第227話:順調だな
ロナウディア王国の辺境。魔族の領域に面する俺が譲渡して貰った土地で、新しい街の建設工事は順調に進んでいる。
魔法を使って工事を進めているから、普通の建設工事の何十倍も早く進んでいる。街を囲む外壁もすでに完成していて、街の中心には城塞が建てられている。
あとは公的な幾つかの建物と、移住して来る人たちの住居を事前にある程度確保して。一時的に滞在するための宿屋とか。建物自体は一週間もあれば完成しそうだけど。内装や家具とか、食料などの必要な物資とか。この辺りは全部魔法に頼る訳にはいかないからな。
「アリウス、城塞の感じはどうですか? 仕様書通りに出来上がっているとは思いますが」
建設工事全体の責任者であるソフィアが、確認して来る。ソフィア配下の工事専門の魔術士たちがいるから、これだけ早く工事が進んでいる。
「ああ。ソフィア、ありがとう。イメージ通りで全く問題ないよ。防衛設備の方は、アリサに任せているけど。そっちも問題ないだろう」
一応、ここはロナウディア王国から完全に独立した国になるから。他国からの来賓を迎えたときは、城塞に通すことになる。別に見栄を張るつもりはないから、そこまで大きい城塞じゃないけど。
最悪の状況になったときに、住民が避難する場所になるから。防備は厳重に固める必要がある。
「アリウスはん、その辺は抜かりはないで。アリウスはんが不在のときにドラゴンが攻めて来ても、完璧に防いで見せるわ。まあ、
城塞の外壁は魔石の魔力を付与することで、下手なマジックアイテムよりも頑丈にできている。街の外壁の上に設置予定のバリスタも、最難関ダンジョンの魔石から造った魔道具だから。並みのドラゴンなら一撃で仕留められるだろう。
この辺りもアリサの伝手で、優秀な魔道具士に依頼できた。アリサの人脈と交渉能力は、本当に優秀だよな。
「あとは街を覆う結界やけど、もう完成しているで。アリウスはん、試してみるか?」
「そうだな。試しておくか」
城塞の地下には、金属製の巨大な魔道具が設置されていて。魔石を消費することで、街全体を結界で覆うことができる。
広大な範囲をカバーする結界なんて、大量の魔石を消費するけど。最難関ダンジョン産の魔石なら、1つあれば数日は結界を維持することができる。
結界による光の壁が、街全体を包み込むと。街の防衛のために雇った傭兵魔術士たちが、『
「あとは街の外壁も、城塞並みに強化したいな。外壁を補強する形で、魔力を付与した巨大な盾のようなモノを設置したいんだけど。サイズや形状、設置場所の指定はソフィアに、魔道具士への依頼はアリサに頼めるかな?」
「ええ、アリウス。私の方は問題ありませんが」
「アリウスはん。街の外壁全部を覆うとなると、また
アリサが呆れているけど、金は使い切れないほどあるからな。こういうときに使うべきだろう。
後はもう1つ。街の防衛のために、
※ ※ ※ ※
翌日の午後。俺は世界最古の国と言われるヴァリアス王国にある、冒険者ギルド本部に向かった。
冒険者ギルド本部の建物に入ると。中にいた職員たちがギョッとした顔で、慌てて道を空ける。
「アリウス・ジルベルト……」
「『魔王の代理人』……」
もう何度も来ているけど。この反応は相変わらずだな。まあ、俺の方は慣れたけど。
「そんなに慌てるなよ。俺は何もしないからな。オルテガさんに会いに来たんだ。さっさと通してくれよ」
奥にあるギルド本部長の部屋で、オルテガと話をする。オルテガとは定期的に会って、情報交換をしている。
魔界や天界のことも、オルテガにはそれとなく話してある。だけどあまりリアルな話をしても、ついて来れないのは解っているから。オルテガには魔王以上の脅威が存在することだけを伝えて。本当にヤバい状況になったら、直ぐに連絡すると約束している。
オルテガの反応は半信半疑って感じだったけど。それでも俺が言うならと、一応信じてくれた。
「アリウスが国を創るって話を聞いたときは、冗談かと思ったが。順調に進んでいるみたいだな」
街の建設状況について話すと、オルテガはニヤリと笑う。
「魔族と人間が共存する街か……アリウス以外の奴なら、不可能だって言ってやるんだが。おまえなら本当に実現しそうだからな。それで国の名前はもう決まっているのか?」
「ああ。思いきりベタだけど『
「ホント、ベタだな……まあ、良いんじゃないか。世の中は解りやすいことが一番だからな」
オルテガは疲れた笑みを浮かべる。シンの後のSSS級冒険者序列第1位になって、冒険者ギルド本部長を兼任しているオルテガの苦労は絶えないだろう。
何しろオルテガが相手をするのは、誰の言うことも聞かない自由奔放な冒険者たちや。世界中の冒険者ギルドを裏で支配する者たちや、各国の権力者だからな。
「
俺の言葉に、オルテガはさらに疲れた顔をする。
「おまえが先払いで金を払っているんだから、キッチリ仕事はさせるがな。アリウス、もう一度だけ訊くが……おまえ、戦争を始めるつもりじゃないんだよな?」
「当たり前だろう。万が一、俺が誰かに戦争を仕掛けるとしても。あんなモノに頼る必要がないことは、オルテガさんだって解っているだろう?」
俺は、建設中の街の防衛に関するもう1つの手段を確保するために、ある冒険者に仕事を依頼している。まあ、一応冒険者として登録しているだけで。そいつを冒険者と呼ぶのは、色々と語弊があるけどな。
そいつのことは以前から知っていて。何度か自分で直接交渉したけど、全然話が進まなかった。
だけどオルテガと情報交換のために会ったときに、そいつのことを話したら。実はオルテガの昔からの知り合いだと解って。オルテガに交渉して貰ったら、そいつがアッサリ諸諾したんだよ。
「アリウス、解っていると思うが。今回の件は、俺個人として話をしただけで。冒険者ギルド本部長として動いた訳じゃないからな」
「ああ。勿論、解っているよ。冒険者ギルドを通して依頼した訳じゃないし。オルテガさんは、知り合いと
オルテガが念を押した理由は解っている。俺がそいつに依頼したのは、普通に考えればヤバい仕事で――いや、別に犯罪に関わることじゃないけど。
そんな仕事を
「オルテガさんには大きな借りを作ったよな。この借りは絶対に返すからな」
「アリウス、何言ってるんだ。おまえには魔王の件で散々世話になったし。今だって協力関係を結んだことで、随分と助けられているんだ。借りを作っているのは俺の方だ」
「いや、魔王アラニスとのことは、オルテガさんのために動いた訳じゃないし。協力関係でメリットがあるのは、お互い様だからな。だから今回の借りはキッチリ返すよ」
「アリウス、そう言って貰えるのは有り難いが……そうだな。俺が冒険者ギルド本部長をクビになりそうになったら、そのときはおまえに頼るかも知れない。俺は中途半端な形で、ギルド本部長を辞めるつもりはないからな」
オルテガに替わる人材なんて、そうはいないだろうから。冒険者ギルドを支配している奴らが、オルテガのクビを簡単にを切れるとは思わないけど。
理屈に合わないことをやる奴も、世の中には沢山いるからな。もしそんな状況になったら、俺も当然動くつもりだ。
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