第219話:乱入者
音を置き去りにした超高速戦闘。
ダンジョンの魔物が外に出ることはないから、問題にならないけど。もし世界迷宮の魔物たちが解き放たれたら、この世界のパワーバランスは一気に崩壊するだろう。
まあ、そんなことはあり得ないけど。ダンジョンの魔物が外に出ることができないのも『神たち』が決めたルールで。『ダンジョンの神』は力ずくでゲームに勝とうだなんて、考えていないからな。
「グレイ、セレナ。そろそろ引き上げるか」
「そうだな。アリウスは今日もシリウスとアリシアのところに行くんだろう?」
「私たちは別の予定があるから。2人によろしくね」
グレイとセレナと別れて。この後は、エリスたちみんなと一緒に、カーネルの街の冒険者ギルドに行くことになっている。シリウスとアリシアの様子が、みんなも気になるみたいだからな。
ジェシカ以外のみんなに渡した『
「アリウス、お帰りなさい。待っていたわよ」
「もう、遅いじゃない。ダンジョンの攻略を始めると、アリウスは時間を忘れるわよね」
「そういうところがアリウス君らしいけど」
「アリウスが無茶をしなければ構いませんが。本当に無茶はしないでくださいね」
エリス、ミリア、ノエル、ソフィアの4人が出迎えてくれる。
「みんな、待たせて悪かったな。早速だけど行こうか」
ジェシカに『
カーネルの街に転移すると、ちょうどジェシカも転移して来たので。合流して冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドでは、冒険者たちがみんな上機嫌で。酒を酌み交わしながら、盛上っている。何か良いことが、あったみたいだな。
アリシアとシリウスはヘルガとゲイルたちと夕飯を食べていて。俺たちに気づいて、駆け寄って来る。
「アリウスお兄ちゃん! エリス義姉さんたちも来てくれたのね!」
「アリウス兄さん。みんなもいらっしゃい!」
2人と一緒に、ゲイルたちのテーブルに向かう。
「ヘルガ。今日はアリシアとシリウスに付き合って貰って、ありがとうな」
「アリウスさん、別に構わねえよ。今日はゲイルたちが休むって言うから、私も暇だったからな。それにこいつらがダンジョンに挑む様子を見るのも、結構面白かったぜ」
何故かアリシアとシリウスが、ヘルガをジト目で見ている。
2人の視線に気づいたヘルガは目を反らすと。グラスに透明な蒸留酒を並々と注いで、一気に飲み干す。
周りにいた昔馴染みの冒険者たちが、俺たちのために席を移動して、テーブルを空けてくれる。
「みんな、酒を飲んでいるところ悪いな。だけど俺たちに気を遣うなよ」
「なに、アリウスが嫁さんたちを連れて来たんだ。席くらい替わってやるよ」
「その代わり、アリウスとの惚気話を後で聞かせてくれよ」
冒険者たちの冗談交じりの言葉に。
「皆さん、ありがとう。私だけじゃなくて、他のみんなもアリウスとの惚気話ならたくさんあるから。たっぷり聞かせるわよ」
エリスも冗談っぽく応えると。
「エリスさん、そんなことを言ったら……」
「そうですよ、エリス様……アリウスだって、困っていますよ」
エリス以外のみんなが顔を赤くする。
いや、俺だって家でやっていることを、他の奴らに聞かせるつもりはないけど。エリスはみんなのことを既成事実にしたいみたいだし。みんなを想っての言動だってことも解っているからな。俺が冒険者たちに
「ねえ、ヘルガさん。参戦しなくて正解でしょう?」
「そうだよ、ヘルガさん。僕たちだって、毎回あてられているんだから」
「いや、だから私はそんなつもりじゃ……まあ、参戦しないのが正解ってことは解ったがよ」
アリシアとシリウスとヘルガが、小声で何か話をしている。今日1日で、3人はさらに仲が良くなったみたいだな。
ゲイルたちと合流して。シリウスとアリシアの『ギュネイの大迷宮』攻略の話を聞きながら、夕飯を食べる。
エリスたちもカーネルの街の冒険者ギルドに何度も来ているけど。冒険者たちと気の置けない感じで話しているし。冒険者ギルドの豪快な料理も気に入っているみたいだな。
しばらくみんなと食事を続けて、腹も落ち着いて来た頃。
「ねえ、アリウスお兄ちゃん。お兄ちゃんと話がしたいって人が、今冒険者ギルドに来ているんだけど。紹介しても構わないわよね?」
まあ、俺が顔を知らない冒険者たちがいることと。そいつらがチラチラこっちを窺っていることには、最初から気づいていたし。
冒険ギルドの床に大穴ができているのに、誰も話題にしないから。何かあると思っていたけど。
「ああ、別に構わないよ。アリシアとシリウスの知り合いなのか?」
「そうだよ。僕たちが他の冒険者に絡まれているところを助けてくれたんだ」
「だったら俺からも礼をしないとな」
シリウスとアリシアは、奥のテーブルにいる見知らぬ冒険者たちの方に行くと。1
人の冒険者を連れて来る。
年齢は俺と同じくらいか。中肉中背で、目が細いこと以外は特に目立つところはないけど――こいつ、結構強いな。
「なあ、みんなで楽しんでいるところ悪いんだが……俺はヒュウガ・ロフトン。一応、SS級冒険者だ」
ヒュウガは頭を掻きながら、おずおずとした感じで言う。
「アリウス・ジルベルトだ。ヒュウガ、俺の弟と妹が絡まれているところを助けてくれたんだってな。ありがとう」
「い、いや、礼なんて、とんでもないですって! アリウスさんの兄弟に絡んだのは、うちの馬鹿なんだ。だからこっちが逆に詫びないと……
おい、ロギン! てめえは何をボサっと座ってるいるだよ! こっちに来て、アリウスさんに土下座しろって!」
ヒュウガはスイッチが入ったように、大声で怒鳴る。いや、土下座ってて……
ヒュウガに睨まれた刺青だらけの巨漢の冒険者は、慌てて席を立つと。バツが悪そうな顔で、こっちにやって来る。
顔中傷だらけだけど、『
「ロギン、てめえ……」
目が座ったヒュウガに急かされて。
「ヒュ、ヒュウガ、解ったって!」
ロギンが怯えた顔で床に膝を突く。
「お、俺が悪かった……許してくれ……」
「いや、俺に謝られてもな。シリウスとアリシアはどうしたいんだ?」
「私たちがどうこうって言うよりも。この人と喧嘩になったのは、私たちを庇ってくれたヘルガさんよ」
「うん。ヘルガさんとヒュウガさんの間で話はついたみたいだし。これ以上絡まないから、僕たちは構わないよ」
まあ、ロギンって奴とシリウスとアリシアが喧嘩になっても。こいつの実力なら、2人が負けるとは思わないしな。
「じゃあ、みんなが納得しているみたいだから。ヒュウガ、これで話は終わりだ。
ロギンはヒュウガの仲間みたいだけど、そういう話は別にして。ヒュウガがロギンを止めてくれたのは事実みたいだからな。改めて礼を言うよ」
俺がいない間に起きたイザコザについて。ヒュウガは俺に謝るために、わざわざ待っていたみたいだな。
喧嘩っ早いけど、律義で良い奴だなと思っていると。
「マジかよ……アッサリ許してくれた上に、礼まで言うなんて……さすがはアリウスさん、懐が深いな……」
何故かヒュウガが、まるで少年のように目をキラキラと輝かせて、俺を見ている。
「おい、ヒュウガ。何を言ってるんだよ。大袈裟だな」
「いやいや、そんなことはないですって! 俺は師匠から史上最年少でSSS級冒険者になったアリウスさんの話を聞いて、ずっと憧れていたんだ。だからアリウスさんに会えて、懐の深さを知って。今、滅茶苦茶感激しているんですよ!」
いや、俺に憧れているって……SSS級冒険者だからと、いきなり話し掛けてくるような奴は、これまでは興味本位か。悪意のある奴がばかりだった。
ヒュウガは全然そんな感じじゃないけど……いや、憧れているとか。面と向かって言われると、真面目に照れ臭いから。ホント、勘弁してくれよ。
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