第248話:東方教会の理屈


「確かに魔族は我々の……いいえ、全ての人間の敵です。だからこそ、我々は『自由の国』に来たのです。魔族と共存できるなどと、間違った考えを持つ者たちを正すために」


 『東方教会』の司祭アルゴー・ロペスは平然と言う。自分が正しいと信じて疑わないって感じで。


「ですが、アリウス陛下は誤解されています。私たちはあくまでも話し合いに来たのであって、貴方たちと争うつもりはありません。『自由の国』に住む魔族が攻撃するなら話は違いますが、この国に住む魔族は人間との共存を望んでいるのでしょう?」


 争うつもりがないなんて。ホント、良く言うよな。アルゴーは狂信者のフリをしているけど、こいつは腹黒い偽善者だな。


 『東方教会』が『自由の国フリーランド』に散々テロリストを送り込んで来たことは解っている。

 街に侵入しようとしたテロリストたちは、アリサたちが事前に見抜くか。怪しいと思った奴はマークして撃退したから、被害は出ていないけど。


 テロリストをいくら送っても埒が明かないから。『東方教会』はしびれを切らして、ある意味正攻法とも言える形で、アルゴーたちを寄越した訳だ。


 まあ、向こうが暴力に出た方が、対処するのは簡単だからな。『自由の国』はアリサたち冒険者パーティー『クスノキ商会』の他に、冒険者と傭兵を合わせて50人ほど雇っている。全員がB級冒険者クラス以上だ。


 ちなみにアリサが集めた冒険者たちは、自由よりも金を選ぶタイプだから問題ない。冒険者にも色々な奴がいるからな。

 他にもアリサの配下として、一般人を装って街中に潜伏している連中がいる。街に入る時点で選別していることもあって、大抵の暴力沙汰は直ぐに対処できる。


 だけど向こうが話し合いに来たなら、こっちも平和的に対処するしかない。

 国王に逆らうなら、力ずくで黙らせるのも世間的にはありだけど。相手が教会勢力の人間だと、そう簡単にはいかない――


 なんて『東方教会』の奴らは、考えているんだろうけど。


「アルゴー、おまえは何か勘違いしているみたいだけど。俺は『東方教会』の連中と、話し合うつもりなんてないんだよ。話がそれだけなら、俺は帰るからな」


 唖然とするアルゴーに背を向けて歩き出す。


「それと。今、おまえたちがいる場所も『自由の国』の領内だからな。さっさと出て行かないと、力ずくで追い出すからな」


「な……アリウス陛下、どういうつもりですか? 我々『東方教会』の神官を無下に扱えば、世界中にいる信者たちが黙っていませんよ!」


 こいつらは信者を盾にすれば、自分たちの要求を飲むしかないと思っているみたいだけど。


「誰が何を言おうと、俺には関係ないからな。俺と話したいなら、もっとマシな材料を持って来いよ。例えば『東方教会』が魔族は敵じゃないと宣言するとかな」


 『東方教会』の信者は、俺にとっては説得する対象だから。そいつらに迎合するなんて論外なんだよ。


 立ち去ろうとする俺の前に、『東方教会』の神官たちが立ち塞がる。武器を抜かないのは、無抵抗を装うためだな。


「ここは『自由の国』の領内だって言ったよな。おまえたちは自分が何をしているのか、解っているのか? 俺は武器なんか使わなくても、おまえたちを排除できるぞ」


 俺が睨みつけると、神官たちは慌てて道を空ける。それくらいの覚悟なら、初めから立ち塞がるなよ。


 それでもアルゴーたちは、翌日もまだ街を囲む外壁の前に居座っていたから。

 俺が全員纏めて『転移魔法テレポート』で、『東方教会』の本部があるアリスト公国に強制送還した。


※ ※ ※ ※


 それから数日後。俺は魔族の領域を訪れた。目的は『自由の国』の守り手になる魔族をスカウトすることだ。


 闇雲に探しても意味がないから、魔王アラニスに事前に相談した。

 魔族の中には魔族の国ガーディアルにも、氏族にも所属しない『流浪者はぐれもの』と呼ばれる奴らが結構いるらしい。


 『流浪者』は小さな家族単位や1人きりで、荒野で魔物を狩りながら生活している。自分の身は自分で守る必要があるから、総じてレベルが高いそうだ。


 魔族には魔物を使役する能力があるけど。これは魔物をテイムする魔族特有のスキルで。全ての魔物を無条件で使役できる訳じゃないし、使役できる数にも制限がある。

 初見の魔物は普通に襲って来るし。自分よりも強い魔物は使役できない。だから魔族でも、魔族の領域で小人数で生活することは、結構過酷なんだよ。


 ちなみに魔族の氏族ウルバラーダのロズニールって奴が、5,000体以上の魔物を引き連れて『自由の国』の街を襲ったけど。あれはロズニール1人で5,000体の魔物を使役した訳じゃなくて。同じ氏族の魔族たちが使役した魔物にロズニールに従うように指示して、麻薬を使って暴走させてた。


 俺は空中を高速移動しながら、『索敵サーチ』で少数で活動している強い魔力を持つ奴を探す。俺の『索敵』の効果範囲は半径5km以上――今は効果範囲が広がって、半径10kmくらいだな。


 魔族の領域の中でも、魔族の国ガーディアルや、それぞれの氏族が支配する地域は決まっていて。全部合わせても魔族の領域全体の4分の1にも満たない。残りは全部中立地帯で、『流浪者』はそこで生活している。


 人間と魔族と魔物は、それぞれ魔力の色・・・・が違うから見分けがつく。さらに魔物も種類によって魔力の色が違う。『色』と言うのは言葉の綾で、感覚的なモノだけど。


 強い魔力を持っているだけで、魔族をスカウトする訳にもいかないからな。周囲の状況から当たりを付けて。『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』で姿を隠したまま、近づいて様子を窺う。

 何組かの『流浪者』を見つけたけど、暴力的な奴ばかりで。スカウトする気にはならなかった。


 『流浪者』を探し始めて2時間ほど経った頃。『索敵』が大きな魔物の魔力の近くに、小さな魔族の魔力を捉える。2つの魔力は同じ方向に移動していた。

 俺は一気に加速する。魔族が魔物に追われていることに気づいたからだ。


 直ぐに魔族と魔物が視界に入る。翼のない8m級のドラゴンのような魔物――地龍に、魔族の少年が襲われている。

 地龍はドラゴンに似ているだけの別の魔物で、ドラゴンブレスを吐くことはないし。知能が低いから魔法を使うこともない。


 だけど魔族の少年が追いつかれるのは時間の問題だ。俺は『収納庫ストレージ』から剣を取り出して、地龍の首を切り落とした。


 地龍が地面に倒れた音で、魔族の少年が振り返る。

 魔族は人間よりも長命だから、年齢はイマイチ良く解らないけど。見た目で判断すると、人間で言えば10代前半ってところだ。


「え……何が起こったんだよ?」


 俺は『認識阻害』と『透明化』を発動したままだから、魔族の少年に俺の姿は見えない。俺は剣を『収納庫』に仕舞うと。スキルと魔法を解除して、魔族の少年の前に姿を現わす。


「おまえが襲われていたから、一応助けたけど。余計なことだったか?」


 いきなり現われた俺に、魔族の少年は警戒する。まあ、当然だろう。


「なんで、人間がこんなところに……それに地龍を一撃で倒したのかよ……」


「俺のことはどうでも良いだろう。それよりも、おまえは1人で生活しているのか? 親と一緒なら、あれ・・がおまえの親ってことか?」


 空を飛んで近づいて来る2人の魔族。男と女が1人ずつで、魔族の少年の反応から、仲間なのは間違いないみたいだな。


「トリスタ……貴様、トリスタから離れろ!」


 2人の魔族は俺に気づくと。武器を抜いて、問答無用で突っ込んで来る。

 いや、気持ちが解らなくはないけど。もう少し状況を見極めてから行動しろよ。


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