第223話:ヒュウガの実力


「じゃあ、改めまして。グレイスさん、シリウス・ジルベルトです。これから、よろしくお願いします」


「アリシア・ジルベルトよ。グレイスさん、よろしくお願いします」


 シリウスとアリシアが手を差し出すと。グレイスは照れ臭そうに目を反らしながら、順番に握る。


「グレイス・マクシミリアンだ。こちらこそ、よろしく頼む。それと俺の方が年上だから気を遣っているんだろうが。一緒にパーティーを組むんだから、敬語も『さん』付けも不要だからな」


「うん。解ったよ、グレイス」


「ありがとう、グレイス。そうさせて貰うわ」


 シリウスとアリシアは、グレイスと早速打合せを始めた。


「グレイスも戦ってみて、解ったと思うけど。僕とアリシアは2人とも二刀流で、パッと見はタイプが似ているけど。戦い方は結構違うんだよ」


「シリウスは器用に何でもこなす感じで。私はスピード重視で、タイミングを計って速攻で攻撃するのが得意よ。あとは距離が開いたら私もシリウスも攻撃魔法を使うわ」


「だけどパワーに関しては、僕もアリシアも不足しているって自覚しているよ。グレイスは何が得意で、苦手なこととかある?」


「俺は……魔法主体で戦うが、ナイフでの近接戦闘も得な方だ。おまえたちの前で言うのも何だが、スピードはある方だと思うし。魔法も第7階層までならノータイムで連射できる。だが第10界層レベルになると、まだ発動に時間が掛かるし。実戦で使うには練度がイマイチだな」


「その辺は私たちも似たようなモノよ。だったら当面は、基本的には第7階層魔法までを使う形で。どのパターンで誰がどう行動するか、決めておきましょう」


 いきなり打合せを始めたシリウスとアリシアとグレイスに、ヒュウガの他の仲間たちは戸惑っている。

 そんなことは後でやれよと、文句を言っている奴もいるけど。俺としては直ぐに打ち合わせを始めた3人の真剣さを感じる。


「なあ、アリウスさん。ちょっと頼みがあるんだけど」


 ヒュウガが頬を掻きながら言う。


「せっかく修練場に来たことだし。俺と手合わせして貰えないか?」


 ヒュウガの仲間たちが一斉に注目する。ヒュウガがSSS級冒険者の俺と戦ったらどうなるか。当然、興味があるんだろう。


「手合わせするのは構わないけど。こんなことを言うと、ヒュウガは気を悪くするかも知れないが。正直に言うけど、俺と手合わせしても実力の差は解らないと思うよ」


 自慢するつもりはないけど。事実として、俺とヒュウガはレベルの差があり過ぎるからな。

 SSS級冒険者になったばかりの頃の俺を相手にするなら、今のヒュウガならそれなりに善戦できるかも知れない。だけど今の俺はSSS級冒険者云々という段階じゃないからな。


 それに周りにはヒュウガの仲間たちがいる訳だし。俺に手も足も出ないところを見せて、良い影響はないだろう。


「アリウスさんが言いたいこと解るが。それでも俺はアリウスさんの強さに、実際に触れてみたいんだよ。アリウスさんが俺に気を遣ってくれていることも解っている。だけど俺のメンツなんてどうでも良いんだよ」


 ヒュウガは本気なんだな。


「ヒュウガ、解ったよ。じゃあ、俺も本気で行くからな」


 ここまで言われて、手を抜くのは失礼だろう。


 彼は『収納庫ストレージ』から2本の剣を取り出す。


 鈍い光を放つ蒼い金属の剣と、血のように赤い剣は、どちらも世界迷宮ワールドダンジョン産のアイテムで。俺が持っている剣の中で最高のモノだ。

 防具は漆黒のハーフプレートを、早着替えのスキルで装備する。これも世界迷宮のドロップアイテムだ。


 他にも支援魔法を自動発動する様々なマジックアイテムがあるけど。さすがにそこまで装備するのは、ほとんどチートだし。今の俺にとっては誤差の範囲だからな。


 ヒュウガも無言で『収納庫』から装備を取り出す。防具は各パーツ不揃いのモノを組み合わせたもので。右手には刃の部分が分厚い長剣。左手には角のように2本の刃が突き出た盾。

剣と盾のオーソドックスなスタイルにアレンジを加えた感じだ。


 対峙する俺とヒュウガを、ヒュウガの仲間たちが固唾を飲んで見守る。

 シリウス、アリシア、グレイスも話を止めて注目している。


「ヒュウガ。準備ができたら、いつでも仕掛けて構わないからな」


「ああ。そうさせて貰うぜ」


 ヒュウガは剣を構えて、無言でじっと俺を見据えながら魔力を練る。

 SSS級冒険者のように視覚化されるほどの膨大な魔力の量じゃないけど。ヒュウガの魔力操作は、かなり洗練されている。


 一撃に全てを掛けるように、時間を掛けて全身の魔力を剣に集約する。

 そして瞬時に静から動へと切り替えて、ヒュウガは一気に加速した


 俺との距離を一瞬で詰めると、不規則な軌道でフェイントを掛けて剣を叩き込む。

 俺が最小限の動きで攻撃を躱すと。ヒュウガは突然崩れ落ちて。隣にいる俺が意識を失ったヒュウガを支える形になった。


「お、おい……どういうことだよ?」


 何が起きたのか解らないで、ヒュウガの仲間たちが唖然としている。

 俺は剣の柄で殴って、ヒュウガの意識を刈り取ったんだけど。本気で加速したから、動きが見えなかったのは仕方ないだろう。


「「……」」


 シリウスとアリシアがマジマジと俺を見る。俺の動きに少しは慣れている筈の2人にも、全く見えなかったみたいだな。


 『気絶回復キュアスタン』を発動すると、ヒュウガが意識を取り戻す。


「……アリウスさん? 痛って……そうか、俺は敗けたんだな」


 ヒュウガは頭を摩りながら、周りを見回す。ヒュウガも何が起きたのか、解っていないみたいだな。


「ヒュウガ、まだ続けるか?」


「いや、アリウスさん、止めておくよ。俺は全力で戦ったのに、どうやって敗けたのかすら解らないんだ。これ以上戦っても意味がないだろう」


 何もできなくて、ヒュウガは悔しそうだけど。それだけの実力差がことは、理解しているみたいだな。


「ヒュウガ、何言ってんだ! いくら相手がSSS級冒険者のアリウスだからって、こんなのはおかしいだろう!」


 だけど巨漢の刺青男ロギンは、納得できないようで。


「ヒュウガが何もできねえで敗けるとか、あり得ねえだろう! アリウスが卑怯な真似を――」


「ロギン、ふざけるんじゃねえ! これ以上、俺に恥を掻かせるなよ!」


 ヒュウガの怒声に、ロギンが血の気を失う。


「ヒュ、ヒュウガ、お、俺は……」


「俺の実力がアリウスさんの足許にも及ばないことは、初めから解っていたんだよ。まさか全く動きが見えないとは、思っていなかったがな。

 結局、俺が自惚れていたってことは、俺が一番解っている。アリウスさんと戦ったのは、俺だからな!」


 ヒュウガの発言に、仲間たちは信じられない顔をする。

 こいつらにとってヒュウガは、それだけデカイ存在ってことだろう。

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