第230話:告白
もう直ぐ誕生日が来て、俺は21歳になる。
自分の誕生日に対して、特に思うところはないけど。みんなが祝ってくれるそうだから、少し楽しみだ。
夜、エリスと2人の部屋で過ごしていると。
「ねえ、アリウス。そろそろ、みんなを受け入れてくれないかしら?」
エリスの言葉の意味は解っているつもりだ。
「俺にとってエリスが特別なのは変わらないよ」
「アリウスが私を大切にしてくれるのは嬉しいわ。私、物凄く幸せよ」
エリスは嬉しそうに、甘えた声で言う。エリスが俺に甘えて来るのは、2人きりでいるときだけ。一緒に住んでいる他のみんなの気持ちを考えているからだ。
「勿論、これはアリウスとみんながそれぞれで決めることだから。私がとやかく言うのは、おこがましいことは解っているわ。だけど私はみんなにも幸せになって貰いたいのよ」
ソフィア、ミリア、ノエル、ジェシカ。4人は俺にとって大切な存在で、ずっと守っていきたいと思っている。だけどみんなを異性として受け入れるのは話が違うだろう。
「エリス、俺は本気で好きになったことがなかったから、偉そうなことは言えないけど。 俺が転生する前にいた世界では男と女は一対一で、パートナーと認めた相手と結婚していた。貴族だって特別じゃなくて。だからみんなを受け入れることは、エリスに対する裏切りだと俺は思うんだ」
俺が転生者だってことは、みんなに話してある。エリスは俺が言う前から、気づいていたけど。
「アリウスの考え方を否定するつもりはないけど。私は貴方がみんなを受け入れても、裏切ったなんて絶対に思わないわ。アリウス、私は貴方を独り占めするつもりはないのよ。これは最初から言っているわよね?」
エリスが優しく微笑む。偽りのない心からの優しい笑みだ。エリスもみんなのことを本当に大切だと想っている。
「アリウス。大切なことは貴方が、みんなが、どうしたいかってことよ」
エリスが納得しているなら、確かにその通りだけど。
「俺のことはともかく。俺にとってエリスだけが特別なんだ。そんな俺とみんなが
みんなに対する想いに順番を付けるつもりはないけど。俺にとってエリスが特別なのは事実だからな。
「みんなにもアリウスを独占したい気持ちがあるとは思うけど。お互い納得ずくで、アリウスとの関係を深めたいと思っているなら。それも幸せの形の一つだと思うわよ」
ソフィアは貴族だから、そういう関係を受け入れられるかも知れない。だけど他のみんなは平民出身だし。特にミリアは俺と同じ転生者だからな。
そんなことを俺が考えていると。
「みんなの気持ちを考えるなら、本人と直接話してみれば良いじゃない。ミリアはアリウスと同じ転生者みたいだけど、貴方と同じ考えとは限らないないわよ」
「ミリアが転生者だって、エリスは知っていたのか?」
ミリアが転生者だと、他のみんなに話したことはない。俺が勝手に話すようなことじゃないからな。
「ミリアはアリウスとの距離感が他の人とは違うから、初めて会った頃から気づいていたわ。同じ物を共有しているって感じがするのよ。それにミリア本人が、私たちみんなに自分は転生者だって話してくれたわ」
ミリアもそれだけみんなのことを信頼しているってことだな。
「そうだな、エリス。確かにエリスが言う通りで、みんなと話してみるよ。エリスに甘えることになるかも知れないけど」
俺の正直な気持ちを伝えて、みんなの想いを訊いて。それでも構わないと言うなら、俺はみんなを受け荒れようと思う。
「アリウスが甘えてくれるなら、私は物凄く嬉しいわよ」
エリスはいつも俺に寄り添って、みんなのことを考えてくれる。そんなエリスの想いに、俺は応えたい。
※ ※ ※ ※
翌日。夕食の後に、みんなと話をすることになって。俺は
夜。家に帰ると、みんなはもう帰って来ていた。いつも通りに、みんなで一緒に夕飯を食べる。
風呂に入って、いつもなら後は寝るだけというタイミング。みんなでリビングに集まる。
こうして一緒に過ごすのにも、すっかり当たり前になったけど。だからこそ俺の方からハッキリと想いを言葉して伝えて。みんなの気持ちを確かめる必要がある。
俺の言葉を待っているみんなに、ゆっくりと想いを伝える。
「みんなだから正直に言うけど、俺は一瞬でも気を抜けば死ぬような戦いを、毎日のように続けている。そうしないと強くなれないし、俺はもっと強くなりたいからな。
ギリギリだけど絶対に生き残るように戦っているし、俺は死ぬつもりなんてない。俺はこの生き方を変えるつもりはない。俺の感覚的にはこれが生きることだからな。
俺にとってエリスが特別なのは今でも変わらない。だからこんな俺が、みんなを幸せにするなんて簡単に言えないし。俺のわがままなことは解っている。だけど俺は、他の誰にもみんなを渡したくないんだ。だからこれからもずっと、俺と一緒にいてくれないか」
「アリウス……なんか、無茶苦茶なことを言っているわよね。全部正直に言うのは、アリウスらしいけど」
ミリアが呆れた顔をする。
「ああ、ミリア。無茶苦茶なことを言っている自覚はあるよ。だから嫌なら嫌だって、ハッキリ――」
「嫌な筈がないじゃない! 私はアリウスとずっと一緒にいるわよ!」
ミリアは俺の言葉を遮って、胸に飛び込んでくる。
「ミリア……同じ転生者として、俺のことを考えてくれて。相手が誰だろうと、グイグイ懐に飛び込んでいく。そんなミリアが大好きだよ」
「私もアリウスが大好きだよ……絶対に放さないんだから」
「私だって……アリウス、ずっと一緒にいてください」
ソフィアは涙を浮かべながら、俺の手をギュッと握る。
「ソフィアとは色々あったけど。俺のことをずっと傍で見ていてくれて、いつも一生懸命なソフィアが俺は大好きだ」
「私もアリウスが大好きです……アリウスへの想いはエリス様にだって負けません」
「私も……アリウス君と一緒にいて良んだね? アリウス君、大好きだよ」
ノエルが抱きついて来る。
「ノエル……ノエルは学院でできた俺の最初の友だちで。人見知りなのに、頑張って想いを伝えてくれた。ノエルと一緒にいると安心するんだよ。そんなノエルが俺も大好きだよ」
「アリウス君……」
ジェシカは
「アリウス……私なんかで本当に良いの?」
「ジェシカ、俺はジェシカが良いんだ……ジェシカと出会ったときは、何だこいつって思ったけど。いつも真っ直ぐで、面倒見が良くて。みんなのことを支えてくれるジェシカが俺は大好きなんだ。ジェシカ、ずっと待たせて悪かったな」
「本当にそうよ……アリウスの馬鹿!」
ジェシカは俺の首にギュッと抱きついて、嗚咽を漏らす。
みんなが俺と一緒にいると言ってくれたんだ。俺の覚悟は決まっている。
「俺は俺のやり方で、みんなを幸せにできるように頑張るよ。みんなも自分のやり方で、自分のやりたいことをしてくれ。みんなのことは俺が絶対に守るから」
「「「「アリウス(君)……」」」」
女たらしとか、ハーレム野郎とか。言いたい奴は、好きに言えば良い。他人が何て言おうと、俺は構わないし。他の何よりも、俺にとってみんなが大切だからな。
エリスが俺たちのことを優しく見守っている。
「みんな、これから一緒に幸せになるわよ。アリウスなら私たちみんなを幸せにできるし。私たちがアリウスを幸せにするんだから」
「「「「エリス(さん)(様)……」」」」
やっぱり、エリスには敵わないな。
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