第220話:ヒュウガの師匠
俺に憧れているとか、会えて感激だとか。本人である俺を目の前にして、ヒュウガは堂々と言う。
「……なあ、ヒュウガ。そういうの、止めてくれないか」
思わず憮然とした顔になって、声が低くなる。ヒュウガは俺の反応に戸惑っていた。
「アリウスさん……済みません、気を悪くしたなら謝りますよ。だけど冗談とか、揶揄っているんじゃなくて。俺は本気で……」
「ヒュウガさん、それ以上は止めた方が良いわ」
エリスがヒュウガの言葉を遮って、ニッコリ笑う。
「だけど安心して。アリウスは怒っている訳じゃなくて、照れているだけだから」
「おい、エリス……」
いや、その通りだけど。わざわざ指摘するなよ。
「嘘。アリウス君が照れてる……」
「うん、そうね。アリウスが照れるところなんて、初めて見たわ」
「私も初めてです……」
「アリウス、あんた……そんな顔もするのね」
ノエルとミリアとソフィアとジェシカが、嬉しそうな顔でマジマジと俺を見ている。
「仕方ないだろう。
最年少でSSS級冒険者になった俺に、近づいて来るのは興味本位か、悪意のある奴ばかりだったし。『魔王の代理人』を名乗ってからは、増えるのは敵ばかりだったからな。
俺に憧れているとか素直に言われたのは、初めての経験なんだよ。
状況がイマイチ解っていないヒュウガが、まだ戸惑っていると。
「アリウスは強過ぎるし。『魔王の代理人』をやっているから、敵も多いんだよ」
ゲイルがフォローする。
「人間なのに魔王の側に付いたって、いまだに裏切者扱いする奴らもいるしな。だからアリウスは、ヒュウガみたいに素直に賞賛する奴に、慣れていないんだよ」
「俺だって、アリウスさんを悪く言う奴がいることは知っていますよ。だけどそういう奴に限って、自分じゃ何もできないからな。
アリウスさんは実力も凄いけど、人間と魔族の争いを本気で終わらせようとしているんですよね? アリウスさんがやっていることは、本当に凄いことだと思いますよ!」
「おい、ヒュウガ。だから
ヒュウガに悪気がないのも、本気で言っているのも解っているけど。本当に勘弁してくれよ。
「ところで、ヒュウガさん。アリウスのことを師匠から聞いたと言っていたけど。貴方の師匠って誰なの?」
エリスが
「俺の師匠は元SSS級冒険者のケヴィン・ファウラって人です。アリウスさんは良く知っているでしょう?」
「いや、良くってほど知っている訳じゃないけど。ケヴィンさんとは、俺がSSS級冒険者になるときに戦ったからな。まあ、ほとんど不戦勝で勝ったようなモノだけどな」
12歳のときに、グレイとセレナと一緒に最初の
だけど戦い始めてから数分で、ケヴィンが一方的に負けを認めて。俺はアッサリとSSS級冒険者になった。
ケヴィンはそのまま冒険者を引退したから。何故そんなことをしたのか、理由を聞くこともできなかった。
「ケヴィン師匠はアリウスさんに物凄い才能を感じて。自分よりもSSS級冒険者に相応しいから、負けを認めたって言ってましたよ。まあ、俺には良く解りませんが。あの人は元々好きで冒険者をやっていた訳じゃないみたいですし」
グレイとセレナは、ケヴィンは何を考えているのか解らない奴だと言っていたけど。ケヴィンにも事情があるみたいだな。
「まあ、話は解ったからさ。ヒュウガ、その中途半端な敬語を止めて、タメ口で話せよ。それに俺のことは呼び捨てで構わないからな。おまえは俺と同じくらいの年みたいだし。堅苦しいのは嫌いなんだよ」
「いや、そんな訳には……」
ヒュウガは戸惑っていると。
「アリウスは年下でもタメ口で構わねえと、本気で思っているぜ。マジで堅苦しいのが嫌いな奴なんだよ」
「うちのパーティーのアランは、今でもアリウスに敬語だけど。アランはアリウスに恩義を感じているみたいだから。ヒュウガ、あんたは別にアリウスに恩がある訳じゃないでしょう?」
「そうだぜ、ヒュウガ。まあ、呼び捨てにするのが無理なら。呼び方はアリウスさんで、あとは普通に喋れば良いだろう」
同じ冒険者のゲイルとジェシカとヘルガがフォローする。
「まあ、アリウスさんがそれで構わないなら……」
「ああ、そうしてくれ。ヒュウガ、改めてよろしく頼むよ」
その後は、みんなで夕飯を食べながら一緒に飲んで。ヒュウガとも打ち解けた。
「へえー……シリウスとアリシアは、冒険者としてデビューしたばかりなんだな。それにしちゃ、結構強いじゃないか」
「ヒュウガさん。僕たちはアリウス兄さんや、他の人にも鍛えて貰っているからね」
「私たちよりも強い人と、毎日鍛錬しているのよ」
ロナウディア王国諜報部の名前を出すのが不味いことは、2人も解っているみたいだな。
「なるほどね。さすがはアリウスさんの兄弟ってことか。その年でしっかり鍛えているみたいだしな」
ヒュウガか感心している。
「だけど冒険者としての経験はまだまだだからな。そのことはシリウスとアリシアも自覚しているよ」
俺の言葉にシリウスとアリシアが頷く。
「まあ、本格的に冒険者として経験を積むのは、一緒にパーティーを組む仲間を見つけないとな。ソロでダンジョンを攻略している俺が言うのも何だけど。俺もグレイとセレナとパーティーを組んで、強くして貰ったからな」
グレイとセレナと出会っていなかったから、今の俺はないだろう。
「だったら、シリウスとアリシアが嫌じゃなかったら。とりあえず、お試しってことで。うちの連中の誰かと、パーティーを組んでみないか? 勿論、ロギンの馬鹿は論外だけどよ」
ロギンを含むヒュウガの仲間たちは、今も奥のテーブルを囲んでいる。
強さ的には皆A級冒険者クラスで。シリウスとアリシアとパーティーを組むのに、ちょうど良いレベルの奴も何人かいる。
「俺たちは冒険者ギルドの依頼が終わって、しばらくはカーネルの街に滞在するつもりなんだよ。全員でダンジョンに挑むには人数が多いし。気の合う奴同士で適当にパーティーを組んで、『ギュネイの大迷宮』に挑むことになるからな。
まあ、性格的に問題がある奴ばかりだから。お互い納得ずくならって話だけどよ」
ヒュウガの申し出を、シリウスとアリシアは興味津々という感じで聞いていた。
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