第229話:パーティー結成


※三人称視点※


「シリウスとアリシアは右の3体をお願いします。左の2体は私が引き付けているうちに、グレイスは最大火力の魔法を準備をしてください!」


 『ギュネイの大迷宮』の第42階層。シリウス、アリシア、グレイス、ミーシャの4人ののパーティーは、スレイプニルと呼ばれる炎を纏う巨大な馬の魔物と戦っている。


 『ギュネイの大迷宮』も42層ともなると、出現する魔物は100レベルを超える。

 スレイプニルは馬の魔物の癖に炎のブレスを吐くし。蹄や噛みつきによる攻撃は、中級冒険者など一撃死する威力だ。


「アリシア!」


「うん、シリウス。解っているわ!」


 だけどそれも、当たればの話で。シリウスとアリシアは3体のスレイプニルの攻撃を全て躱しながら、確実にHPを削っていく。


 それはミーシャも同じで。


「どこを狙っているんですか。そんな攻撃、私には当たりませんよ」


 2体のスレイブニルを翻弄する動きで、攻撃を躱しながら標的を引き受ける。


 ミーシャは所謂避けタンクと、司令塔を兼任している。スピード自体はアリシアと同じくらいだが。相手の次の行動を読む狡猾でトリッキーな動きは、一番上の姉であるマルシアから学んだものだ。


 純粋な攻撃力は4人の中で一番劣るけど。相手の弱点を突くクリティカルな攻撃ができるし。

 戦の場全体の状況を常に把握しながら。双子故のナチュラルに連携をしながら自由に動き回るシリウスとアリシアと、無詠唱で速射できる魔法に頼りがちなグレイスをコントロールして。自分はパーティーの連携に一番必要な場所にポジショニングする。


「ミーシャ!」


「はい、グレイス。シリウスとアリシアも避けてください!」


 ミーシャの合図で3人が素早く後退した直後。グレイスが第10階層魔法『流星雨メテオレイン』を放つ。


 速射型のグレイスは、ゆっくりと魔力を練る必要がある不慣れな第10階層魔法を、ほとんど戦闘で使っていなかったが。ミーシャがタンクとして機能することで、時間を掛けて魔法を発動することができるようになった。


 グレイスの『流星雨』で、シリウスとアリシアがダメージを与えた3体が消滅。ミーシャが引き付けていた2体もHPをゴッソリ削られるが、さすがは100レベル超の魔物。まだ生きている。


「止めはシリウスとアリシアに任せますよ」


「ミーシャ、良いの?」


「ええ。魔物を倒すのは私の仕事ではありませんので。勿論、必要なときは戦いますけど」


「じゃあ、遠慮なく行くね!」


 シリウスとアリシアが速攻を仕掛けて、残り2体のスレイプニルを仕留める。


「この階層の魔物も普通に倒せるね。これもミーシャのおかげだよ」


「そうね。私はシリウスとの連携は慣れているけど。グレイスとはパターンを決めて対応するしかないと思っていたわ。だけどミーシャが的確に指示をしてくれるから、凄く動きやすいわ」


「俺もミーシャが魔物を引き付けてくれるから、余裕を持って魔法を放つことができるぜ。第10界層魔法なんて、まだまだ実戦じゃ使い物にならないと思っていたが。集中する時間さえあれば、十分使えるな」


 3人に褒められて、ミーシャは嬉しそうに笑う。


「そんなに褒めても何も出ませんよ。ですが私なんてマルシア姉さんに比べたら、まだまだですから」


「マルシアさんって、ミーシャみたいな戦い方をするの? ジェシカさんたちのパーティーの斥候だって聞いていたけど」


「アリウスさんと兄弟の2人に言うのは、おこがましいかも知れないですけど。マルシア姉さんは戦闘でも魔法でも指揮でも、全部高いレベルで何でもできるんですよ。私は全部マルシア姉さんに教えて貰ったんです」


 ミーシャが言っていることは身内贔屓でも、誇張でも冗談でもなく。『白銀の翼』はパーティーを組んでから長いから、阿吽の呼吸でいちいち指示をすることはないが。マルシアは常に全体の状況を把握して、必要なときは的確な指示をしている。


 タンクはジェイクがいるし。アタッカーも物理はジェシカとアランが、魔法はマイクがいるから、普段はサポート役だけど。実は物理でも魔法でもアタッカーとして十分通用するレベルだ。


「マルシア姉さんはああいう・・・・性格ですから、誤解する人も多いですけど。私は姉さんを尊敬していますよ」


 ミーシャは誇らしげに言う。


「話が逸れてしまいましたね。褒めてくれるのは嬉しいですが、あまり私のことを過信しないでください。私も指示を間違うこともあると思いますので。それに油断は禁物です。何があっても直ぐに対応できるように、安全マージンも十分に取っていきましょう」


 技術や能力もそうだが、慎重な性格のミーシャだからこそ、本当に信頼できると3人はそれぞれに思う。まだパーティーを組んだばかりだけど、このパーティーなら上手くやっていけると。


「私もマルシアさんのことが好きよ。マルシアさんは他の人を良く揶揄からかうけど。それだけじゃなくて、面倒も見てくれるわ」


「アリシア、ありがとうこざいます。アリウスさんには集ってばかりみたいですけど」


「アリウスお兄ちゃんも、本当に嫌な相手なら奢らないわよ」


「そうだよ。マルシアさんとアリウス兄さんの関係は、悪友って感じで僕は好きだな」


 アリシアが、うんうんと頷く。


「ミーシャはマルシアさんみたいになりたいのね」


「そうですね、実力的には。性格的は私には真似できないと言いますか……真似したくありませんけど」


 苦笑いするミーシャに、アリシアとシリウスがクスクスと笑う。


「ところでグレイスは、ヒュウガさんのことをどう思っているんですか? 貴方たちはヒュウガさんに面倒を見て貰っているんですよね」


 突然話を振られて、グレイスは戸惑うが。


「まあ、ヒュウガさんは頼れる兄貴って感じだな。言葉よりも手が先に出るけど、あの人が言っていることは間違っていないし。俺たちがどんな馬鹿をやっても、絶対に見捨てないからな。馬鹿をやった奴は、ヒュウガさんにボコボコにされるけど」


 ヒュウガの話をするグレイスの表情から、尊敬していることが解る。


「アリウスお兄ちゃんとは、ちょっとタイプが違うけど。ヒュウガさんとアリウスお兄ちゃんは仲良くなったみたいね」


「同じくらいの年齢の男の人で、アリウス兄さんの友だちって意外と少ないんだよ。僕たちが知っている人だと、エリク殿下とバーン殿下くらいで。大抵は相手の方が年上だからね」


「殿下って……王族が友だちとか、さすがはアリウスさんだな。だがそういう話なら、ヒュウガさんは光栄ってことか」


「光栄なんて言うと、アリウス兄さんは嫌がると思うよ。兄さんは堅苦しいことが嫌いだから」


「グレイスも、アリウスお兄ちゃんに敬語を使わなくて良いわよ。お兄ちゃんはそういうの全然気にしないから」


「ああ。カーネルの街の冒険者ギルドで、アリウスさんがそんなことを言っていたけど。本当にそんな口を利いて構わないのか?」


「ええ。アリウスお兄ちゃんは物凄く優しいから、絶対に怒ったりしないわ」


「当然だよ。アリウス兄さんは適当なことなんて絶対に言わないからね」


 このとき。ヒュウガの話をしていた筈なのに、途中から完全にアリウスの話になって来たなと、グレイスとミーシャは思っていた。


 そしてアリウスの話になると、途端に熱を帯びるアリシアとシリウスに――


((この2人って……もしかして、ブラコンなのか(なんですか)?))


 内心では少しだけ引いていた。

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