第239話:カミングアウト


「単刀直入に言うよ。フレッド、俺もおまえと同じ転生者なんだ。そしておまえに勇者の力与えた奴のことも知っている。おまえは勇者の力に覚醒したときに、そいつの言葉を聞いただろう? 俺はそいつがおまえを勇者にした目的を知りたいんだよ」


 俺がストレートに伝えると。


「……私には陛下が何を仰っているのか、良く解りません」


 フレッドは上手く隠しているけど。『同じ転生者』という言葉と、俺が勇者の力に覚醒したときの状況に詳しいことに反応した。

 まあ、フレッドは俺のことをまだ疑っているんだから。惚けるのは当然だろう。


「なあ、フレッド。おまえが情報を教えてくれれば、勿論、相応の対価は払うよ。例えばおまえに勇者を辞めさせた上で、おまえと家族の安全と、アーチェリー商会の利益を保証するとかな」


 フレッドが自分が望んで勇者をやっていないことは、フレッドに関する情報を事前に調べいるし。今日、フレッドを観察していたから、だいたい想像がつく。

 望んでいなくても、フレッドに拒否権はないし。フレッドの家族はブリスデン聖王国で交易商をしているから、家族を人質を取られているような状況って訳だ。


「ジルベルト陛下。恐れながら、私はそのようなことを望んでおりません」


 フレッドが本音を言わないことは解っていた。こいつは俺のことを信用していないし。俺にそんなことができるなんて、思っていないだろう。

 普通に考えれば、勇者を辞めさせることなんてできないし。安全は保証できても、商会の利益まで保証することはできないだろう。


 だけど俺なら最難関トップクラスダンジョン産のマジックアイテムで、勇者の力を封じることができる。

 まあ、勇者アベルの力を封じたのは、魔族だってことになっているし。勇者の力を封じた方法まで、一般的に知られている訳じゃないからな。


 それに金で解決できるなら、今の俺に不可能なことはないし。交易商の仕事そのものは、ブリスデン聖王国ではできなくなるかも知れないけど。別の国で新たに始める手助けをすることはできる。


「フレッド。とりあえず、今直ぐ答えを出す必要ないからな。じっくり考えてくれよ。

 俺が聖王ビクトルやジョセフ公爵の回し者だって可能性も、考えているみたいだけど。すでに人質を取っている奴らが、おまえに踏み絵を踏ませる理由はないからな」


 フレッドは頭が回る奴だから、俺が言ったことを直ぐに理解するだろう。

 だけど急いで答えを求めることは悪手だ。こいつに信用して貰わないと、話が進まないからな。


「ねえ、アリウス。私にも話をさせてよ」


 ミリアが喋り出すのと同時に、ミリアだけに発動したままだった『認識阻害』と『透明化』を解除する。

 初めからミリアと一緒に、フレッドと話をすることも考えたけど。ミリアが一緒だと、説明がややこしくなるから。これまで隠れて貰っていた。


 突然現れたミリアに、フレッドが驚いている。だけどそれでもほとんど表情を変えないのは、本当に冷静で肝が据わっているよな。


「フレッド・アーチェリーさん、初めまして。私はミリア・ロンド。その……アリウスの妻で、私も転生者よ」


 ミリアが恥ずかしそうに言うと。フレッドは何故か俺とミリアの顔をマジマシと交互に見てから、考え込むような表情になる。


(アリウス・ジルベルトって、どこかで聞いたことがある名前だと思っていたが。ミリア・ロンドって……いや、まさか……只の偶然じゃ……)


 フレッドは何かブツブツと独り言を言っている。冷静なフレッドが、隠してはいるけど動揺しているように見える。


「フレッドさん。信じられないと思うけど、アリウスにできないことなんてないわ。ブリスデン聖王国とも、過去に一度対立したことがあって。アリウスは実力で捻じ伏せたわ。アリウスは貴方と貴方の家族のことを必ず守ってくれるし。貴方たちの商会のことだって、アリウスなら何とかしてくれるわ」


「ミリア、俺にもできないことはあるからな。だけどおおむね、ミリアが言った通りだよ。『魔王の代理人』の力は、フレッドが考えているよりも大きいってことだ。

 それになんで俺がそこまでするのかって、思うかも知れないけど。俺は勇者アベルを放置したことで、魔族を見殺しにしてしまったから。同じことを繰り返したくないんだよ」

 俺に言えることはここまでで。あとはフレッドに判断して貰うしかない。勿論、フレッドが結論として俺のことを信用しないなら。信用して貰うように、何度でも話に来るつもりだけど。


「ジルベルト陛下……1つだけ質問させて頂いても、よろしいでしょうか?」


 フレッドが悩ましげな顔で言う。質問するべきかどうか、迷っているみたいだな。


「ああ、勿論だ。何を訊いても構わないからな」


 俺が促すと、フレッドは慎重に言葉を選ぶ。


「私が何を申し上げているのか、解らないようでしたら、戯言だと無視してください……陛下は『恋学コイガク』」という言葉をご存じですか?」


 その・・可能性は考えていた。フレッドが転生したのは、ゲームの『恋学』では設定しか存在しないブリスデン聖王国だし。『恋学』の舞台がロナウディア王国だからって、国の名前まで憶えているとは限らない。アリウス・ジルベルトだって、所詮は『恋学』の攻略対象の1人に過ぎないからな。


「フレッド。おまえはここが『恋学』の世界だって、気づいていなかったみたいだな。まあ、おまえの状況を考えたら仕方ないと思うけど」


「え……では、やはり……」


「ああ。俺は『恋学』の攻略対象のアリウスに転生したんだ。身長が伸びて、見た目もゴツくなっているから、解りづらいと思うけど」


「私は『恋学』のミリアに転生したのよ。ミリアはこんな性格じゃないとか、言わないでよね。中身は私だから、仕方ないでしょう」


 俺とミリアの言葉に、冷静な筈のフレッドが唖然としている。


(まさか……ここが『恋学』の世界で、自分の推しキャラに実際に会えるなんて……リアルミリアって、神か……いや、でもアリウスと結婚しているって……)


 またフレッドが、ブツブツと独り言を言っているけど。フレッドも前世で『恋学』が好きだったみたいだな。

 俺は他人の詮索をする気はないから、これまで訊いたことがないけど。この世界に転生した奴は、みんな『恋学』をプレイしたことがある奴ってことか?


「……ジルベルト陛下、ミリア殿下。度々失礼しまして、大変申し訳ございません」


 冷静さを取り戻したフレッドが謝罪する。


「陛下が仰ったように、今回の件を時間を掛けて考えたいと思いますので。大変申し訳ありませんが、私にお時間をください」


「ああ、フレッド。いくら時間を掛けても構わないから、じっくり考えてくれよ」


 フレッドにとっては、自分と家族に関わる重大な問題だからな。慎重になるのは当然だし。むしろ簡単に結論を出さない方が信用できる。


「じゃあ、フレッド。また来るからな」


 俺は『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動して、ミリアと一緒に姿を消す。

 フレッドが横目で何度もミリアを見ていたことは、少し気になるけど。


―――――――――――――――――――


書籍版の情報公開第五弾として、カバーイラストの一部を近況ノートとX(旧Twitter)に公開しました。

カバーイラストにはこれまで未公開だったミリアも登場します。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330664923547824

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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