第247話:教会勢力

今回も書籍版に関する新しいお知せが、下にあります。


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 新たな勇者フレッド・アーチェリーの鍛錬は、順調に進んでいるらしい。まあ、順調に進んで欲しいなんて、思っていないけどな。


 フレッドに2つ目の勇者のスキル『勇者の軍勢ブレイブフォース』が覚醒した。

 先代勇者のアベルは『勇者の軍勢』に覚醒するまでに1年以上掛かっている。アベルが全然鍛錬しなかったせいでもあるけど。フレッドは自分で思っているよりも、戦闘に関して才能があることが大きいだろう。


 フレッドが鍛錬をしている中難易度ミドルクラスダンジョン『ランクスタの監獄』に、実際に行って確かめたけど。


「フレッド、おまえは俺より才能があるんじゃないか」


「アリウスさん、揶揄からかわないでくださいよ」


 いや、真面目に言っているんだけど。勇者の力に覚醒するまで、フレッドは護身のために剣術を学んだ程度らしいけど。鍛錬を始めてから2ヶ月、今のフレッドの動きはA級冒険者レベルだ。


 勇者は1,000レベルを超えているから、たかがA級冒険者程度と思うかも知れないけど。真面に鍛錬を始めてたった2ヶ月で、A級冒険者レベルになるとか。勇者の異常なステータスがあるから、他の奴とは条件は違うけど。天才と言って良いレベルだろう。


「アリウス様、フレッド様をそんなに褒めないでください。フレッド様が本気にして、調子に乗ったから困りますから」


「そうです、アリウス陛下。フレッド様なんて、俺たちよりも格下ですから」


 ノアとゼスタはフレッドを馬鹿にしているけど、こいつらも本気じゃなくて。フレッドを発奮させるために、わざと煽っているみたいだな。


 フレッドが『勇者の軍勢』に覚醒したことを知ると。王弟ジョセフ・バトラー公爵は、自分の右腕である聖騎士団副団長のロザリア・オースティンを、フレッドの教育係にした。

 ジョセフ公爵はフレッドの勇者のスキルを成長させることを、最優先にしているってことだな。


 ちなみにフレッドは1,000レベルを超えているから、ブリスデン聖王国にフレッドを『鑑定アプレイズ』できる奴はいない。なのにジョセフ公爵が『勇者の軍勢』に覚醒したことを知っているのは、フレッドのステータス画面を見たからだ。

 フレッドは家族を人質に取られているからな。見せろと言われたら、拒否できないだろう。


 1つ気掛かりなのは、ブリスデン聖王国が諸外国に対して何の動きも見せていないことだ。

 ブリスデン聖王国に新たな勇者が誕生したことを、教会勢力の主だった者は『神の啓示』よって知ったらしい。だから新たな勇者誕生の噂が一気に広まったんだけど。


 ブリスデン聖王国の連中は、自分たちが勇者フレッドを抱えていることを宣伝して、主導権を握るどころか。新たな勇者の存在について、何の言及もしていない。


 ブリスデン聖王国の奴らは、フレッドを本当に捨て駒にするつもりなのか?

 だけど『RPGの神』が新たな勇者を誕生させたことには、何か狙いがある筈だから。そんなことを『RPGの神』許すとは思わないけど。


 ブリスデン聖王国の奴らの思惑を知るには、誰かがブリスデン聖王国の王宮に潜入して探るしかない。俺なら簡単に潜入できるけど、他にもやることがあるからな。

 まあ、一応手は打ってある・・・・・・・から。とりあえず、そいつ・・・に期待するか。


※ ※ ※ ※


 この日。俺は世界迷宮ワールドダンジョンの攻略を早めに切り上げて。『自由の国フリーランド』の街に戻って来た。ある連中と話をするためだ。


「アリウスはん。この程度のことで、手間を掛けさせて悪いな。とにかくアリウスはんと話をさせろと、うちが何を言っても聞かへんのや」


 アリサが呆れた顔で言う。


「まあ、これも俺の仕事だからな。街の外で野営している連中と、話をすれば良いんだよな?」


 『自由の国』の街を囲む外壁の外側に、数日前から2台の馬車が止っている。そこで寝泊まりしているのは、東方教会の祭服を着た連中だ。


 奴らが街の外にいる理由は、街の入口で門番が入ることを拒否したからだ。問題を起こしそうな連中は、一切『自由の国』の街に入れないように指示している。

 この街は人間と魔族が共存するための最初の一歩だから。魔族を敵視する人間や、人間を敵視する魔族にとって、格好の標的になることは解っているからな。


 俺は街を出て、東方教会の奴らが馬車を止めている場所に向かう。奴らは街を囲む外壁の近くに、テントを張って野営している。


 俺が近づいて行くと、祭服姿の奴らが取り囲むように集まって来た。

 人数は12人で、全員が武装している。街の外だから、武装していることは特に問題ないけど。平均レベルは15くらい。東方教会の神官としては強い方だな。


「おい、止まれ。おまえは『自由の国』の関係者か?」


 口髭を生やした一番レベルの高い奴が言う。年齢は30半ばくらいか。

 こいつらは俺の顔を知らないみたいだな。それに今の俺はシャツ1枚にズボンというラフな格好だから、偉そうな奴には見えないだろう。


「俺はアリウス・ジルベルト、『自由の国』の国王だ。おまえたちは俺に話があるんだう?」


「アリウス陛下ご本人でしたか。大変失礼しました!」


 口髭の男は怪訝そうな顔で、他に誰かいないか辺りを見回す。普通に考えれば、国王が護衛なしで来るなんてあり得ないからな。


「俺は1人だ。護衛は必要ないからな。それに陛下なんて敬称は要らないから、普通に話せよ」


「いいえ、そのような訳にはいきません。アリウス陛下、少々お待ちください」


 口髭の男は奥に止めている馬車まで行って、馬車の中に声を掛ける。他の神官たちは無言で俺を取り囲んだままだ。

 まあ、魔族は敵だと公言している東方教会の連中が、俺に敬意を払う筈がないし。口髭の男も口先だけなのは解っている。


 口髭の男が連れて来たのは、白い祭服を着た五十代くらいの太った男。頭頂部が薄くなった髪と丸顔。一見、人が良さそうだけど。


「アリウス・ジルベルト陛下、お会いできて光栄です。私は東方教会の司祭アルゴー・ロペスと申します。陛下にご足労頂き、大変申し訳ありませんが。私たちは街に入ることができませんので、ご容赦ください」


 アルゴーは穏やかな笑みを浮かべる。笑顔に腹黒さが滲み出ているな。


「単刀直入に申します。アリウス陛下は、何故我々のような敬虔な神の信徒が街に入ることを拒むのですか? 我々は『自由の国』に移住するために、遥々はるばるアリスト公国から来たのです。このような酷い仕打ちをされる憶えはありません」


「おまえは何を言っているんだよ? 魔族を敵と決めつける『東方教会』の連中を、『自由の国』に入れる筈がないだろう」


「確かに魔族は我々の……いいえ、全ての人間の敵です。だからこそ、我々は『自由の国』に来たのです。魔族と共存できるなどと、間違った考えを持つ者たちを正すために」


 アルゴーは平然と言う。自分が正しいと信じて疑わないように。


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