第219話:乱入者


 音を置き去りにした超高速戦闘。

 世界迷宮ワールドダンジョン153階層に出現する魔物たちは、全部20,000レベルを超えているし。階層ボスはこの世界の魔神クラスだ。


 ダンジョンの魔物が外に出ることはないから、問題にならないけど。もし世界迷宮の魔物たちが解き放たれたら、この世界のパワーバランスは一気に崩壊するだろう。


 まあ、そんなことはあり得ないけど。ダンジョンの魔物が外に出ることができないのも『神たち』が決めたルールで。『ダンジョンの神』は力ずくでゲームに勝とうだなんて、考えていないからな。


「グレイ、セレナ。そろそろ引き上げるか」


「そうだな。アリウスは今日もシリウスとアリシアのところに行くんだろう?」


「私たちは別の予定があるから。2人によろしくね」


 グレイとセレナと別れて。この後は、エリスたちみんなと一緒に、カーネルの街の冒険者ギルドに行くことになっている。シリウスとアリシアの様子が、みんなも気になるみたいだからな。


 ジェシカ以外のみんなに渡した『転移魔法テレポート』が使えるブレスレットには、カーネルの街を転移ポイントとして登録していないから。俺はいったん王都の家に戻って、エリスたちと合流する。


「アリウス、お帰りなさい。待っていたわよ」


「もう、遅いじゃない。ダンジョンの攻略を始めると、アリウスは時間を忘れるわよね」


「そういうところがアリウス君らしいけど」


「アリウスが無茶をしなければ構いませんが。本当に無茶はしないでくださいね」


 エリス、ミリア、ノエル、ソフィアの4人が出迎えてくれる。


「みんな、待たせて悪かったな。早速だけど行こうか」


 ジェシカに『伝言メッセージ』で今から行くと伝えて、『転移魔法』を発動する。

 カーネルの街に転移すると、ちょうどジェシカも転移して来たので。合流して冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドでは、冒険者たちがみんな上機嫌で。酒を酌み交わしながら、盛上っている。何か良いことが、あったみたいだな。

 アリシアとシリウスはヘルガとゲイルたちと夕飯を食べていて。俺たちに気づいて、駆け寄って来る。


「アリウスお兄ちゃん! エリス義姉さんたちも来てくれたのね!」


「アリウス兄さん。みんなもいらっしゃい!」


 2人と一緒に、ゲイルたちのテーブルに向かう。


「ヘルガ。今日はアリシアとシリウスに付き合って貰って、ありがとうな」


「アリウスさん、別に構わねえよ。今日はゲイルたちが休むって言うから、私も暇だったからな。それにこいつらがダンジョンに挑む様子を見るのも、結構面白かったぜ」


 何故かアリシアとシリウスが、ヘルガをジト目で見ている。

 2人の視線に気づいたヘルガは目を反らすと。グラスに透明な蒸留酒を並々と注いで、一気に飲み干す。


 周りにいた昔馴染みの冒険者たちが、俺たちのために席を移動して、テーブルを空けてくれる。


「みんな、酒を飲んでいるところ悪いな。だけど俺たちに気を遣うなよ」


「なに、アリウスが嫁さんたちを連れて来たんだ。席くらい替わってやるよ」


「その代わり、アリウスとの惚気話を後で聞かせてくれよ」


 冒険者たちの冗談交じりの言葉に。


「皆さん、ありがとう。私だけじゃなくて、他のみんなもアリウスとの惚気話ならたくさんあるから。たっぷり聞かせるわよ」


 エリスも冗談っぽく応えると。


「エリスさん、そんなことを言ったら……」


「そうですよ、エリス様……アリウスだって、困っていますよ」


 エリス以外のみんなが顔を赤くする。

 いや、俺だって家でやっていることを、他の奴らに聞かせるつもりはないけど。エリスはみんなのことを既成事実にしたいみたいだし。みんなを想っての言動だってことも解っているからな。俺が冒険者たちに揶揄からかわれるのを我慢すれば良いだけの話か。


「ねえ、ヘルガさん。参戦しなくて正解でしょう?」


「そうだよ、ヘルガさん。僕たちだって、毎回あてられているんだから」


「いや、だから私はそんなつもりじゃ……まあ、参戦しないのが正解ってことは解ったがよ」


 アリシアとシリウスとヘルガが、小声で何か話をしている。今日1日で、3人はさらに仲が良くなったみたいだな。


 ゲイルたちと合流して。シリウスとアリシアの『ギュネイの大迷宮』攻略の話を聞きながら、夕飯を食べる。

 エリスたちもカーネルの街の冒険者ギルドに何度も来ているけど。冒険者たちと気の置けない感じで話しているし。冒険者ギルドの豪快な料理も気に入っているみたいだな。


 しばらくみんなと食事を続けて、腹も落ち着いて来た頃。


「ねえ、アリウスお兄ちゃん。お兄ちゃんと話がしたいって人が、今冒険者ギルドに来ているんだけど。紹介しても構わないわよね?」


 まあ、俺が顔を知らない冒険者たちがいることと。そいつらがチラチラこっちを窺っていることには、最初から気づいていたし。

 冒険ギルドの床に大穴ができているのに、誰も話題にしないから。何かあると思っていたけど。


「ああ、別に構わないよ。アリシアとシリウスの知り合いなのか?」


「そうだよ。僕たちが他の冒険者に絡まれているところを助けてくれたんだ」


「だったら俺からも礼をしないとな」


 シリウスとアリシアは、奥のテーブルにいる見知らぬ冒険者たちの方に行くと。1

人の冒険者を連れて来る。

 年齢は俺と同じくらいか。中肉中背で、目が細いこと以外は特に目立つところはないけど――こいつ、結構強いな。


「なあ、みんなで楽しんでいるところ悪いんだが……俺はヒュウガ・ロフトン。一応、SS級冒険者だ」


 ヒュウガは頭を掻きながら、おずおずとした感じで言う。


「アリウス・ジルベルトだ。ヒュウガ、俺の弟と妹が絡まれているところを助けてくれたんだってな。ありがとう」


「い、いや、礼なんて、とんでもないですって! アリウスさんの兄弟に絡んだのは、うちの馬鹿なんだ。だからこっちが逆に詫びないと……

 おい、ロギン! てめえは何をボサっと座ってるいるだよ! こっちに来て、アリウスさんに土下座しろって!」


 ヒュウガはスイッチが入ったように、大声で怒鳴る。いや、土下座ってて……

 ヒュウガに睨まれた刺青だらけの巨漢の冒険者は、慌てて席を立つと。バツが悪そうな顔で、こっちにやって来る。

 顔中傷だらけだけど、『治癒ヒール』で回復させていないのは見せしめのためだろう。


「ロギン、てめえ……」


 目が座ったヒュウガに急かされて。


「ヒュ、ヒュウガ、解ったって!」


 ロギンが怯えた顔で床に膝を突く。


「お、俺が悪かった……許してくれ……」


「いや、俺に謝られてもな。シリウスとアリシアはどうしたいんだ?」


「私たちがどうこうって言うよりも。この人と喧嘩になったのは、私たちを庇ってくれたヘルガさんよ」


「うん。ヘルガさんとヒュウガさんの間で話はついたみたいだし。これ以上絡まないから、僕たちは構わないよ」


 まあ、ロギンって奴とシリウスとアリシアが喧嘩になっても。こいつの実力なら、2人が負けるとは思わないしな。


「じゃあ、みんなが納得しているみたいだから。ヒュウガ、これで話は終わりだ。

 ロギンはヒュウガの仲間みたいだけど、そういう話は別にして。ヒュウガがロギンを止めてくれたのは事実みたいだからな。改めて礼を言うよ」


 俺がいない間に起きたイザコザについて。ヒュウガは俺に謝るために、わざわざ待っていたみたいだな。

 喧嘩っ早いけど、律義で良い奴だなと思っていると。


「マジかよ……アッサリ許してくれた上に、礼まで言うなんて……さすがはアリウスさん、懐が深いな……」


 何故かヒュウガが、まるで少年のように目をキラキラと輝かせて、俺を見ている。


「おい、ヒュウガ。何を言ってるんだよ。大袈裟だな」


「いやいや、そんなことはないですって! 俺は師匠から史上最年少でSSS級冒険者になったアリウスさんの話を聞いて、ずっと憧れていたんだ。だからアリウスさんに会えて、懐の深さを知って。今、滅茶苦茶感激しているんですよ!」


 いや、俺に憧れているって……SSS級冒険者だからと、いきなり話し掛けてくるような奴は、これまでは興味本位か。悪意のある奴がばかりだった。

 ヒュウガは全然そんな感じじゃないけど……いや、憧れているとか。面と向かって言われると、真面目に照れ臭いから。ホント、勘弁してくれよ。


―――――――――――――――――――


書籍版の情報公開第三弾として、エリクとジークのデザインを近況ノートとX(旧Twitter)に公開中です。


https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330662632130126

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は

下から【★★★】で評価とか【フォロー】して貰えると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る