第214話:竜の王宮

 ノエル経由で魔法省の第8研究室長ヴィレッタに、魔道具の魔力効率を向上させるために協力して欲しいと頼まれた。

 俺にとっては専門外のことだから、俺が役に立つか解らなかったけど。セレナが協力してくれたこともあって、思いの外上手く行った。


 魔力を効率的に使うには、魔力を回路に流す具体的なイメージがポイントなんだけど。俺がイメージする魔力回路とヴィレッタの魔道具は、よほど相性が良いらしい。

 魔力回路のイメージをヴィレッタに伝えると、ヴィレッタは直ぐに図面に起こした。


「なるほど……こうすれば、魔力効率が格段に良くなるね。アリウス、ありがとう。早速、君のイメージを参考にして、魔道具を開発してみるよ」


 そう言うなり、ヴィレッタは研究室に籠って。わずか1ヶ月の間に、魔力効率が向上した様々な魔道具が完成した。


※ ※ ※ ※


「へえー、シリウスとアリシアも冒険者になるんだ。だったら私たちの後輩になる訳ね」


 ロナウディア王国とは大陸の反対側にある高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』。俺はジェシカたち『白銀の翼』と一緒に来ている。


 ジェシカたちが最下層に挑むのは、もう少し先の話だけど。今日は手本を見せて欲しいと頼まれて、最下層に直行した。


「『竜の王宮』は高難易度ハイクラスダンジョンの中で、攻略難易度が最も高いからな。最下層の魔物は必然的に、ジェシカたちがこれまで戦って来た魔物よりも強い。

 だけどジェシカたちもこれまで『竜の王宮』を攻略して来たんだから、特に真新しいことはないと思うよ。単純にレベルが高くて、強いってだけの話だ」


 『竜の王宮』に出現する魔物は、ほとんどドラゴンだけだ。下層に行けば行くほど強力なドラゴンが出現する。特殊能力を持っているドラゴンもいるけど、ドラゴンの戦い方は基本力押しだから。搦め手で攻撃しているようなタイプはいない。


「まあ、俺としては事前情報なしに攻略した方が面白いと思うけど。死ぬリスクがあるんだから、事前情報が多い方が良いに決まっている。だからネタバレになるけど、話しておくよ。

 ジェシカたちなら、今直ぐ最下層の魔物と戦っても、それなりに戦えると思う。だけど問題は魔物の数と、おまえたちの継続戦闘能力だな。

 『竜の王宮』の最下層では太古の竜エンシェントドラゴンクラスが最大12体同時に出現する。そいつらと連続して戦って勝てるようにならないと、最下層を攻略することはできないからな」


 今の俺の格好はシャツ1枚とズボンと靴。両手に2本の長剣を持っている。

 以前は呪われた武具カースドアイテムで威力を調整したりしたけど。今の俺のステータスだと超弩級の呪われた武具を装備しても、誤差の範囲だからな。


「まあ、説明だけしても意味がないからな。そろそろ実際に攻略を始めるぞ」


 最初の玄室の扉を開けると、出現したのは8体の太古の竜。

 赤に青に黒、様々な種類のドラゴンが一遍に出現するのも『竜の王宮』の最下層の特徴だな。


「とりあえず、最初はゆっくり動くからな」


 俺は1体目の赤いドラゴンの前に迫ると、縦に真っ二つに両断する。

 ドラゴンがエフェクトと共に消滅して、魔石だけが残る。


 残りの7体が同時にドラゴンブレスを放つけど。俺はブレスの隙間を擦り抜けように動いて、2体目と3体目を仕留める。


 残り5体のうち、3体が再びドラゴンブレスを放つと同時に。青と黒の2体が飛び掛かって来た。

 俺は2体の牙と爪を最小限の動きで躱すと、2体の首を同時に斬り落とする。


 残った3体が一斉に仕掛けて来たから。他のドラゴンの身体を壁に利用しながら、2体を仕留めて。最後の1体は正面から横に真っ二つにした。


 俺が8体のドラゴンを仕留めるまでに、掛かった時間は20秒弱。ここまで速度を落とせば、ジェシカたちにも良く見えただろう。


「やっぱり、アリウスさんは凄えな……」


「ホント、憎たらしいくらいに動きに無駄がないよね」


 アランとマルシアが感想を言う。こいつらもSS級冒険者だから、見るべきところを見ているな。


「だけど太古の竜8体なら、おまえたちでも倒せるだろう」


「今の私たちじゃ、無傷という訳にはいかないわよ」


 ジェシカは頭の中でシミュレーションしているのか、真剣な顔で応える。


「そうですね。私の攻撃魔法だと太古の竜のHPを削るのがせいぜいですし。サラの『絶対防壁アブソリュートシールド』では、ドラゴンブレスを完全に防ぐことは難しそうですね」


 魔法系アタッカーのマイクの言葉に、ヒーラーのサラが頷く。


「俺が引き付けられるのは1体……いや、2体が限界だぜ」


 タンクのジェイクが冷や汗を掻いている。太古の竜8体を同時に相手にするイメージが湧かないんだろう。


「おまえたちは安全マージンを十分に取る方だからな。慎重なのは悪いことじゃないし、おまえたちのペースで攻略しろよ」


 俺が予想していた以上に、ジェシカたちは太古の竜を脅威に感じているみたいだな。


「今日はこれくらいにしておくか? 別に焦る必要はないからな」


「いや、せっかくだから。本気のアリウスさんの戦いを見せてくれよ」


 アランの言葉に、ジェシカとマルシアが頷く。ジェイクとマイクとサラは躊躇ちゅうちょしているけど。

 まあ、必要なら俺が『絶対防壁』を展開すれば良いだけの話だからな。もう少しだけ、こいつらに見せてやるか。


「じゃあ、次は俺のペースで動くからな」


 2つ目の玄室の扉を開けると、出現したのは10体の太古の竜。

次の瞬間、10体のドラゴンが消滅して、魔石だけが残る。


「「「「「え……」」」」」


 ジェシカたちの声が重なる。


「アリウス、今……」


「ああ。普通に攻撃して倒しただけだよ」


 俺の動きを、ジェシカたちが捉えられないのは仕方ない。別に自慢するつもりはないけど。文字通りにレベルが違い過ぎるからな。

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