第249話:流浪者(はぐれもの)
「トリスタ……貴様、トリスタから離れろ!」
空を飛んで来た男女2人の魔族が、問答無用で突っ込んで来る。
俺は『
2人の魔族は『絶対防壁』の中で暴れているけど。こいつらが幾ら攻撃しても、俺の『絶対防壁』はノーダメージだ。
「なあ、落ち着けって。勘違いするなよ。後ろに地龍の死骸が転がっているだろう。こいつが地龍に襲われていたから、俺は助けただけだからな」
「何故壊れない……おい、貴様! 俺たちをここから出せ!」
「トリスタに手を出したら、絶対に承知しないわよ!」
2人の魔族は頭に血を上らせて、話を聞くもりがないみたいだな。こいつらが落ち着くまで待つほど、俺も暇じゃないし。
「俺はもう行くから、あとは勝手にしろよ」
『絶対防壁』は距離が離れたてから解除すれば良い。俺が立ち去ろうとすると。
「ちょっと待って! 俺が説明するから!」
トリスタと呼ばれた魔族の少年は、『絶対防壁』の中の2人に近づく。
「父さん、母さん、話を聞いてくれよ! 俺が地龍に襲われているところを、この人間が助けてくれたんだよ!」
なんか『人間が魔族を助ける筈がない!』とか、『人間なんて信用できないだろう!』とか、言っているのが聞こえたけど。
結局、トリスタが説得したようで。2人の魔族は大人しくなった。
2人の魔族は、見た目はどっちも人間で言えば20代半ばくらいだ。
人間だったら20代半ばで、10代の子供がいたら計算が合わないけど。魔族の年齢は良く解らないからな。
『絶対防壁』を解除すると。2人の魔族は俺を警戒しながら、トリスタを背中に庇うように立つ。
「トリスタを助けてくれたことには礼を言う。勘違いして攻撃したことも詫びよう。だが俺はおまえを、まだ信用できない。何故、人間がこんなところにいる?」
「ちょっと、父さん……」
「トリスタ、おまえは黙っていろ!」
ここは魔族の領域でも奥の方だし。魔族の国ガーディアルや、氏族が支配する地域からも離れている中立地帯だ。人間が立ち入ることなんて、まずはないだろう。そんな場所に人間がいたら、警戒するのは当然だな。
「俺は『魔王の代理人』アリウス・ジルべルトだ。おまえたちも俺の噂くらい、聞いたことがあるんじゃないか?」
「魔王アラニス・ジャスティアの代理人が、人間だと聞いたことはあるが……」
トリスタの父親が考え込む。とりあえず、こいつは『魔王の代理人』のことを知っているようだな。
「俺は魔族の領域と人間の国の境界地帯に、魔族と人間が共存する街を作ったんだよ。
今日は俺たちの街を一緒に守ってくれる魔族をスカウトしに来た。だけど魔族の国ガーディアルや氏族から、引き抜く訳にもいかないだろう。
だからガーティアルや氏族が支配する地域の外で、おまえたちのような『
俺は本当のことを言っているし。理屈も合っているだろう。
「魔族と人間が共存する街? 一緒に街を守る魔族をスカウトする? そんな馬鹿げた話を、誰が信じると言うのだ?」
トリスタの父親は訝しそうな顔をする。まあ、当然の反応だな。
「信じられない気持ちは解るよ。俺も訊かれたから応えただけで、これまで実際に人間に会ったこともないようなおまえたちに、信じてくれと言うつもりはないからな。
だけど会ったこともない人間のことを信用できないとか。決めつけること自体が、俺はおかしいと思うけどね」
トリスタの父親が再び考え込む。さっきはトリスタを助けようと思って、頭に血が上っていたけど。相手の話を聞かない奴じゃないみたいだな。
「とりあえずトリスタは無事だったんだし。俺にもう行くからな」
俺が再び立ち去ろうとすると。
「ちょっと待ってくれ! おまえにはまだ礼をしていない!」
トリスタの父親が引き留める。
「さっき礼を言われたから、それで十分だよ。俺はたまたまトリスタを見掛けたら助けただけで。見返りなんて求めていないからな」
トリスタの父親は、俺をじっと見る。
「悪いが、俺はまだおまえを信用できない。人間は敵だと生まれたときから言われて来たからな。だが自分の子供の命を救って貰った相手にすべき態度ではなかった」
トリスタの両親は武器を仕舞って、深く頭を下げる。トリスタも慌てて2人の後に続いた。
「俺はバトリオ・イエガー。隣にいるのが妻のイメルダ・イエガーだ。『魔王の代理人』アリウス・ジルベルト。俺たちの息子、トリスタの命を救ってくれたことに、心からから感謝する」
魔族が人間に頭を下げるとか、なかなかできることじゃないだろう。
「ああ。おまえたちの気持ちは受け取ったよ。だから頭を上げてくれ」
トリスタの父親、バトリオは頭を上げると。
「それでは、アリウス・ジルベルト。先ほどの礼の話だが……」
「だから気持ちは受け取ったって言っただろう。それで十分だよ」
「いや、そういう訳にはいかない。俺たち何も持たない『流浪者』とって、家族が全てだ。たった一人の息子の命を救ってくれた相手に、言葉だけで足りる筈がない」
「私もバトリオと気持ちは同じよ。アリウス・ジルベルト、是非お礼をさせて!」
ここまで黙っていたトリスタの母親、イメルダが続く。
「トリスタは親の言いつけを守らない馬鹿で。1人で出歩くなって散々言っているのに、今日も勝手にいなくなって。そのせいで地龍に殺されそうになって……あんたは本当に馬鹿なんだから!」
イメルダはトリスタの頭を、思いきり殴りつける。
「痛ってえええ!」
頭を押さえて蹲るトリスタを、イメルダはギュッと抱き締める。
「だけど馬鹿な息子ほど可愛のよ。私たちの可愛い息子を救ってくれた貴方には、いくらお礼をしても足りないくらいだわ」
ここまで言われて断るのは悪いよな。だけど『流浪者』は何も持っていないと言っていたけど。
バトリオはイメルダは頷き合うと、『
俺は相手の能力を知るときしか『鑑定』を使わないけど。こういう使い方もできるんだよな。
「これは氏族と取引するために貯めていた物だ。『魔王の代理人』には、大して価値のないモノかも知れないが」
「これだけあれば十分だよ。それよりも、バトリオ。俺が『魔王の代理人』だって信じるのか?」
「信じた訳ではない。だが否定する理由もないからな」
バトリオは本当に正直な奴だな。ここまで話していることにも一貫性があるし。
「なあ、バトリオ。一つ提案があるんだけど。あくまでも提案で、強制つするつもりはないからな」
俺はバトリオたちなら信用できると思ったんだよ。
「おまえたち3人で、俺たちの街に来る気はないか?」
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