第262話:覚醒
俺たちが港市国家モルガンに旅行に行った数日後。
フレッドから新たな勇者のスキル『
俺は早速、フレッドがノアたちと一緒に鍛錬している
「アリウスさん。いきなりスキルが発動して散々でしたよ」
フレッドが渋い顔をする。『魔道具破壊』はパッシブスキルで、『魔道具破壊』に覚醒するなり、フレッドの装備はすべて破壊されたらしい――服や下着も含めて。
「いきなり全裸とか……フレッド様は何を考えているんですか。フレッド様の粗末なモノなんて、見たくありませんよ」
「おい、ノア。そんなことを言ったら、たとえ事実でもフレッド様が傷つくだろう」
「いや、俺のせいじゃないだろう。それに俺のは別に小さ……」
フレッドが途中まで言い掛けて黙ったのは、ミリアが一緒にいるからだろう。
『魔道具破壊』は勝手にアイテムを破壊するらしいけど。今のフレッドは装備も服も普通に付けている。
「聖属性の魔力を付与した物は、フレッド様の『魔道具破壊』でも破壊できないんですよ。まあ、そういう神託があったんですけど」
ノアの説明に納得する。教会勢力の1つであるブリスデン聖王国なら、聖属性魔力を付与したマジックアイテムを手に入れるのに苦労しないだろう。
大した性能じゃないけど、儀式用に聖属性魔力を付与した服や下着もあるからな。フレッドの剣も聖剣だから壊れていないし。
「『魔道具破壊』ね。
俺は『
「フレッド。これに触ってみろよ」
「アリウスさん。壊れますけど、良いんですか?」
フレッドは俺の意図が解っていないみたいだけど。俺が首輪を投げて、フレッドが掴んむと。首輪は一瞬で砕け散った。
「アリウス、これって……」
ミリアはどういうことか、解ったみたいだな。
「ああ。フレッドの勇者のスキルを、封じることができなくなったな」
一応、上位互換の7番目の最難関ダンジョン『神話の領域』産の指輪も試したけど。フレッドが触れた瞬間、指輪も砕け散った。
これ以上強力な魔力を封じるマジックアイテムを、俺は持っていない。
フレッドは家族を人質に取られた状態だから。ブリスデン聖王国に強制されたら、勇者のスキルを使うしかないだろう。
フレッドはすでにアベルが使った『
魔王アラニスから聞いた話だと、『勇者の支配』は効果範囲内の全ての人間を
「フレッド。とりあえず、鍛錬はしばらく中止だな。
初代勇者は『魔道具破壊』なんてスキルを使うことはできなかった。つまりフレッドが鍛錬を続ければ、さらに凶悪な勇者のスキルに覚醒する可能性がある。
「だけど、アリウスさん。俺が鍛錬を止めたら、ジョセフ・バトラー公爵が黙っていないと思いますよ。ステータス画面を見せたら、鍛錬を止めたことは直ぐにバレでしょうし」
ジョセフ公爵の指示で、フレッドの鍛錬の状況を確認するために。ブリスデン聖王国の連中は、フレッドのステータス画面を定期的にチェックしている。
鍛錬をすることで、フレッドのステータスは伸びているから。鍛錬を止めたら直ぐにバレるだろう。
「ジョセフ公爵とは俺が話をつけるよ。ブリスデン聖王国の王宮に潜入しても、大した情報が掴めないから。そろそろ直接話をするしかないと、思っていたところだしな」
俺も情報収集をサボっていた訳じゃないけど。ブリスデン聖王国の連中は、なかなか尻尾を出さないからな。奴らが勇者の力を使って何をしようとしているのか、いまだに狙いが解らない。
俺が出て行くことで、ブリスデン王国の連中を刺激することになるけど。このままじゃ、埒が明かないし。フレッドに勇者のスキルを強制的に使わせるような真似を、させるつもりはないからな。
「フレッドと約束したからな。おまえの家族とアーチェリー商会の人間の利益と安全は、俺が保証するよ。最悪、ブリスデン聖王国を出で行くことになるかも知れないけど。新しく住むところと、おまえたちの資産は俺が全部保障するし。そこで新しく商売を始められるように、手筈を整えるからな」
フレッドたちが望むなら『
アーチェリー商会は真面な商売をしているし、成長も著しいから。受け入れる側も決して損はしないからな。
「アリウスさん。俺の方から頼んでおいて、何ですけど。どうして、アリウスさんはそこまでしてくれるですか?」
フレッドが戸惑っている。俺のことを疑っている訳じゃなみたいだけど。疑問に思う気持ちは解らなくはない。
「フレッドが協力してくれなかったから、今回の勇者の件は、もっと面倒なことなっていたからな。俺は勇者アベルのときと同じ失敗を繰り返したくないんだよ。だからフレッドには感謝しているんだ」
まだ何もしていないと、勇者アベルを放置したことで。魔族に犠牲者を出すことになったからな。今回は魔族にも人間にも、犠牲者を出すつもりはない。
「だとしても、ですよ。アーチェリー商会の資産を保障したり。住むところや、新しく商売を始める面倒まで見てくれるなんて……」
「アリウスは、
ミリアが嬉しそうに口を挟む。
「アリウスにそれだけの力とお金があるから、できることだけど。アリウスは人のためにやることに、何かを惜しんだりしないわ。ちょっとやり過ぎって気もするけど」
ミリアは俺の方を見て、悪戯っぽく笑う。
「アリウスはフレッドさんのことを、友だちだと思っているのよ。アリウスは友だちのために、自分がしたいことをするんだから。フレッドさんも遠慮しないで『ありがとう』って言えば良いのよ」
「俺がアリウスさんの友だち……」
フレッドがまじまじと俺を見る。
「何だよ、フレッド。友だちと思っていたのは、俺の方だけなのか? 結構、傷つくんだけど」
俺が
「い、いや、そういう訳じゃ……
フレッドは顔をしかめてから、真っ直ぐに俺を見る。
「アリウス、本当にありがとう。心から感謝するよ。だけど俺たちのために、絶対に無茶はしないでくれよ」
「まあ、俺にとっては全然無茶なことじゃないからな。ジョセフ公爵のところに行って、文句を言って来るよ」
「フレッドさん、アリウスのことは心配しなくても大丈夫よ。ジョセフ公爵じゃ、相手にならないわ」
ミリアが全然心配していないから、フレッドが驚いている。ミリアはそれだけ俺のことを信頼してくれているんだけど。
「アリウス陛下。
ゼスタが文句を言う。ここまで聞いてしまったら、ゼスタは立場的に上に報告しない訳にはいかないからな。
ノアの方は、すでにブリスデン聖王国を裏切るつもりだから。関係ないって顔をしているけど。
「それにフレッド様と友だちって……アリウス陛下はいつから、フレッド様と繋がっていたんですか? もしかして、ここで最初に会ったときから、フレッド様とグルで……」
「ゼスタ、騙したのは悪かったけど。あのときは、おまえたちの出方が解らなかったからな」
俺は素直に認める。ゼスタは釈然としない顔をしているけど。
「ところで、聖騎士団副団長のロザリア・オースティンがフレッドの教育係になった筈だよな。ロザリアはどうしたんだ?」
ロザリアがいないことは『
「アリウス陛下は全部お見通しなんですね。ロザリア副団長はフレッド様が新たなスキルに覚醒した件で、ジョセフ公爵に呼ばれて。聖都ブリスタに戻っていますよ」
ブリスデン聖王国も動き出すってことか? まあ、ロザリアが聖都にいるなら
「いずれにしても、ゼスタが悩む必要はないよ。おまえが何かする前に、俺が動くからな」
『
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