第265話:破壊
「おまえたちには、俺のために『神』に抗う駒になって貰う」
「アリウス・ジルベルト、貴様、我々を駒などと……」
ロザリアが俺を睨みつける。
ジョセフ公爵も何か言っているけど。こいつには『
「何だよ、自覚がないのか? おまえたちは『神』って奴の言いなりで動いているだけだろう。まあ、そこはどうでも良いんだけどさ。
おまえたちにはフレッドと家族、アーチェリー商会の人間全員を、利用しようとする奴や、傷つけようとする奴から守って貰う。もしフレッドたちに何かあったら、誰がやったのかは関係なしに。ジョセフ、全部おまえに責任を取らせるからな」
「アリウス、貴様は何を言っている? 我々に関係ないことまで、ジョセフ閣下が責任を取るなど。そんな無茶苦茶なことを、良く言えたものだな!」
「ロザリア、おまえは少し黙っていろよ。俺はジョセフに話しているんだ。おまえはジョセフの代わりに責任が取れるのか?」
ロザリアが悔しそうな顔をする。
「だったら、ジョセフ閣下に掛けた魔法を解け」
「ああ。俺の話が終わったらな」
ロザリアを放置して、俺は話を続ける。
「フレッドの勇者のスキルを成長させたのは、おまえたちだ。そのせいでフレッドが狙われたら、守るのは当然の責任だよな。
ブリスデン聖王国には、おまえたち以外にも勇者の力を利用しようとする奴はいるだろう。他の国や東方教会、それに犯罪組織の『奈落』とかも、おまえたちが動きを止めたら、おそらくフレッドを狙って来る。『神』がそいつらを唆すからな。
フレッドの家族やアーチェリー商会の人間も守れよ。フレッドを誘き寄せるために使われる可能性がある。
守れなかったら、ジョセフ、おまえを殺すのは当然として。俺がブリスデン聖王国を滅ぼす。罪のない一般人を殺すつもりはないけど。ブリスデン聖王国という存在をこの世界から消し去ってやる」
今も俺は人を使って、フレッドの家族とアーチェリー商会の周囲を監視しているから、何かあれば直ぐに解る。勿論、ジョセフたちが動くまで放置するつもりはないけど。アーチェリー商会の人間全部を守るには、相当な人員が必要だからな。こいつらに働いて貰う。
とりあえず、必要なことを伝えたから。ジョセフに掛けた『沈黙』を解除する。
「なあ、ジョセフ。魔法を解除したから、もう普通に喋れる筈だ。良く考えて答えを出せよ」
「アリウス、私がこのような脅しに――ギャャャ! わ、私の腕がぁぁぁ!」
ジョセフ公爵が騒いでいるのは、両腕を切り落としたからだ。噴き出す血が部屋中を赤く染める。
ミリアが『
「ジョセフ閣下!」
ジョセフに『
「アリウス、貴様……」
ロザリアが中で暴れているけど。こいつに俺の『絶対防壁』は破れないからな。
「ジョセフ。俺の要求を飲まないなら、おまえを殺してビクトル聖王と話をするよ」
先にジョセフ公爵と話したのは、こいつが勇者を利用しようと企んだ主犯だってこともあるけど。ジョセフ公爵が使えなくても、こいつを殺すことで俺が本気だと、聖王ビクトルに教えるためだ。
「ま、待ってくれ……ど、どうか、命だけは……」
失血死しそうなジョセフ公爵を『完全治癒』で回復させる。
「ジョセフ、おまえも自分の命は惜しいのか。だけど次はないからな」
こいつには俺の敵になるとどうなるか、もう少し教えておく必要があるな。
俺はジョセフ公爵を『絶対防壁』に閉じ込めると、『
2人とミリアを連れて向かった先は、ブリスデン聖王国の北部にある辺境地帯の上空。荒れ果てた土地に岩山が連なっている場所だ。
「アリウス、我々をどうするつもりだ?」
『絶対防壁』の中のロザリアが警戒する。ジョセフ公爵は恐怖の目を俺に向ける。
「おまえたちを今直ぐ、どうこうするつもりはないよ。まあ、ここで少し待っていろ」
俺は岩山の上空で『
ジョセフ公爵とロザリアは『絶対防壁』の中にいるから効かないし。ミリアにも別の『絶対防壁』を発動しているから問題ない。
俺が高速で飛び回ると、周囲にいた魔物や他の生き物たちが一斉に逃げ出す。
ちょっとしたスタンピード状態だけど、周囲に人間は住んでいないし。効果時間が短いから問題ないだろう。
周囲から生き物が粗方いなくなったことを確認すると。俺は岩山に向けて、魔力を集束した光の球体を放つ。
魔力の球体は一気に膨張して、巨大な光のドームが闇夜に出現する。
そして光が消えると――岩山が消滅して、直径2kmほどのクレーターができた。
小さな『絶対防壁』が無数に浮かんでいるのは、逃げ遅れた生き物たちを守ったからだ。こんなパフォーマンスのために、無意味に殺すつもりはないからな。
ジョセフ公爵とロザリアは呆然としている。
「俺が聖都を破壊して、おまえたちだけを殺すことができることは理解したか? ジョセフ、これが最後通告だ。俺の要求を全部飲むか、それとも敵として俺と戦うか。好きな方を選べよ」
これは脅しじゃない。こいつらが同じことを繰り返さないために、俺は本気でブリスデン聖王国を滅ぼすことも考えている。
だけど破壊は何も生まないからな。
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