第222話:シリウスとアリシアの実力


 シリウスとアリシアの先制攻撃。黒髪の魔術士グレイスと、金髪ウルフカットのタンク、マウアはギリギリで受け止める。


「……チッ、危ねえな!」


「あんたたちも、少しはやるみたいね」


 グレイスが無詠唱の攻撃魔法で、マウアは巨大な盾で押し付けるように反撃する。

 だけどシリウスとアリシアは、事前に支援魔法を発動してることもあって。素早く動いて距離を取ると。不規則な動きでグレイスとマウアの攻撃を躱しながら、再び攻撃を仕掛ける。


 アリシアが得意な第7界層魔法『電光鎖縛チェインライトニング』を放って。シリウスが『電光鎖縛』の効果範囲のギリギリ外側から、長剣ロングソード短剣ショートソードを叩き込む。


 マウアがシリウスの攻撃を防いでいるうちに。アリシアが高速で横を擦り抜けて、後ろにいるグレイスを狙う。


「やらせるか!」


 グレイスは防御魔法でアリシアのレイピアを防ぎながら、攻撃魔法で反撃する。だけど乱戦状態になっているから、範囲攻撃魔法は使えない。


「あんたたち、ちょこまかと動いてるんじゃないよ!」


 マウアは槍の連続攻撃でシリウスを牽制しながら、グレイスを攻撃するアリシアを挟撃しようとするけど。


「アリシア!」


「うん。解っているわ!」


 アリシアが横っ飛びで離脱すると同時に、シリウスが第7界層範囲攻撃魔法『獄炎ヘルフレイム』を放った。


 アリシアとシリウスは第10界層魔法まで使えるけど。第10界層魔法の魔力操作の精度はまだ低いから、実戦だと使い慣れた魔法を使う。

 グレイスが第10界層魔法『完全防壁アブソリュートシールド』じゃなくて下位の防御魔法を使っているのも、同じような理由だろう。


 シリウスの『獄炎』がグレイスとマウアのHPを削ると。マウアが『完全治癒パーフェクトヒール』で回復させる。

 戦いを観戦しているヒュウガの仲間たちは、もう誰も文句を言っていない。

 グレイスとマウアを明らかに押しているシリウスとアリシアの戦いぶりに、感心しているみたいだけど。


「シリウス、アリシア。相手を殺しそうになったら、俺がどうにでもするから。本気・・で戦えよ」


 俺の言葉に、ヒュウガの仲間たちが苦笑する。だけどヒュウガだけは笑っていない。


「「うん、解ったよ(わ)!」」


 いきなり、シリウスとアリシアの動きが変わった。速度が増して、動きが鋭くなる。

 ギアを上げた2人は、最初に攻撃したときと同じように一気に加速すると。一瞬でグレイスとマウアに迫って、2本の剣が喉元を狙う。


 まるで同じシーンを再現するように、グレイスは『防壁シールド』を展開して。マウアは巨大な盾で攻撃を防ごうとするけど。

 シリウスが魔力を集約させた剣は、グレイスの『防壁』を突き破って。アリシアはさらに加速して、マウアの盾の隙間から突きを入れる。


 2人の剣がグレイスとマウアの喉を貫く直前。俺が展開した『絶対防壁アブソリュートシールド』が攻撃を防いだ。


「決着はついたな。グレイス、マウア、文句はないだろう?」


 グレイスとマウアは悔しそうな顔で押し黙る。


「アリウスお兄ちゃん、ありがとう」


「アリウス兄さんのおかげで、全力を出せたよ」


 シリウスとアリシアは『鑑定アブレイズ』でグレイスとマウアのレベルを知っているから。殺す訳にはいかないという心理的な制約のせいで、決めるべきところで手加減していたからな。

 普段自分たちより強い王国諜報部の連中を相手にしているときよりも、明らかに動きに切れがないし。魔力操作の精度も落ちていた。


「まあ、おまえたちの気持ちも解るけど。まだまだ甘いな。もっと技術を磨けば、ギリギリ殺さないラインが見えるようになる。それと仕掛けるって宣言してから攻撃するなよ」


 シリウスとアリシアは『『じゃあ、遠慮なく行くね(わ)!』』と、わざわざ宣言していたけど。実戦なら、いきなり戦闘には入るからな。油断してる方が悪いんだし、無言で不意打を仕掛けて構わないだろう。


「うん、そうだね。模擬戦だからって、もっと真剣にやらないと」


「アリウスお兄ちゃん、ごめんなさい。次はもっと上手くやるわ」


 シリウスとアリシアは素直に反省する。だから2人は伸びるんだよな。


「シリウスもアリシアも、なかなかやるじゃないか。特に連携に関しては、グレイスとマウアじゃ、足元にも及ばないな」


 ヒュウガが屈託なく笑う。自分の仲間がやられても、全然気にしていないみたいだな。


「ヒュウガ、シリウスとアリシアは反省しているところなんだ。あまり褒めないでくれよ。それにグレイスとマウアは、普段から連携している訳じゃないんだろう?」


 普段から連携しているにしては、お粗末な動きだったからな。


「まあ、一応一緒に戦うことはあるけど。あいつらは連携なんて考えないで、勝手に戦っているだけだからな」


 人数が多いこともあるだろうけど。ヒュウガの指示で、それぞれが戦っているって感じなのか。


「だけどそれじゃ、直ぐに限界が来るだろう? 俺みたいにソロでやるなら、話は違うけど。そういう・・・・感じでもないみたいだからな」


 ヒュウガの仲間たちは、ソロで戦う覚悟があるようには見えないからな。全員A級冒険者クラスで、それなりに強いから。冒険者として生活して行くだけなら十分だけど。

 グレイスもマウアも個々の戦力としては悪くないんだから。本気で上を目指せば、もっと強くなれるだろう。まあ、俺が口出しするような話じゃないけど。


「アリウスさん、そこは俺も頭が痛いところだが。こいつら次第だからな」


 ヒュウガ自身はソロで戦うタイプで。荒くれたちの面倒を見ているだけで、統率が取れた集団を目指している訳じゃないってことか。


「なあ、グレイス、マウア。シリウスとアリシアの実力は解っただろう。それで2人と一緒にパーティーを組む気はあるのか? やる気がないなら、足を引っ張るだけだから。強制するつもりはないが」


 ヒュウガの問い掛けに、マウアは顔をしかめる。


「あたしは……やっぱり御免だね。こいつらと上手くやれる気がしないよ」


 タンクのマウアは、シリウスとアリシアと相性が悪いからな。動き回って戦う2人と、足の遅いタンクじゃ、連携は難しいだろう。


「俺は……今回は負けたが、もっと上手くやれる自信がある。シリウス、アリシア。おまえらに魔法で負けるつもりはないからな」


 グレイスは憮然とした顔で言うと、バツが悪そうに視線を反らした。


「シリウス、アリシア。その……ガキだって馬鹿にして悪かったな。おまえたちの実力が本物だと認める。だから……良かったら、俺とパーティー組んでくれないか?」


 男のツンデレって、誰得って感じだけど。グレイスは意外と素直な奴みたいだな。


「おい、グレイス。おまえはそんな殊勝な奴じゃねえだろう?」


「そうだぜ、グレイス。ヒュウガさんに言われたからって無理すんなよ」


 周りの仲間たちが茶々を入れるけど。


「おまえら、黙っていろ」


 ヒュウガに睨まれて、仲間たちは黙る。そしてシリウスとアリウスの反応は。


「僕もグレイスさんの動きは悪くなかったと思うよ。魔法については連携が上手く行かなくて、使いこなせなかった感じだよね」


「魔法が使いこなせないのは、問題だと思うわ。だけどグレイスさんは魔法の発動時間が早いし、何とか対処しようとしていたわ。連携を含めて事前に色々なパターンを想定しておけば、グレイスさんはもっと上手くやれると思うわ」


 2人の連携については、マウアの方にも問題があった訳だし。グレイスは魔術士タイプなのに動きが速くして、近接戦闘もそれなりにこなしていた。シリウスとアリシアとの相性は悪くないだろう。


 それにシリウスとアリシアは、当然だと思っているからスルーしているけど。無詠唱で魔法を発動できる点もポイントだ。A級冒険者でも完全に無詠唱で魔法を発動できるのは、全体の3分の1くらいだからな。


「じゃあ、3人が問題ないなら。とりあえず、パーティーを組んでみるか?」


 まずは、お試しって感じだけど。実際にパーティーを組んでみないと、本当のところは解らないからな。

 こうしてシリウスとアリシアは、グレイスとパーティーを組むことになった。


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https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330663438052176

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書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


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