第238話:接触


※フレッド視点※


 勇者パーティーのメンバーたちと親睦を深めるためにと、その日の夕食を一緒に取ることになった。


 もう顔合わせは終わったから、自分たちの役目は済んだということか。夕食の席に、聖王ビクトルと王弟ジョセフ・バトラーの姿はない。


 だからイアン・オルソーは俺のことなんかお構いなしで、好き勝手に飲み食いして。食事の世話をしている侍女を口説き始める始末で。


「これで魔族と異教徒どもを堂々と殺せますね。まずは……」


 セシル・ランパードは恍惚とした表情を浮かべて、物騒な独り言を言っているし。


「フレッドさん、僕は必要最低限の仕事はしますが。それ以上を望むなら、料金はこんな感じです」


 セイヤ・マクガフィンは俺をサポートする際の料金表を見せて来る。とても親睦を深めるという雰囲気じゃないな。


 夕食が終わると。俺はブリスデン聖王国の王宮内にある用意された寝室に移動する。


 シャワーを浴びて、着替えをして。ベッドに寝転がって、思考を巡らせる。

 勇者パーティーのメンバーの性格も、王弟ジョセフ・バトラー公爵がいつでも俺たちを切り捨てられる状況を作っていることも、最悪の一言だな。


 だが俺は只の平民だから、文句を言える立場じゃないし。文句を言う暇があるなら、少しでも状況を良くする方法を考えるべきだ。


 明日には再び中難易度ミドルクラスダンジョン『ランクスタの監獄』に向かって、しばらくは訓練を続けることになる。

 今日は勇者パーティーのメンバーと本当に顔見せをしただけで。勇者パーティーとして活動を始める時期は、まだ決まっていない。まあ、今の俺じゃ完全に足手纏いだからな。


 だけど勇者の力を使いこなせるようになると言っても、勇者のスキル『勇者の心ブレイブハート』はまだ使ったことがない。

 どんなスキルなのかも教えて貰っていないし。今の俺の実力だとスキルは使いこなせないってことか?


 そんなことを俺が考えていると。


「考えごとをしている最中に悪いけど。フレッド・アーチェリー、おまえに話があるんだ」


 突然の声に跳び起きると、ベッドの前に男がいた。

 銀色の髪と氷青色アイスブルーの瞳の物凄いイケメン。年齢は20歳前後というところで。身長は2m近いけど、細身だから巨漢という感じじゃない。


「貴方は……誰ですか?」


 一瞬、勇者を殺しに来た刺客を思い浮かべるが。俺を殺すつもりなら、声を掛ける前に殺しているだろう。


「俺はアリウス・ジルベルト。一応SSS級冒険者で『魔王の代理人』。それと今は『自由の国フリーランド』の国王だけど。どれか1つくらいは知っているよな?」


「え……アリウス・ジルベルトだって!」


 俺は思わず声を上げて、逃げるように後退る。

 こいつが本当にアリウス・ジルベルトなら、俺が殺せと言われている圧倒的な力を持つ実力者だからな。


※ ※ ※ ※


「なあ。フレッド、慌てるなよ。俺はおまえと話をしに来ただけだからな」


 フレッド・アーチェリーの反応に苦笑する。まあ、驚くのは仕方ないけど。


 きちんと整えられた砂色の髪に、気真面目そうな顔。年齢は俺よりも少し年上ってところだな。

 『鑑定アプレイズ』したから、こいつに勇者の力があることは解っているけど。見た目だけじゃ、とても勇者とは思えないな。まあ、勇者に覚醒する前は、普通の交易商だったらしいから当然か。


 フレッドに関する情報はエリクから聞いているし。俺自身も事前に一通り調べてある。

 それに俺は『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動して、ブリスデン聖王国の王宮に潜入して。半日くらいフレッドを観察していた。

 ちょうどフレッドが中難易度ダンジョン『ランクスタの監獄』から戻って来たところだったから、タイミングは良かった。


「ジルベルト陛下……陛下を呼び捨てにしてしまいまして、大変失礼しました。陛下は私にどのようなご用件があるのですか?」


 フレッドは話をしながら、俺の反応を窺う。結構冷静で、度胸もあるようだな。俺の言葉を鵜呑みにしないで、俺が本物のアリウスかどうか見極めようとしている。


「フレッド。俺は堅苦しいのが嫌いだから、呼び捨てにするのは構わないよ。敬語もなしにしてくれ。俺の用件を伝える前に、おまえは俺が本物のアリウスかどうか疑っているみたいだから。俺は自分がアリウスだと証明する必要があるな」


「いいえ。ジルベルト陛下、決してそのようなことは……」


「だから、そういうのは良いから。フレッド、おまえが『鑑定』が使えるのは解ってるんだ。『鑑定』で俺のレベルを調べてみろよ」


 フレッドは戸惑っている。俺はいつも普通に使っているけど、他人を勝手に『鑑定』することは、敵対行為と見做されるからな。だけど黙っていれば解らないだろう。

 フレッドは用心深い奴なのに、まだ俺のことを『鑑定』していなかったのは、人を『鑑定』することに慣れていないからだ。


 フレッドは俺が引き下がらないことが解ったのか。『鑑定』を発動すると、訝しそうな顔をする。フレッドのレベルだと俺を『鑑定』してもレベルすら解らないからな。


「相手の方がレベルが高いと、『鑑定』できないことは知っているよな。つまり俺の方がレベルが高いってことだ。

 これでもまだ不十分だって言うなら、手っ取り早いのは、おまえを最難関トップクラスダンジョンに一緒に連れて行くことだな。大した時間は掛からないし、身の安全は保障するから。フレッド、一緒に行ってみるか?」


「最難関ダンジョン……いいえ、そこまでして頂くには及びません。私は陛下のことを疑っている訳ではございませんので。陛下のご用件を聞かせください」


 フレッドは交易商だからか、最難関ダンジョンのことも知っているみたいだな。最難関ダンジョンのヤバさを理解した上で、務めて冷静に振舞っている。

 まあ、ダンジョンに行くことに同意したら、そのまま拉致される可能性があるし。用心深いフレッドが、同意するとは思っていなかったけど。


「まだおまえが俺を疑っているのは、解っているけど。まあ、それは仕方ないか。

 単刀直入に言うよ。フレッド、俺もおまえと同じ転生者なんだ。そしておまえに勇者の力与えた奴のことも知っている。おまえは勇者の力に覚醒したときに、そいつの言葉を聞いただろう? 俺はそいつがおまえを勇者にした目的を知りたいんだよ」


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書籍版の情報公開第五弾として、カバーイラストの一部を近況ノートとX(旧Twitter)に公開しました。

カバーイラストにはこれまで未公開だったミリアも登場します。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330664923547824

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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