第221話:模擬戦


 翌日。俺は世界迷宮ワールドダンジョンの攻略を、午前中で終わりにして。カーネルの街の冒険者ギルドに向かった。


 ヒュウガが仲間たちを、シリウスとアリシアに紹介すると言うので。俺も立ち会うことにしたんだよ。昨日のうちに紹介しなかったのは、酒が入っていないシラフの状態で話をするためだ。


「今日は俺たちも、夜にはカーネルの街に顔を出すからな」


「たまにはみんなと飲もうと思って。アリウス、ゲイルたちに伝えておいてね」


 今日は俺とグレイとセレナの3人で世界迷宮を攻略したけど。グレイとセレナは午後も2人で攻略を進めるらしい。


「アリウスお兄ちゃん、お帰りなさい」


「アリウス兄さん、早かったね」


 アリシアとシリウスも午前中は、2人で高難易度ハイクラスダンジョン『ギュネイの大迷宮』に挑んでいたそうだ。

 2人でダンジョンに挑むのはリスクが高いけど。安全マージンを十分に取って、今日は第15階層までしか行かなかったそうだから。2人のレベルなら問題ないだろう。


 ヒュウガと仲間たちも、すでに冒険者ギルドにいて。適当にテーブルを囲んで、昼飯を食べている。エールやワインを飲んでいる奴もいるけど。冒険者にとってエールは水みたいなもので、ワインも飲みすぎなければ問題ないだろう。


「アリウスさん、昼飯はまだだよな。メシを食べながら話をしないか?」


「ああ、俺も腹が減っているからな。マスター、肉中心で適当に頼むよ」


 ヒュウガが仲間たちを紹介する。見た目が一番凶暴そうなのは、アリシアとシリウスに絡んだロギンだけど。他の連中も一癖も二癖もありそうな奴ばかりだな。


「俺は立ち会うだけで、口を挟むつもりはないからな。アリシアとシリウスと、話を進めてくれよ」


 2人のパーティーメンバーを選ぶんだから。俺は下手に口出ししない方が良いだろう。


 ヒュウガがロギンをボコボコにしたって話だからか。ヒュウガの仲間たちは、大人しく従っている。ヒュウガを含めて総勢10人で。ヒュウガ以外は、全員A級冒険者だ。


「シリウスとアリシアは、近接戦闘も魔法も行ける万能型だよな。だったらレベルが近いなら、どんな奴とでもパーティーが組めるだろう」


 ヒュウガもSS級冒険者だから、シリウスとアリシアの能力は把握しているようだな。


「グレイス、マウア。おまえらなら、2人とパーティーを組むのにちょうど良いんじゃないか?」


 ヒュウガが話を促したのは、短い黒髪の男子と、金髪ウルフカットの女子。


 2人とも年齢は10代後半で。ヒュウガの仲間たちの中では一番若い。10代でA級冒険者なら、十分優秀だろう。


「ヒュウガさん、冗談きついぜ。俺はこんなガキどものお守りは御免だからな」


 早速、文句を言ったのはグレイスという男子の方で。天鵞絨をローブを着ている如何にも魔術士という格好だけど。ベルトにナイフを何本も刺している。


「あたしも御免だわ。『魔王の代理人』アリウス・ジルベルトも、自分の弟と妹には甘いのね」


 マウアと呼ばれた女子も続く。身長160cmと女子としては平均的だけど。フルプレートに、自分の身長ほどある巨大な盾と槍を使うタンクタイプか。


「おい、グレイス、マウア。何を言ってやがる。シリウスとアリシアは若いが、実力は……」


「ヒュウガさん、悪いんだけど。言葉で言っても無駄だと思うよ」


 ヒュウガの台詞を遮ったのは、シリウスで。


「そうね。一緒にパーティーを組むかどうかは、性格とか相性次第だけど。相手の実力が解らないと、話が始まらないわよ」


 シリウスとアリシアは『鑑定アブレイズ』で、グレイスとマウアのレベルは解っているけど。レベルが近いから、ステータスや使えるスキルや魔法までは把握していないってところだな。

 それにデータだけで実力を完全に計れる訳じゃない。


「おまえら……言うじゃないか。ガキのくせに、その年でA級冒険者なのか?」


「ううん、僕とアリシアはB級だよ。冒険者としての経験は、まだ全然だからね」


「だけど貴方たちに敗けるつもりはないわ」


 2人がB級冒険者だと言うと、ヒュウガの仲間たちが失笑する。

 ヒュウガが文句を言おうとするけど、俺が止める。


「ヒュウガ、構わないからな。シリウスとアリシアもやる気みたいし。実際に戦ってみれば、解る話だろう」


 俺たちは冒険者ギルドの地下にある鍛錬場に向かう。


 どの冒険者ギルドにも、模擬戦を行うための鍛錬場があるけど。

 カーネルの街の冒険者ギルドは高難易度ダンジョン『ギュネイの大迷宮』が近くにあるからだろう。第10界層攻撃魔法を使っても問題ないように、特別頑丈にできていている。


「ヒュウガさん。マジで俺たちがB級のガキの相手をするのかよ?」


「あたしが相手をするなら、こいつらが死んでも知らないからね。アリウス・ジルベルト、後で文句を言うのは勘弁してよ」


 まだ文句を言っているグレイスとマウアを尻目に、シリウスとアリシアは準備を進める。

 無詠唱で『身体強化フィジカルビルド』『飛行フライ』『加速ブースト』といった支援魔法を次々と発動させて。シリウスは長剣ロングソード短剣ショートソードを、アリシアは2本のレイピアを構える。


「おい。いつでも掛かって来いよ」


「ほら、いらっしゃい。一撃で終わらせてあげるわ」


 『鑑定』を使えば、シリウスとアリシアのレベルくらい解りそうなものだけど。こいつら、完全に舐めているな。


「「じゃあ、遠慮なく行くね(わ)!」」


 シリウスとアリシアは一気に加速して距離を詰めて。グレイスとマウアの首元を狙って、剣を突き付ける。


「……チッ、危ねえな!」


 グレイスは反射的に『防壁シールド』を展開して、シリウスの剣を防いで。


「あんたたちも、少しはやるみたいね」


 マウアは巨大な盾で受け止める。

 こいつらも完全に油断していた訳じゃないってことだな。


―――――――――――――――――――


書籍版の情報公開第四弾として、バーンとマルスのデザインを近況ノートとX(旧Twitter)に公開中です。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330663438052176

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は

下から【★★★】で評価とか【フォロー】して貰えると嬉しいです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る