第245話:覚悟


 冒険者パーティー『クスノキ商会』のメンバーたちが、『自由の国フリーランド』の街に迫る5,000体以上の魔物の群れを殲滅した。


 アリサ抜きでも『クスノキ商会』が十分機能することが解ったし。麻薬を使って魔物の群れを暴走させた魔族の身柄も確保した。あとは確保した魔族を寄越した氏族と話をつけるだけだ。


※ ※ ※ ※


※三人称視点※


 魔族の領域南西部。深い森に囲まれた地域を魔族の氏族ウルバラーダは支配している。


 ウルバラーダは度々人間と争いを起こす過激派の氏族であり。二十数年前にはロナウディア王国への侵攻を図り、ロナウディア王国現宰相のダリウス・ジルベルト率いる王国軍に破れている。


「ロズニールが何もできずに敗退しただと?」


「はい。5,000体を超える魔物は壊滅。ロズニールはアリウス・ジルベルトに拘束された模様です」


 氏族の城の広間。ウルバラーダの氏族長デスカザは、部下の報告に狂暴な顔を怒気に歪ませる。

 デスカザの父親である全氏族長バルバドスはダリウス・ジルベルトに殺されており。ダリウスの息子であるアリウスを、デスカザは常々殺したいと思っている。


 しかしそれは父親の敵を討ちたいということではなく。むざむざと人間に殺された父親よりも、自分が偉大な氏族長であることを示すためだ。


「ロズニールの間抜けめ。少しは役に立つかと期待してやったが……まあ、良い。ザコの魔物など、どうせまた直ぐに増える。

 それにアリウスが何か言ってきたら、今回のことはロズニールが勝手にやったことだと言えば済むことだ」


 アリウスのことを、デスカザは見くびっている。アリウスが魔族を殺したという話を聞いたことがないからだ。


 アリウスなど、所詮は魔王アラニスの威光を借りて、人間と魔族の共存などと、馬鹿げたことをほざく狐。


 今回も本気で『自由の国フリーランド』の街を本気で落としに行かなかったのは、魔王アラニスの反撃を恐れてのことだ。


「おまえ、俺を舐めているよな」


 突然響く声に、魔族たちが視線を向けると。広間の只中に銀色の髪の人間がいた。

 人間の足元には、黒い鎖で縛られた、アリウスに拘束された筈のロズニールが転がっている。


「貴様が……アリウス・ジルベルトか?」


 広間への侵入を許したというのに、デスカザは、いまだにアリウスを見くびっていた。

 不意打ちを仕掛けることができたのに、誰一人殺さなかったアリウスは、やはり魔族を殺すこともできない臆病者だと。


※ ※ ※ ※


「ああ、そうだけど。おまえたちが魔物を暴走させて、俺たちの街を襲ったことの代償を払わせに来た。今、自分たちがやったと言っていたんだから、言い逃れできないよな」


 魔物を先導していたロズニール以外に、他にも魔族が潜伏していることには気づいていた。

 そいつらが監視役なのは想像がついたから、泳がせて後を追って来たんだよ。


「代償だと……貴様たち人間にくれてやる物など何もない! 俺と交渉したいなら、魔王アラニスを連れて来い。魔族を殺せぬ貴様など、所詮は魔王の威を借る狐に過ぎん!」


 完全に開き直っているな。まあ、俺は舐められているみたいだからな。


 俺は『収納庫ストレージ』から件を出すと、無言でロズニールの心臓を一突きする。

 流れ出る大量の血に、デスカザの顔色が変わる。


「証人だから生かしておいたけど。おまえが自白したから、もう必要ない。こいつは俺たちの街を襲った実行犯だ。殺すのは当然だろう?」


 俺は無駄な殺しをするのが嫌いなだけで。俺や仲間を殺そうとした相手は、魔族だろうと人間だろうと、容赦するつもりはない。

 勿論、状況次第で殺すかどうか判断するけど。今は生かしておく理由がないからな。


「それに勘違いしているみたいだけど。俺が要求する代償は、金や物じゃない。仕掛けたのは、おまえたちだからな。殺されたい奴から掛かって来いよ」


 このまま見逃せば、デスカザはまた何か仕掛けて来るだろう。こいつの性格は解っている。魔族の領域に面した場所に国を作ったんだから。魔族の情報を集めるのは当然だろう。

 意趣返しとして、魔族と取引しているエリスたちの隊商が襲われたら、堪らないからな。


「ふざけたことを……アリウスを殺せ!」


 デスカザの指示に、魔族たちが一斉に襲い掛かって来る。

 俺は一気に加速して、襲い掛かって来た魔族たちの意識を全て刈り取る。こいつらには、俺の動きが見えないからな。何が起きたのか解らないだろう。


 突然倒れた魔族たちを見渡して、デスカザがニヤリと笑う。


「魔法を使って眠らせたのか? やはり、貴様は魔族を殺せないようだな。殺すことを躊躇ためらう臆病者など、恐れるに足らんわ!」


「こいつらは、おまえの命令に従っただけだから、情状酌量の余地があるけど。デスカザ、おまえは違うからな」


 俺はゆっくりとデスカザの方に歩いて行く。デスカザは玉座から立ち上がると、腰の剣を引き抜く。


「デスカザ。元凶のおまえを許すつもりはないんだよ。今回の代償として、おまえを殺すからな」


「人間風情が、良い気になるな。ウルバラーダ氏族長、このデスカザの力を思い知らせてやるわ!」


 ウルバラーダの魔族は過激派だけあって、戦い慣れしているし。氏族長であるデスカザは荒くれ者の魔族たちを従えるだけの力を持っている。だけど、それだけのことだ。


 俺が剣を一閃すると、デスカザの身体が縦に真っ二つになる。グロテスクに殺したのは、見せしめのためだ。非戦闘要員なのか、襲い掛かって来なかった魔族たちが騒然とする。


「まだやるなら、相手になるけど。もうデスカザはいないから、ここからは誰だろうと容赦はしないからな」


 芝居掛かった台詞だと自分で思うけど。無駄な殺しをしないためには、こういうの・・・・・も必要なことは解っている。


「俺への仕返しに、人間や俺に関わる魔族を襲ったら、絶対に代償を払わせるからな。証拠なんて関係ない。誰がやったか、判断するのは俺だ。おまえたちが人間を殺すときだって、いちいち証拠なんて確認しないだろう?」


 これで俺の悪評・・が広まれば、少しは抑止力になるだろう。人間と魔族が共存するために、一人も殺さないなんて理想論を語るつもりはないからな。

 俺は無駄な殺しをしたくないだけで、必要ならこれからも殺すことを躊躇ためらうつもりはない。

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