第225話:こんな日も


 最難関トップクラスダンジョン『太古の神々の砦』の1階層を、10分も掛からずに攻略した後。


 ジェシカたちは高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』の攻略に戻ると言うので。俺はジェシカたちを『竜の王宮』で合流した場所に『転移魔法テレポート』で送ってから。俺はヒュウガと2人でカーネルの街の冒険者ギルドに戻ることにした。


 今夜、グレイとセレナがカーネルの街の冒険者ギルドに来ることを、ジェシカに伝えると。ジェシカたちも後で合流することになった。

 マルシアは他にも俺に用があるとか言っていたけど、俺に奢らせたいだけじゃないのか?


 ジェシカたちを送って行く間も、ヒュウガはずっと上機嫌だった。


「なあ、ヒュウガ。そんなに俺の実力が知りたかったのか?」


 俺の質問に、ヒュウガは興奮気味に応える。


「ああ、アリウスさん。俺は師匠から話を聞いていたアリウスさんが、圧倒的な実力者だと実感できたことが物凄く嬉しいんだよ!

 しかもアリウスさんは俺のために、わざわざ実力を見せてくれたんだからな。最高な気分に決まっているだろう!

 うちの馬鹿どもにも、アリウスさんの実力を解らせてやりたいぜ!」


 ここまで言われると、本気で恥ずかしいから止めてくれよ。


「俺は別に他人に何て思われようと構わないからな。ロギンたちに解らせてやる必要なんてないだろう。あいつらが俺に喧嘩を売るなら、話は別だけど。売られた喧嘩は買う主義だからな」


 ヒュウガはニヤリと笑う。


「アリウスさんに喧嘩を売るような舐めた奴は、俺がシメてやるぜ……だがそうすると、あいつらにアリウスさんの実力を解らせることができないか」


「その辺のことは、おまえたちで勝手にやってくれよ」


 カーネルの街の冒険者ギルドに戻ると、アリシアとシリウスが出迎える。


「アリウスお兄ちゃん、お帰りなさい」


「アリウス兄さん、早かったね」


 全部で2時間も掛かっていないから、確かに早かったな。

 アリシアとシリウスはグレイスとずっと打ち合わせを続けていたようで。俺たちが帰って来たときも、3人でテーブルを囲んで話していた。


 今は午後4時前で。早めにダンジョンから戻って来た冒険者が、少しずつ集まって来ている感じだな。


 奥のテーブルには、ロギンとマウア。他にもヒュウガの仲間たちが半分くらい集まって、すでに酒を飲み始めている。

 ロギンもヒュウガに直ぐビビるくせに、結構良い度胸しているよな。


「アリウスさん。ロギンの奴を殴って来るぜ!」


「ヒュウガ、よせって。そんなことより、俺はうちの弟と妹とグレイスが、どんな打ち合わせをしたのか。興味があるんだよ」


 俺たちはアリシアとシリウスと一緒に、グレイスがいるテーブルに向かう。


「それで、おまえたちの打ち合せは順調なのか?」


「うん。とりあえず、考えられる状況ごとの連携パターンについては、話が済んだよ」


「あとは実際に試してみて調整しないと。想定通りに連携できるか解らないから」


 シリウスとアリシアは解っているみたいだな。


「あとはパターンに縛られるのは危険だからな。行動パターンをガチガチに決めてしまうと、予想外の状況になったときに対処できないからな。不測の事態でも対処できるように、パターン通りに行動しないことも想定しておけよ」


 シリウスとアリシアはそれなりに強いけど、経験不足だからな。予想外のことも沢山起きるだろう。


「アリウス兄さん、解っているよ。作戦は立てても、状況に応じて臨機応変にだよね」


「アリウスお兄ちゃん、連携パターンを崩す合図も決めてあるわよ。私たちに経験が足りないことは解っているから。ダンジョンの経験はグレイスの方があるから、頼りにしているわ」


「いや、俺だって、そこまで経験豊富って訳じゃないからな。俺が知っていることは全部教えるけど、俺の思い込みって可能性もあるから。そんなに信用するなよ」


 グレイスも解っているみたいだ。


「シリウス、アリシア、グレイス。おまえたちなら、上手くやれそうだな」


 しばらく話していると、ツインテール女子のヘルガとゲイルたちが帰って来て。さらに一時間ほどで、ジェシカたちがやって来た。


「アリウス君、さっきぶりだね。なんか凄いところを見せて貰ったけど。あたしたちとアリウス君だけの秘密ってことだよね」


 思わせぶりなことを言うマルシアに、周りの冒険者たちは興味津々だ。


「いや、別に秘密でも何でもないからな。それよりも、おまえが一緒に連れて来たのは誰だよ?」


 ジェシカたちと一緒にやって来たのは、マルシアと同じ猫耳の10代半ばの獣人。顔もなんとなくマルシアに似ている。


「あたしの8番目の妹のミーシャだよ。シリウスとアリシアがパーティーのメンバーを探していたから、うちの妹はどうかと思ってね」


「皆さん、初めまして。マルシア姉さんの妹のミーシャ・エスペルです。これでも一応A級冒険者ですが、まだまだ若輩者ですので。皆さん、お手柔らかにお願いします」


 ミーシャはニッコリ笑って、頭を下げる。


「マルシア姐さんの妹なのに、礼儀正しいんだな?」


「へえー……ヘルガも言うね。あとでイジメるからね」


「ちょ、待ってくれよ、マルシア姐さん! 冗談だって!」


「いや、マルシア。他の奴もたぶん同じことを思っているよ。おまえは礼儀なんて食えないから要らないとか、言いそうだからな」


「アリウス君も酷いな。まあ、その通りだけど。あたしは傷ついたから、今日はお詫びにアリウス君の奢りだよね」


「マルシア、あんたね……アリウス。ホント、ごめんね」


 まあ、マルシアはいつものことだからな。


「奢るのは構わないけど。そういう話なら、とりあえず顔合わせだな。パーティーを組むかどうかは、本人たちが決めることだからな」


「さすが、アリウス君は太っ腹だね。みんな! 今日は全部アリウス君の奢りだって!」


 冒険者たちが歓声を上げる。そこまでするとは言っていないけど。まあ、構わないか。

 ミーシャはシリウス、アリシア、グレイスと一緒にテーブルを囲んで。食事をしながら話をしている。あとは本人たちに任せれば良いな。


「よう、みんな。アリウスの結婚式の二次会以来だな」


「みんな、元気にしてた?」


 午後9時を過ぎた頃。グレイとセレナがやって来ると、冒険者たちが再び歓声を上げる。


「グレイさん、こっちで一緒に飲んでくれよ!」


「セレナさん、今日も綺麗ですね! 是非、俺たちと飲んでください!」


 グレイとセレナはやっぱり特別だ。『魔王の代理人』の俺と違って、良い意味で有名人だし。2人とも気さくで面倒見が良い性格だから。どこの街の冒険者ギルドに行っても、冒険者たちが集まって来る。


 ヒュウガの仲間たちもグレイとセレナのことは知っているようで。近くに行きたくてウズウズしているけど、俺たちと話をしているから近づけない奴とか。逆に肩身が狭そうに大人しくしている奴とか、反応は様々だ。


「おまえがヒュウガか。馬鹿な奴らの面倒を見ている面白い奴だって、アリウスから聞いているぜ」


「ヒュウガはケヴィンの弟子なのよね。あいつ、元気にしている?」


「はい。グレイさん、セレナさん……お二人が俺ことを知っているなんて、感激ですよ! 馬鹿どもを束ねている時点で、俺も馬鹿ですが。よろしくお願いします!」


 結局、この日はみんなに『伝言』で連絡して。明け方まで飲むことになった。

 勿論、シリウスとアリシアは早めに宿屋に引き上げたけど。

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