第264話:本気
「とりあえず、状況は大体解ったよ。確かに俺はフレッドを殺すつもりはないけど。俺が人を殺せないか、試してみるか?」
俺は王弟ジョセフ公爵と、聖騎士団副団長のロザリア・オースティンの前に姿を現わす。
私室で腹心のロザリアと2人きりだからと言って、ジョセフ公爵がここまでペラペラ喋ると思わなかったけど。
フレッドが『
「侵入者だ! おまえたち、何をしておる!」
ジョセフ公爵が部屋の外に控える護衛たちに向けて叫ぶ。
「ホント、学習能力がない奴だな。この部屋の声は外に聞こえないし。魔法で部屋を封じたから、出入りも一切できない。完全な密室って訳だ」
ジョセフ公爵とロザリアは密談していたんだから。しばらく部屋に入ろうとする奴もいないだろう。
「アリウス・ジルべルト! 貴様、どういうつもりだ?」
ロザリアが叫ぶ。いきなり切り掛かって来ないのは、俺に勝てないことが解っているからだろう。
ジョセフ公爵を背中に庇うように、ロザリアは立ち塞がる。
「ロザリア、おまえは本当に優秀だよな。ジョセフ公爵なんか見限って、俺たちの『
「アリウス! 貴様は、何を馬鹿なことを! 私が閣下を……」
「ロザリア、やはり貴様はアリウスと通じていたのか! この裏切者め!」
ロザリアの言葉を遮って、ジョセフ公爵が睨みつける。ロザリアの性格を考えれば、裏切る筈がないだろう。
「ジョセフ閣下、アリウスの戯言に騙されないでください! 私が忠誠を誓うのは、ブリスデン聖王国とジョセフ閣下だけです!」
ジョセフ公爵は判断に迷っている。
部下を信じられない奴の下で働くなんて、ロザリアには同情するけど。揺さぶりを続けていても、話が進まないからな。
「ジョセフ、随分と余裕だな。ここは密室だって言っただろう。つまり俺がおまえを殺しても証拠は残らないし。王宮で王弟を殺されたら、ブリスデン聖王国の無能さを宣伝することになるよな」
ジョセフ公爵はニヤリと笑う。
「アリウス、脅しても無駄だ。貴様に人は殺せんだろう?」
「いや、5年前のことで勘違いしているみたいだけど。俺は無駄に殺すことが嫌いなだけで。これまでに結構な数を殺しているからな。ロザリア、おまえなら俺のことを調べた筈だから、それくらい知っているよな?」
ロザリアは何も答えない。ロザリアの沈黙に、ジョセフ公爵が焦り出す。
「俺はおまえたちと交渉に来たんじゃない。要求しに来たんだよ。
勇者フレッド・アーチェリーを今直ぐ解放して、アーチェリー商会と商会に関わる人間に今後一切干渉するな。要求を飲まないなら、おまえたちを殺す」
俺は本気で怒っているんだよ。内政干渉だろうと構わない。
フレッドたちの資産を保障して、新しい場所で商売を始める支援をすることはできるけど。フレッドたちにとって一番良いことは、今まで通りの生活を続けることだ。
「ジョセフ。この場だけ取り繕っても、意味はないからな。俺がいつでもおまえを殺せるってことを、理解しているのか?
俺が王宮に潜入することを止める方法なんて無いんだよ。国際問題にして抗議しても、そもそも証拠がないし。俺は『自由の国』の国王だからな。全部責任は俺が取るから」
だけど本題はそこじゃない。フレッドの勇者の力を封印できない以上、フレッドは爆弾を抱えているようなモノだからな。
こいつらが勇者の力を使ってやろうとしていることを、根元から潰す必要がある。
「ジョセフ。おまえの狙いは勇者の力で、魔族の国ガーディアルの同盟国のロナウディア王国やグランブレイド帝国にダメージを与えることだろう?」
ジョセフ公爵が何か応えようとしたから、『
「ジョセフ、おまえが正直に応えるなんて思っていない。だから俺の話が終わるまで、何も応える必要はないからな」
俺はジョセフ公爵の反応から、探るつもりだ。
「これから言うことは、俺も確証がある訳じゃないけど。勇者の力を使えば、こんなことができるって話だ」
俺はこれまで集めた情報から、ジョセフ公爵がやろうとしていることを想定している。
「おまえたちが傭兵を集めたのはブラフだろう。『
『
勇者を守る勇者パーティーだけいれば、兵力は現地で調達できる。
「これが第一段階で。勇者のスキルでダメージを与えたところに、人間を敵視する魔族の氏族に襲撃させるのが第二段階。
これで目障りな魔族の国の同盟国を崩壊させて。同時に、人間と魔族の共存なんて戯言だと、世界中にアピールすることができるからな」
第二段階については、ジョセフたちじゃ魔族を動かすことはできないけど。本当の黒幕はブリスデン聖王国じゃなくて『RPGの神』だからな。『RPGの神』なら、魔族の氏族と通じるなんて簡単だろう。
「途中で失敗しても。おまえたちは勇者パーティーを切り捨てれば良いだけの話だ。
ブリスデン聖王国に、新たな勇者が誕生したと神託があっただけで。勇者パーティーの口を封じれば、ブリスデン聖王国が関与した証拠は何もないからな。
フレッドの家族とアーチェリー商会という人質もいることだし。勇者パーティーのメンバーだって、口を封じることを前提で選定したんだろう?」
初めに言ったように、これは全部俺の想定に過ぎないけど。実際に可能なことだ。フレッドが同意さえすればな。
「ここからは俺の勝手な想像だけど。まだ覚醒していない勇者のスキルの中に、勇者自身を強制的に狂戦士化させるか、自由に操れるスキルが存在するんじゃないか?
フレッドの性格を考えれば、おまえたたちが『神』と呼んでいる奴が、用意しないとは思えないからな」
『魔道具破壊』は魔王アラニスも知らなかったスキルで。初めから勇者のスキルとして用意していたにしては、他のスキルと比べて異質だ。
つまり俺が勇者の力を封じるアイテムを持っているから、『RPGの神』が対抗するために与えたスキルだろう。
だから他にも『RPGの神』にとって都合が良いスキルが、存在すると考えるべきだな。
ジョセフ公爵の反応から、たぶん俺の想像は当たっている。
フレッドみたいな性格の奴を、勇者にしたのも、俺に手出しをさせないためか。もっと嫌な奴なら、俺がとっくに潰しているからな。
勇者を強制的に狂戦士化するか、操ることができるスキルが存在するなら。ジョセフ公爵の反応から見ても、俺の想定は大体合っているだろう。
SSS級冒険者クラスなら、勇者を止められるかも知れないけど。そいつが『勇者の支配』の影響を受ける可能性があるから、下手に手出しできない。まったく、面倒なことをしてくれるな。
魔王アラニスを標的にしないのは、アラニスを倒すには、勇者の力じゃ全然足らないし。そもそもアラニスは『RPGの神』の使徒だからな。
さあ、ここからが
「じゃあ、次は俺の
おまえたちが『神』と呼んでいる奴にとって、おまえたちは只の駒だからな。おまえたちを殺しても、代わりの駒を使うだけの話だろう。
だからおまえたちには、俺のために『神』に抗う駒になって貰う」
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