第242話:共犯者


 1週間後。俺とミリアは再びフレッドのところを訪れた。


 フレッドとノアとゼスタは、中難易度ミドルクラスダンジョン『ランクスタの監獄』を攻略している間。ダンジョンの近くにある街に滞在している。


 フレッドは従者のフリをしているらしいけど。これくらいのことで、エリクやアリサの情報網から逃れられる筈もなく。2人ともフレッドの居場所を知っていた。


 ゼスタはフレッドを監視するために、同じ部屋に泊っているけど。フレッドと2人で話がしたいとゼスタに言ったら、アッサリ承諾した。

 ミリアが一緒にいることをゼスタたちに教えないのは、説明がややこしくなるからだ。


 俺は『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』と、念ために『防音サウンドプルーフ』をフレッドごと周囲に展開して。

 ミリアにだけ発動したままだった『認識阻害』と『透明化』を解除する。


 これで俺とミリアとフレッドだけが互いを認識できて。他の奴らは俺たちの姿も声も認識できないことになる。


「フレッド、おまえの答えを聞かせてくれよ」


 俺とミリアが見守る中、フレッドはじっと俺たちを見る。


「ジルベルト陛下……いや、アリウスさん。正直に言います。俺は貴方を完全に信用した訳ではありません。

 ですが貴方と協力関係を結ぶことには、メリットがありますから。あの声・・・から聞いたことを全部話します。

 その代わりに、俺が勇者をやる・・・・・ことで、俺と家族に何かあったら。力を貸して貰えませんか」


「つまりフレッドは、勇者を辞めるつもりはないってことだな」


「ええ、少なくとも今直ぐには。アリウスさんも言っていましたが、俺は家族を人質に取られたような状態です。勇者を辞めるなんて言ったら、家族がどうなるか解りません。勇者のスキルがどのようなモノか、アリウスさんから聞きましたので、使うつもりはあませんが。しかしバトラー公爵に強制されたら……」


「そのときは俺が勇者のスキルを封じるよ。おまえを殺すって意味じゃなくて、俺にはそれができるからな」


 最難関トップクラスダンジョン産のマジックアイテムを使えば、勇者アベルにしたように、勇者のスキルを封じることができる。


 フレッドは少し考えてから


「アリウスさんなら、できるんでしょうね。是非お願いします」


「ああ。おまえと家族に力を貸すことも含めて、約束するよ」


「ありがとうございます。では俺もあの声・・・から聞いたことを全部話します」


 だけど結局、フレッドは『RPGの神』から勇者の力で魔王を倒して、世界を救えと言われただけで。『RPGの神』の目的については何も解らなかった。

 まあ、『RPGの神』が自分の目的をストレートに伝えているとは思っていなかったけど。フレッドにそれとなく示唆するか。神の啓示という形で、ブリスデン聖王国の奴らに伝える可能性はある。継続的に探りを入れる必要があるな。


 それでも1つだけ。『RPGの神』はフレッドに具体的な指示を与えていた。


「鍛練を続けて、勇者のスキルを成長させることを最優先にしろか」


「そうです。あの声は確かにそう言いました」


 アリサに聞いた話だけど。勇者のスキルは、他のスキルのように使いこなすことでスキルレベルが上がるんじゃなくて。勇者が普通に鍛練するだけで、勇者のスキルが成長する。


 勇者アベルは、ほとんど鍛練をしなかったから。勇者のスキルもほとんど成長しなかったけど。それでも『勇者の軍勢ブレイブフォース』を使えるようになって、集団を狂戦士化できるようになった。


 初代勇者が使ったスキルについては、魔王アラニスに教えて貰ったけど。『勇者の軍勢』の上位互換のようなスキルらしい。

 つまり狂戦士化できる人数が増えて、ステータスの上昇率も『勇者の軍勢』より高い。1万人規模の狂戦士の集団を生み出すスキルは、確かに脅威だろう。


 それでも、今の俺や魔王アラニスと戦うには弱い。1万人が10万人でも、正直どうということはない。だけど俺たちに大量殺人をさせるために、使う可能性は考えられる。反魔族派との争いを拡大させる火種になるからだ。

 初代勇者以上に勇者のスキルが成長して、何か特別な力が使えるようになる可能性もある。


「フレッド。勇者の力を封じれば、話は簡単だけど。おまえが勇者を続けるつもりなら、強制はしない。勇者のスキルに変化があったり、例の声がまた聞こえたら教えてくれ。ブリスデン聖王国に動きがあったときもな」


「はい。アリウスさんが協力してくれるなら、当然です」


 とりあえず情報は『伝言メッセージ』で、やりとりすることした。

 フレッドは無詠唱で魔法を発動できないそうだけど。隠れて『伝言』を送ることくらいできるだろう。


「これで取引成立だな。何かあれば連絡してくれ。俺は絶対におまえと家族を守るからな」


「アリウスさん、ありがとうございます」


「いや、だから。ブレッド、さん付けも敬語も止めろよ。もう俺たちは共犯者だろう?」


「共犯者って……勘弁してくださいよ。俺がこの世界に転生して23年経ちますから、この世界の常識がすっかり染みついているんです。『魔王の代理人』にタメ口なんて、おこがましいですよ」


 まあ、俺のことを『陛下』とは呼ばなくなったし。口調もだいぶ砕けたから、今のところは仕方ないか。


「ところで、フレッド。さっきから、ミリアの方をチラチラ見ているけど。何か気になるみたいだな」


 取引の話が済んだ辺りから、普段は冷静なフレッドの様子がおかしい。

 話が済んで気が抜けたのは解るけど。王宮で会ったときも、ミリアが出て来てから様子がおかしかったからな。


「え……いや、そんなことは……」


「私もさっきから視線を感じるのよね。フレッドさん、私に言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってくれないかな?」


 ミリアがストレートに疑問をぶつける。なんか、フレッドがダメージを受けてないか?


「いや、ミリアさんに、言いたいことがあるとか。そういうことじゃ、なくてですね……」


 フレッドは悩んだ挙句、覚悟を決めた感じで。


「「俺は『恋学』自体は一応プレイしたって程度ですけど。主人公ヒロインのミリアが好きで、ミリアは俺の推しキャラなんです! 

 ああ、誤解しないでください。俺が好きなのは、あくまでも『恋学』のキャラのミリアで。俺はミリアさんに対して、一切恋愛感情はありませんから!」


 いつも冷静なフレッドは、一気に捲し立ると。急に冷静になったのか、顔を青くする。


「ミリアさん、済みません! こんなことを言って……ミリアさんに対して失礼ですし。ゲームのキャラが好きなんて、気持ち悪いですよね……」


 フレッドが言ってしまったという顔で、下を向いていると。


「フレッドさん。ミリア推しなんて、貴方も見るところがあるわね!」


 ミリアが嬉々として反応する。


「ちなみに私はジーク推しで、『恋学』は全ルート5回ずつはクリアしているわよ。ファンブックも全部記憶しているから、『恋学』のことなら何でも訊いてよね!」


 ミリアの勢いに、フレッドが戸惑っている。


「え……ミリアはそんなキャラじゃ……」


「私の中身はミリアじゃないから、仕方ないでしょう。そんなことを言ったら、アリウスだって――」


「へー、ミリアはジーク推しなんだな。初めて聞いたよ」


 俺がわざと意地悪く言うと。


「もう、アリウスまで。意地の悪いことは言わないでよ。この世界で私が好きなのは……アリウスだけだから」


俺の胸に顔を埋めるミリアを、優しく抱き締める。


「俺もミリアが好きだよ」


「アリウス……」

 

「あんたたちなあ……ミリアとアリウスの顔で、俺の前で何をイチャついているんだよ!!!」


 フレッドがブチキレれた。


「あ……大変失礼しました! 申し訳ありません!」


 だけど直ぐに冷静になって、土下座する勢いで深々と頭を下げる。


「いや、別に構わないって。俺は乙女ゲーに興味ないけど、前世でゲームは結構嵌ったからな。推しキャラって気持ちは解らなくはないよ。なあ、フレッド、俺たちは同じ転生者なんだし。堅苦しいのは止めて、普通にしろよ」


「ありがとうございます。ですがアリウスさん……今のは・・・、わざとやりましたよね?」


 フレッドが俺を睨む。俺がわざとミリアとイチャついて、挑発したと思っているみたいだな。


「まあ、半分はそうだな。だけど最近の俺たちは、いつもこんな感じだよ」


 結婚したことで、みんなは遠慮しなくなったからな。TPOは弁えているけど、他人の目をあまり気にすることはない。


 フレッドは呆れた顔をする。


「口調の方は慣れているので、しばらくこのまま行かせて貰いますが。俺はもう貴方たちに遠慮はしません」


「ああ。そうしてくれよ」


「そうよ、フレッドさん。これからもよろしくね」


「……はい。こちらこそ、ミリアさん。よろしくお願いします」


 フレッドはちょっと恥ずかしそうに、目を逸らしながら応える。ミリアを正面から見れないのは、仕方ないだろう。


―――――――――――――――――――


書籍版の情報公開第五弾として、カバーイラストの一部を近況ノートとX(旧Twitter)に公開しました。

カバーイラストにはこれまで未公開だったミリアも登場します。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330664923547824

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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