第226話:理想と現実
明け方まで飲み明かしても、俺がやることは変わらない。
ロナウディア王国の王都にある俺の家に戻って。まずは地下に作った修練場で、赤ん坊の頃からの日課の鍛錬を始める。魔力で全身に負荷を掛ながら、筋トレと魔力操作を同時に行う。
鍛錬を終えて1階に行くと。エリス、ソフィア、ミリア、ノエルの4人が起きていて。みんなで朝食の準備をしていた。
「みんな。昨日は帰らなくて、悪かったな」
「アリウス、お帰りなさい。たまには構わないわよ」
「アリウス、おはようございます。そうですよ。アリウスも羽を伸ばさないと」
「私も一緒に行きたかったけど。アリウス、先にシャワーを浴びてきたら?」
「そうだよ、アリウス君。朝ごはんはもうすぐできるから」
ちなみにジェシカは俺と一緒に帰って来たけど。シャワーを浴びてベッドに直行。今は寝ている。
シャワーを浴びて戻って来ると。みんなで朝飯を食べる。みんなは卵料理にサラダにパンとフルーツと、シンプルなメニューで。よく食べる俺の分だけ朝から肉料理が並ぶ。
毎日作って貰うのは悪いからと言ったけど。たくさん食べて貰うのが嬉しいからと、これが定番になった。
「みんな。サボって、ごめん……まだ頭が回ってないわ」
ジェシカも起きて来て、一緒にテーブルを囲む。
「ジェシカもたまには構わないわよ。まだ寝ていても良いわよ?」
「そうですよ、ジェシカさん。無理して起きなくても」
「ジェシカさん、朝ごはんは食べる?」
「ごめん……ちょっと、無理かも」
「じゃあ、コーヒーだけ入れるね」
「ありがとう、ノエル」
俺たち6人の生活も、すっかり当たり前になった。みんなは元々仲が良いから、お互いを気遣いながら楽しくやっている感じだ。
「ジェシカ、今日はどうするんだ?」
「私たちは休みにしたわよ。アリウスは本当に元気ね。私も見習わないと」
「別に無理する必要はないだろう。今日はゆっくりしていろよ」
「うん。そうさせて貰うわ」
朝飯を食べ終えると、エリスとソフィアは自分の所領へ『
俺はエリスと結婚する前から、この家に1人だけ使用人を雇っている。
結婚したし、みんなも一緒に住むようになったから。使用人を増やすかと、みんなに相談したけど。食事はみんなで作るから必要ないと言われて、結局今でも使用人は1人しかいない。
「サマンサさん。今日はジェシカが徹夜明けで寝ているので、よろしくお願いするよ」
「アリウス様、畏まりました。ジェシカ様のお世話の他は、いつも通りでよろしいでしょうか?」
「ああ。手間を掛けてさせて悪いけど」
「いいえ。皆様には大変良くして頂いていますので、これくらいは当然です」
サマンサは俺の実家のジルベルト家の侍女長をしているマイアの従妹で。40代半ばの如何にも仕事ができそうな人だ。
以前は某貴族の家の侍女長をしていたそうで。何度言っても口調を変えてくれない。
みんなが食事を作ってくれるから、サマンサの仕事は主に掃除洗濯と買い出しだ。必要な物はエリスが代金とメモを一緒に渡している。
ジェシカのことはサマンサに任せたから、俺も出掛けることにする。
。
今日も俺は
俺たちは1日くらい眠らなくても、全然問題ないからな。
※ ※ ※ ※
数日後。この日は他に予定があるから、午前中で世界迷宮の攻略を終える。
結局、マルシアの8番目の妹のミーシャは、シリウスたちとパーティーを組むことになって。早速、グレイスを含めた4人で『ギュネイの大迷宮』の攻略を始めている。
シリウスとアリシアの夏休みが終わった後は、平日はミーシャとグレイスの2人でパーティーを組んで。シリウスとアリシアが休みの日に合流することになった。
ミーシャとグレイスに迷惑を掛けることになるけど。ミーシャとグレイスはそれで構わないらしい。
「シリウスとアリシアのような人材は、そうはいませんから。他の人とパーティーを組むくらいなら、2人が学院を卒業するまで待ちますよ」
「そうだな。シリウスとアリシアの実力は本物だからな。俺も時間があるときは鍛錬を積んで、2人に負けないようになるぜ」
ちなみにミーシャは16歳で、グレイスは17歳。2人もこの年でA級冒険者だから、相当優秀だろう。
「アリウス君。あたしの姉妹は全員優秀だからね!」
ドヤ顔のマルシアが、ちょっとムカついたけど。
※ ※ ※ ※
この日。俺が向かったのは、魔族の領域だ。
イシュトバル王国との国境付近にある魔族の氏族の砦。ここは6年前に、勇者アベルが率いる勇者パーティーとイシュトバル王国軍が侵攻した場所で。
その後も、魔族たちが復讐のために逆にイシュトバル王国に攻め込んで。一悶着あった。
「『魔王の代理人』アリウス・ジルベルト。貴様が魔族のために動いていることは知っているが。人間どもに屈辱を味わされた我らビザルディアに、同じ街で人間と共存しろだと? 貴様は何を言っているのか、解っているのか?」
魔族の氏族であるビザルディアの氏族長、アルモス・ビザルディアは憮然と言う。
アルモスに持ち掛けた話は、俺がロナウディア王国から譲渡して貰った魔族の領域に面する土地で建設中の街に、ビザルティアの魔族の一部に移住して貰うことだ。
勿論、食料や住居などの当面必要な物と、街での仕事はこっちで用意する。
ビザルディアは勇者アベルのスキル『
「アルモス、俺は別に強制するつもりはないよ。あくまでも人間と共存してみないかと、提案しているんだ。
勇者アベルが一方的に侵攻したことは知っているし、奴がしたことは俺も許せないと思う。だけどだからと言って、全ての人間が敵だって訳じゃないだろう」
人間に同胞を殺されたから、人間という種族を敵対視する。まあ、人間にも同じように魔族だから敵だと考える奴は、今でも結構いるからな。
俺も個人的な恨みや復讐を否定するつもりはないけど。相手が魔族だから、人間だからという理由だけで、敵と考えるのは思考停止だからな。
「仮に、我らが人間と同じ街に住んだとして。人間を殺したら貴様はどうする?」
「相手がそいつの家族や仲間を殺した奴なら、ルールに基づいた仇討は認める。それ以外は法に基づいて、殺した奴を裁くよ。人間が魔族を殺した場合も同じようにね。
俺は魔族だから、人間だからと区別するつもりはないし。俺の街でそんなことはさせない。勿論、法で裁くには力の裏付けが必要だからな。法に背く奴は力づくで従わせる」
性善説の理想論だけで物事は進まないからな。自分の手を汚す覚悟はある。それでも魔族と人間の共存が簡単に進むとは思わないけど。
「アルモス、直ぐに答えを出さなくても構わないからな。俺は他の魔族の氏族にも声を掛けていて。幾つかの氏族からは、移住するという話を貰っている」
人間と直接争ったことがない魔族の領域の奥に住む氏族は、人間との交易にメリットを感じていることもあって。意外なほど簡単に了承してくれる氏族もあった。
だけどビザルティアの魔族は、同胞を殺した人間に恨みを懐いているし。この話が簡単に進むとは、俺も考えていない。逆のケースで魔族に侵攻された国で、魔族に恨みを持っている奴らもいるからな。
「アルモス、また来るよ」
それでも俺は諦めるつもりはない。魔族だからと、人間だからという理由だけで、互いに敵視することを止めるには、殺し合った当事者たちが納得する必要があるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます