第244話:魔物の襲撃


 今日は昼間から、『自由の国フリーランド』の街にいる。魔族の領域から街に近づく魔物の群れが現れたからだ。


 まあ、魔物の群れが到着するまで、まだ時間が掛かることは解っていたから。さっきまで俺は世界迷宮ワールドダンジョンを攻略していて。アリサから『伝言メッセージ』が来てから、戻ったんだけど。


 麻薬によって暴走した魔物の群れ。仕掛け人がいるのは解っている。そいつらの居場所も特定したから、後できっちりと話をつけるつもりだ。


 まあ、この程度の戦力で、向こうもフリーランドを潰せるとは思っていないだろう。魔物に襲撃されたという悪評を広めて、移住者を減らすことが狙いってところか。

 俺は不測の事態の発生に備えて待機しているけど。街の防衛は全部アリサに任せている。今回は防衛用のゴーレムも、まだ存在を隠しておくつもりだ。


 今、魔物の群れは街から2kmほどの地点に迫っている。数は5,000体超で、そのうち大型の魔物は2割程度。飛行能力がある魔物は1割ほどだ。

 魔族の領域の魔物としては強さは至って普通で、そこまで強い魔物はいない。倒されることが前提だから、貴重な戦力は投入しないってことか。


 魔物たちの先頭には『透明化インビジブル』で姿を隠した魔族がいて。麻薬の匂いで魔物たちを引き付けている。

 麻薬なんか使わなくても、魔族には魔物を操る能力があるけど。麻薬で魔物を暴走させて、自分が逃げた後に街を襲わせるつもりか。


「アリウスはん、準備は万端やで。今日のところは、うちも高みの見物をするつもりやから。一緒に酒でも飲みながら、観戦しようやないか」


 SSS級冒険者のアリサが出るまでもないってことか。勿論、アリサは油断なんてしないだろうけど。アリサは酒を飲んでも酔わないから、普通に戦えるしな。


「とりあえず、先導役の魔族の身柄を確保するのが先だな。今回の件の証人として、交渉に使えるからな」


「それなら、うちのところのリンダが尾行しとるから。直ぐに確保させるわ」


 リンダは冒険者パーティー『クスノキ商会』の斥候役のグラスランナーの女子。その能力はマルシアが警戒するレベルだ。

 まあ、俺の『索敵サーチ』の効果範囲は半径5km以上あるからな。リンダが魔族の傍にいることも解っていたけど。


 アリサがリンダに『伝言』を送った直後。リンダが斥候役の魔族を確保する。『クリア』とか返信が帰って来そうなほど完璧な仕事ぶりだ。


「じゃあ、あとは魔物を殲滅するだけやな。こういうときこそ、クリスに活躍して貰わんとな」


 街へと突き進む魔物の群れ。その前に立ち塞がるのは、派手な金色のフルプレートを纏って、魔剣ウロボロスを構えるクリス・ブラッドだ。


「こんなザコの魔物どもは、俺1人で全滅させてやるぜ!」


 クリスは魔物群れに正面から突っ込むと、魔物を次々と肉片に変えて行く。


 勇者アベルが死んだことで、クリスはアベルに与えられた『勇者の心ブレイブハート』を失ったけど。自分よりも弱い奴に対しては、クリスは強い。

 能力的にも600レベル超えだし。相手を見下して掛かるから、メンタル的に余裕があるる。

 まあ、逆に言えばクリスよりも強い相手に対しては、全然使えないってことだな。


 だけどクリスは大口を叩いた割に、魔物の群れを堰き止めた訳じゃない。クリスの左右を素通した魔物たちが、街に向かって来る。


 侵攻して来る魔物の群れの前に、突然地面が隆起して。無数の太い根と蔦が出現して、魔物たちに襲い掛かる。複合属性第10界層魔法『棘の王ロードオブトーンズ』だ。


「クリスは本当に口だけね。あとは私に任せなさい」


 発動したのはアースカラーのローブを纏うエルフ。『クスノキ商会』のドルイド、フォン・リエステラだ。


 魔力が具現化した植物は、鞭のようにしなやかなのに。鋼鉄のワイヤー以上の強度で。俺の全身に絡みつくと、巨人のような力で締め付ける。並みの魔物は即死。大型の魔物も動きを止める。


 フォンから少し離れたところにいるのは、巨大なタワーシールドと戦斧を構えるドワーフ。『クスノキ商会』のタンク、バスター・ハウンドがタンクのスキル『要塞フォートレス』を発動して巨大な壁を作る。


「リョウ・キサラギ――参る!」


 空を飛ぶ魔物の相手をするのは、黒髪に眼鏡の男。『クスノキ商会』の刀使いリョウは空を飛びながら、物凄いスピードで斬撃を飛ばして。次々と魔物を撃ち落とす。


 フォンとバスターとリョウが壁になって、魔物の侵攻を防いでいる。

 先導役の魔物を確保したリンダも戻って来て、参戦しているけど。数が多いから、完全には侵攻を止められていない。


 こういうときは、第10界層クラスの範囲魔法攻撃が有効だけど。フォンはドルイドだから、攻撃に特化した魔法は専門じゃないだろう。


「アリウスはん、フォンを舐めんで欲しいわ」


 先頭で街に迫ろうとした魔物の集団を、突然陥没した地面が飲み込む。地面は直後に塞がって、飲み込んだ魔物たちを肉片に変えた。

 土属性第10界層魔法『粉砕流アースデストラクション』だ。


 続いて空から街に迫る魔物たちに襲い掛かるのは、フォンが魔力で強化した殺人蟷螂キラーマンティスたち。フォンは召喚魔法も使えるんだよな。

 しかも召喚するだけじゃなくて、魔力で魔物を強化するとか。召喚魔法を使い込んでいるな。


 フォンが魔法系アタッカーして完全に機能することで。所詮は数が多いだけの魔物の群れは、街に近づくことができずに殲滅されていく。


「まあ、アリウスさんに掛かったら、フォンもお手上げやろうけど」


「いや、こういう戦い方は俺も初めて見たよ。」


 フォンの活躍に、アリサも満足しているみたいだな。


 アリサは政治的な役割が増えたから。自分抜きの『クスノキ商会』が、どこまで機能するか試したかったんだろう。

 まあ、クリス以外は全員SS級冒険者でも上位クラスだからな。これくらいは当然、やれるってことだ。


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ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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新作と言いますか、この話のスピンオフを書いてみましたので。

暇なときにでも、読んでみてください。


『Re:恋愛魔法学院~乙女ゲーの世界で無双した俺は、現実世界でもダンジョンを攻略する。配信なんて絶対にしないけど。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330665238324155


書籍版の情報公開第五弾として、カバーイラストの一部を近況ノートとX(旧Twitter)に公開しました。

カバーイラストにはこれまで未公開だったミリアも登場します。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330664923547824

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。



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