をノックする音がする。


「フレッドさんにお客様です」


 従業員の声に、父親が訝しげな顔をする。俺が帰って来た直後に客が来るなんて、タイミングが良過ぎるだろう。


「家族団欒で話しているところ、悪いな。邪魔するで」


 返事を待たずに、扉を開けて女が入って来る。高価な革のローブと、大きな宝石が幾つもついた首飾り。白い髪と金色の瞳が印象的な美人だ。


「アーチェリー商会の皆さん、初めまして。うちは『自由の国フリーランド』の名代を務めるアリサ・クスノキや。『クスノキ商会』のアリサと言うた方が、解り易いか?」


 アリサの言葉に、俺の両親と兄が反応する。うちの家族はみんな、情報の価値が解っている商人だからな。アリウスが創った人間と魔族が共存する『自由の国』のことも、冒険者なのに『クスノキ商会』なんて名前のパーティーを組んでいるSSS級冒険者アリサ・クスノキのことも知っているんだろう。


「アリサ閣下。フレッド・アーチェリーです。アリウスとはさっき別れたばかりですけど、俺に何か用ですか?」


「フレッドはんは、アリウスはんの友だちなんやろう? うちのことも呼び捨てでええわ。うちが用があるのは、フレッドはんやなくて、あんたの家族やで」


 アリサは俺の両親と兄を見る。


「フレッドはんから話は聞いたと思うけど。フレッドはんが言ったことは全部・・本当やで。新たな勇者として覚醒したフレッドはんを利用しようと、面倒な奴らが仰山動くやろうからな。あんたらもアーチェリー商会の人間も、家族を含めて用心した方がええで。家族を拉致して言うことを聞かせるなんて、面倒な奴らが使う常套手段やからな」


 アリサは俺たちに説明する。アリウスの要求によって、ブリスデン聖王国が俺たちを守るために動いているけど。四六時中張りついている訳じゃないから、守られる側が用心しないと、守り切れるものじゃないと。


 つまりアリサは、俺が言っても家族が信じないと思って、警告しに来たのか。確かに俺が言っても半信半疑って感じだったけど。まるで見ていた・・・・・・・ような素早い対応だな。


「フレッドはんを狙っとるのは、アーチェリー商会を丸ごと潰すくらい平気でやるような連中やで。まあ、商いをしている以上、用心するにも限界があるやろうけど。面倒な奴らの中に、ブリスデン聖王国の権力者や、東方教会の連中も含まれるからな。知り合いも含めて・・・・・・・・、用心することやな」


「ブリスデン聖王国が私たちを守るなど……いくらアリウス陛下が要求されたと言われても、信じられません」


 俺の父親が言う。ブリスデン聖王国という国が、一商会の人間を守るなんて。信じられないのは、もっともな話だけど。


「そこは信じなくても構へんわ。いずれ解ることやしな。とにかく、あんたらは用心するんやで。良く憶えておきや」


 話は済んだと、アリサは部屋を出て行こうとする。アリサが扉を開けると、部屋の外に俺が知っている奴がいた。

 もう解散したけど。俺と勇者パーティーを組む筈だった、SS級のセイヤ・マクガフィンだ。だけど、なんで今さらセイヤが……俺は警戒心を強くする。


「アリサ姉さん・・・。早速、東方教会の馬鹿が仕掛けて来ましたよ。ブリスデン聖王国の衛兵が対処しましたけど」


「解っとるわ。うちも『索敵サーチ』で見張っていたからな。聖王国の番犬にも、これくらいは働いて貰わんと」


 アリサは当然のように応える。だけどセイヤとアリサって姉弟なのか? 確かに髪と瞳の色は同じだけど、喋り方や雰囲気が全然違うからな。


「フレッド、久しぶりですね。もう元になりますけど、僕はアリサ姉さんの伝手・・で勇者パーティーに入ったんですよ。僕以外に誰も真面な人がいなかったので、解散して清々していますけど」


 つまりアリサがセイヤを、勇者パーティーに送り込んだってことか。


「アリサさん。アリウスはセイヤのことを知っているんですか?」


「当然や。けどアリウスはんは、フレッドはんを騙そうとした訳やないで。フレッドはんに訊かれたら、アリウスはんなら素直に答えたと思うわ」


 だったら先に教えてくれとは思うけど、アリウスを疑うつもりはない。

 それよりもジョセフ公爵が、アリウスの掌の上で踊らされていたことを知って、アリウスは凄い奴だと改めて思う。


「フレッドはん。あんたらの周りは、うちらも見張っとるけど。うちやセイヤが直接見る訳やないから、ほんまに用心してや」


 そう言うと、アリサとセイヤは一瞬で姿を消す。たぶん『転移魔法テレポート』を使ったんだろう。

 だけど俺の両親と兄が見ているところで、わざと見せつけるように魔法を使ったのは、警戒心を煽るためだろう。


 アリサとセイヤが帰った後。両親と兄はもう一度確認するように、俺たちが置かれている状況について訊いた。

 俺は同じような説明を繰り返したけど、アリサの話の後だと全然反応が違って。これからアーチェリー商会の従業員たちに、どう説明するか。4人で真剣に話し合うことになった。


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