第243話:それぞれの事情


 ノアとゼスタを『自由の国フリーランド』に誘った件だけど。

 

 ノアの方は家族に俺や『自由の国』の名前は出さないで、国外の有力者から誘われていると伝えたところ。そんな甘い話に乗るのは馬鹿げていると一蹴されたそうだ。まあ、当然だな。

 だけどノア自身は完全に乗り気で、自分だけでも『自由の国』に来るつもりらしい。


 まあ、家族の方はノアが『自由の国』に来たことで、ブリスデン聖王国に居づらくなったら。他の国で十分暮らせるだけの金を渡すのもアリか。


 ゼスタの方は、まだ決めて兼ねている感じだけど。俺のことをブリスデン聖王国の奴らに話すつもりはないらしい。

 とりあえず、ノアにもフレッドの件が片づくまでは、ブリスデン聖王国に残って貰うつもりだし。フレッドの傍にいるノアとゼスタの2人の協力を得られたことは大きい。


 俺はアレックスも『自由の国』に誘うつもりだけど。今のタイミングで、オースティン聖騎士公家の人間に接触すると、バトラー公爵に警戒される可能性があるからな。アレックスの件は後回しだ。


 ブリスデン聖王国の動きとしては、聖王国の名前を出さないで、傭兵や冒険者を大量に集めている。質よりも数という感じで集めているから、完全捨て駒にするつもりみたいだけど。ブリスデン聖王国の狙いが、イマイチ良く解らないな。


 仮に俺や魔王アラニスにそいつらを殺させることが目的なら、反魔族派との争いを拡大させる火種にはなるけど。ブリスデン聖王国にメリットはあるのか?

 ブリスデン聖王国は教会勢力の国と言っても、教会の権威を利用しているだけで。実態は利に敏い普通の貴族社会で、本気で魔族を滅ぼそうだなんて考えていないだろう。


 結局のところ。今回も『RPGの神』が甘言で、ブリスデン聖王国の奴らを操ろうとしている可能性が高いけど。もっと情報を掴む必要がある。『RPGの神』の目的が解らないうちに下手に動いても、空回りするだけだからな。


 フレッドとは家族を守ると約束したから。アリサにアーチェリー商会の周囲の動きを探って貰っている。何かあればアリサを通じて、俺のところに情報がることになっているけど。アリサのことだから、大抵のことは自分で解決してから事後報告だろうな。


 フレッドとブリスデン聖王国のことは、エリクとも情報共有しているから。ブリスデン聖王国に後れを取ることはないだろう。


「東方教会も動き出したみたいだね。勇者アベルのときに続いて、同じ教会勢力のブリスデン聖王国に勇者を囲われたことになるから。今回は過激な手段に出る可能性があるよ」


 東方教会はテロリスト集団と言っても、戦力としてはブリスデン聖王国に遠く及ばない。だけど正攻法で戦うような奴らじゃないから、何を仕掛けて来るか解らない。東方教会の動きも掴んでおく必要があるな。


※ ※ ※ ※


「アリウスが嫁さんたちを連れて来るのも、当たり前になって来たな」


 今日、俺はみんなと一緒にカーネルの街の冒険者ギルドに来ている。特に目的はないけど。俺がゲイルと飲みに行くと言ったら、ジェシカがだったら自分もアランたちと行くと言って。みんなも一緒に来る流れになった。


「だが、アリウス。冒険者ギルドで、あんまりイチャつくなよ。ガサツでモテない連中にとっては、目の毒だからな」


「ゲイル、そこにはおまえも含まれるのか?」


「いや、俺は酒が飲めれば十分だからな。モテたいなんて思わないぜ」


 30代独身のゲイルを、軽口で揶揄からかうことは良くあるけど。ゲイルはA級冒険者の中でも上位の実力があって、面倒見も良いからな。決してモテない訳じゃない。

 カーネルの街で宿屋を経営している未亡人が愛人とか、噂は聞いているけど。本人が言うつもりがないみたいだから、詮索するつもりはない。


 シリウスとアリシアは夏休みが終わって、週末限定でカーネルの街に通っている。

 今日は土曜日だから、2人も冒険者ギルドに来ていて。グレイスとミーシャとテーブルを囲んで話をしている。


 みんなは少し前まで、俺と一緒に夕飯を食べていたけど。今はマルシアや『白銀の翼』のヒーラーのサラ、他にも女子の冒険者たちで集まって女子トークをしている。


「ねえ、ジェシカ。実際のところ、夜のアリウス君ってどうなの?」


「ちょっと! マルシア、何を言ってるのよ! そんなことを言える筈が……」


「アリウスは、どんなときでも素敵よ。ねえ、ジェシカ?」


「ちょっと、エリスまで! 何を……まあ、夜も物凄く素敵なのは本当だけど……」


 ジェシカが真っ赤になる。いや、全部聞こえているからな。

 ゲイルたちがニヤニヤしているし。まあ、この手の話にも慣れたけど。


「ジェシカも幸せそうだから、何よりだと思うぜ。アリウスさんならジェシカを幸せにするって、俺は最初から思っていましたけど」


 アランが仲間に対する優しい目で、ジェシカを見ている。俺と出会った頃、アランはジェシカのことが好きだったらしいけど。もう完全吹っ切れて、今は別の相手がいるみたいだからな。

 アランは惚気話をするようなタイプじゃないから、詳しいことは知らないけど。


「まあ、アリウスさん。飲んでくれよ。私はアリウスさんが女の尻に敷かれているなんて、私は思っていないぜ」


 ツインテール女子のヘルガが、俺のグラスに透明な蒸留酒を並々と注ぐ。ヘルガは女子トークに参加するつもりはないみたいだな。


 ノアとゼスタを『自由の国』に誘ったのに、俺がゲイルやアランたちを誘わないのは、こいつらが自由に生きる冒険者だからだ。


 ノアとゼスタは組織の中で生きることに慣れているし。ブリスデン聖王国に対して不満があるなら、一緒に働いて欲しいと思って誘った。

 だけどゲイルやアランたちは、冒険者としての生き方に誇りを持っているから。誘えば来てくれるかも知れないけど、国というモノに縛りつけるような真似はしたくない。


 こいつらが『自由の国』に来たいなら歓迎するけど。そのつもりがあるなら、自分の方から言うだろう。


 ちなみにヒュウガたちは、冒険者ギルドから新しい依頼を請けて。再び遠征に出ている。

 一応確認したけど、ブリスデン聖王国絡みじゃない真面な依頼で。傭兵崩れが勝手に占拠した辺境の古城を奪還する任務らしい。


 攻城戦をするには、ヒュウガたちの人数的じゃ少ないけど。全員がA級冒険者以上で、ヒュウガがいるんだから問題ないだろう。


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ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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新作と言いますか、この話のスピンオフを書いてみましたので。

暇なときにでも、読んでみてください。


『Re:恋愛魔法学院~乙女ゲーの世界で無双した俺は、現実世界でもダンジョンを攻略する。配信なんて絶対にしないけど。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330665238324155


書籍版の情報公開第五弾として、カバーイラストの一部を近況ノートとX(旧Twitter)に公開しました。

カバーイラストにはこれまで未公開だったミリアも登場します。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330664923547824

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


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