第263話:潜入
俺は『
直接王宮の中に直接転移することもできるけど。仕掛けるタイミングを計る必要があるし。このまま突入すると、ミリアも一緒に連れて行くことになるからな。
俺は聖都ブリスタに偽名で借りている宿屋の部屋に、一旦転移する。
この部屋を借りたのは、聖都の中に確実に転移できる場所を確保するためと。ここから王宮までは、それなりに近いから。俺の『
「俺はタイミングを見て、ジョセフ公爵のところに行くつもりだけど。ミリアはどうする?」
「ここまで来たんだから。アリウスが迷惑じゃないなら、私も一緒に行きたいわ」
「迷惑なんてことはないけど。ジョセフ公爵の性格を考えると、ミリアを標的にする可能性があるからな。俺が『
ミリアも5年前に俺と一緒にブリスデン聖王国の王宮に行っているから、ジョセフ公爵にミリアの存在は知られている。今回は交渉というよりも、喧嘩を売りに行くようなモノだからな。ミリアに余計なヘイトを向けたくない。
「うん、解ったわ。フレッドさんには、アリウスなら心配ないって言ったけど。アリウスがどんなに強くても、私たちは心配するんだからね。絶対に、無茶はしないでよ」
「ああ。ミリア、解っているよ」
俺は『
ブリスデン聖王国の王宮には、何度も潜入しているから。王宮の構造し全部把握している。
ジョセフ公爵は王宮の広間で、聖王ビクトルと一緒にいる。周りの魔力の動きと配置から、謁見でもしているんだろう。今仕掛けるのは得策じゃないな。
聖騎士団副団長のロザリア・オースティンが王宮にいることも確認したし。後は待つだけだな。
「とりあえず、もう少し待った方が良いみたいだな。ミリア、一緒に昼飯でも食べに行くか」
王宮の中を『索敵』で捉えられる範囲にある、オープンカフェのような店に行く。念のために、俺とミリアは『変化の指輪』で姿を変えた。
動きがあったのは、夜になってからだ。公務と会食を終えたのだろうジョセフ公爵が、自室に戻って。ロザリア・オースティンと一緒にいる。仕掛けるなら、今だな。
俺はミリアに状況を説明してから、『転移魔法』を発動して王宮に潜入した。
※ ※ ※ ※
※三人称視点※
「勇者フレッドが『
ジョセフ公爵は玉座のような肘掛椅子に、横柄な態度で腰を下ろしている。
まるで自分こそがブリスデン聖王国の聖王であるかのように。
「ロザリア。アリウス・ジルベルトが、すでに動いていることは間違いないのだな?」
「証拠はありませんが、おそらく間違いないでしょう」
ロザリアはジョセフ公爵の前で片膝を突きながら応える。
「聖騎士のノア・イリエッタとゼスタ・クラウスは、ロナウディア王国の王立魔法学院に留学経験があり。アリウス・ジルベルトと面識があることを知っておりましたので。あえて勇者フレッドの教育係に任命しました。
2人は上手く隠しているつもりのようですが。アリウスと何度も接触しています」
ロザリアは騎士でありながら、諜報活動にも長けている。
そもそも甥であるアレックスが、ロナウディア王国への留学するように仕向けたのはロザリアであり。ノアとゼスタという表向きのお目付け役の他に、侍女の中に監視役を紛れ込ませていた。
目的は無論、アリウス・ジルベルトについて探るためだ。
ノアとゼスタ、アレックスはロザリアから何も聞かされていない。
馬鹿正直なアレックスは論外だが、ロザリアはノアとゼスタの能力は買っている。しかし性格的に諜報活動には向かないと思ったから、2人は好きに動かせて監視することにした。
結果的にアレックス、ノア、ゼスタの3人はロナウディア王国でアリウスたちと知り合いになり。それなりの縁故を築いた。
ならばノアとアレックスを勇者フレッドの教育係にすれば、アリウスの性格なら、2人と接触する筈だと考えたのだが。ノアとゼスタの態度から、アリウスに接触したのは明らかだ。
(あの2人は、つくづく諜報活動に向かない性格だが……人は使いようだな)
「ロザリア。貴様の甥のアレックスも、ノアとゼスタと共にロナウディア王国に留学していた筈だな。まさか貴様が裏切って、アリウス・ジルベルトが勇者フレッドと接触するように、手引きした訳ではあるないな?」
ジョセフ公爵は疑わしそうな顔をする。
「いいえ、ジョセフ閣下。決して、そのようなことは! 私はジョセフ閣下の剣として、閣下とブリスデン聖王国に忠誠を誓っております!」
ロザリアがジョセフ公爵に忠誠を使っていることは事実だ。
ロザリアは頭が回るが、私利私欲で動くような性格ではなく。オースティン聖騎士公家の人間として、聖王国と王家に仕えることを誇りに思っている。
ロザリアが聖王ジョセフではなく、王弟ジョセフ公爵に忠誠を誓っているのは、ジョセフ公爵がロザリアを腹心として抜擢したからだ。
「ロザリア、何を言っておる? 貴様は5年ほど前、アリウスが魔石の取引を持ち掛けて来たときに。私がアリウスを殺そうとしたのを、止めたではないか。あの時点から、貴様はアリウスに通じていたのではないか?」
「閣下、その件については、何度も申し上げておりますが。どうか私を信じて頂けませんか?」
5年前。ロザリアはジョセフ公爵を確かに止めようとしたが。それはアリウスの実力にき気づいて、勝てる筈のない無謀戦いを止めようとしたからだ。
しかしジョセフ公爵も、本気でロザリアを疑っている訳ではない。
ロザリアの判断が正しかったことは、結果を見れば明らかであり。ロザリアの真面目な性格も熟知している。
それでもジョセフ公爵が、ロザリアを痛ぶるような発言を繰り返すのには理由がある。
ジョセフ公爵は自尊心の塊のような男であり、ロザリアが自分よりも優れていることを認めたくない。
だから忠誠心故に逆うことができないロザリアに、言い掛かりをつけて意趣返しをしているのだ。
「まあ、貴様がアリウスと何を企もうと。勇者フレッドが『魔道具破壊』に覚醒した以上、勇者の力を封じることはできんが」
ジョセフ公爵は勇者アベルに勇者の力を封じる首輪を付けた魔族と、アリウスが同一人物だと見抜いた訳ではない。
しかし2人の背後にいるのは魔王アラニスであり、アリウスが勇者フレッドの力を封じることを警戒していた。
だからアリウスと面識があるノアとゼスタを、ロザリアが勇者フレッドの教育係にしたと報告を受けたときは、頭に血が上ったが。ジョセフ公爵が目を瞑ったのは、ロザリアの能力を内心では認めているからだ。
そしてロザリアは目論み通りに、アリウスの動きを掴み。勇者フレッドが勇者の力を封じられる可能性も消えた。
ジョセフ公爵にとっては望ましい状況だが。全てを読んでいたロザリアの優秀さを認めることが癪で、苛立ちは募るばかりだ。
「勇者の力を封じることができなくとも、フレッドを殺せば済む話だが。甘過ぎる
ジョセフ公爵は嘲るように笑う。
「5年前も結局、アリウスは誰一人殺さなかった。我々がアリウスたちを殺そうとしたとのにだ」
ならば神託が示したように、勇者フレッドが
ジョセフ公爵がそんなことを考えていると。
「俺が人を殺せないと思っているのか? 随分と見くびられたようだな」
突然の声に、ジョセフ公爵は目を見開き。ロザリアは反射的に立ち上がって、剣を抜く。
「とりあえず、状況は大体解ったよ。確かに俺はフレッドを殺すつもりはないけど。俺が人を殺せないか、試してみるか?」
銀色の髪と
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