第215話:ギュネイの大迷宮
シリウスとアリシアが夏休みに入った初日。俺は2人を連れて
「とりあえず、俺は一切手を出さないからな。おまえたちだけで、どこまでやれるか試してみろよ」
「うん、アリウス兄さん。僕も自分の実力を試したいからね」
「アリウスお兄ちゃん、任せて! もし私たちが危なくなっても、絶対に手出ししたらダメだからね!」
シリウスとアリシアは学院を卒業したら。貴族社会の外を経験するために、冒険者になるつもりみたいだからな。夏休みの間に、冒険者生活を体験しておいた方が良いと思ったんだ。
勿論、父親のダリウスと母親のレイアも同意している。
これまでも週末にシリウスとアリシアをダンジョンに連れて来たことはあるけど、本格的に挑む時間はなかった。
だけど夏休みなら十分時間があるからな。ダンジョン攻略をキチンと経験して貰うために、1階層から攻略を始めることにした。
「僕が右側を引き受けるから。アリシアは左から来る魔物を頼むよ」
「うん、解ったわ!」
最初に遭遇したのはライオンの身体に、巨大なサソリの尻尾を持つマンティコアが4体。
『ギュネイの大迷宮』は高難易度ダンジョンの中でも、屈指の攻略難易度だけど。上層部は
シリウスとアリシアの鎧はお揃いのシンプルなハーフプレートで。武器は俺の影響を受けたのか、2人ともとも二刀流だ。
だけどそれぞれ自分なりにアレンジしていて、俺ほどガタイが良くないシリウスはメインの右手は
シリウスは2体のマンティコアを同時に相手にして。短剣で1体を牽制しながら、長剣で1体を真っ二つにする。
アリシアは一気に加速して、1体の背後に回り込むと。2本のレイピアで素早い突きを連続で放って止めを刺す。
2人が2体目を倒すまでに、大した時間は掛からなかった。
シリウスとアリシアが使っている装備は、一応マジックアイテムだけど。中難易度ダンジョンで手に入る程度のモノだ。
あまり強い装備を使わせると、実力を勘違いするからな。まあ、シリウスもアリシアも100レベルを余裕で超えているから、普通に戦ってもこの階層の魔物じゃ相手にならないけど。
シリウスとアリシアもそれが解ったらしく。2回目の戦闘からは、範囲攻撃魔法で魔物を殲滅するようになった。楽勝で勝てる相手に時間を掛ける必要はないからな。
ちなみに2人も普通に無詠唱で魔法を発動する。まあ、最初に魔法を教えたのは母親のレイアだし。ジルベルト家の人間にとっては、魔法を無詠唱で発動するのが当たり前だ。
そんな感じで。シリウスとアリシアは最初の半日で、『ギュネイの大迷宮』を10階層まで攻略した。
「よう。シリウス、アリシア、久しぶりだな。また大きくなったんじゃないか?」
カーネルの街の冒険者ギルドに行くと。ゲイルたちが迎えてくれた。
「ゲイルさん、お久しぶりです。僕たちは成長期ですから、身長は伸びますよ」
「そうよ、ゲイルさん。半年も会っていないんだから当然伸びるわ」
これまでもシリウスとアリシアはカーネルな街に何度か来ているから、冒険者たちと知り合いなんだよ。ちなみにシリウスの今の身長は165cm、アリシアは158cmだ。
「シリウス、アリシア。好きなものを注文しろよ。マスター、俺はとりあえず肉中心で、早くできるモノとエールを頼むよ」
「僕はアリウス兄さんと同じで、飲み物もエールをお願いします」
「私も料理はアリウスお兄ちゃんと同じで、飲み物はオレンジジュースが良いわ」
俺と同じモノを注文したら、食べきれるとは思えないけど。まあ、残った俺が食べれば良いだけの話だからな。
シリウスもアリシアも全然物怖じしていない。何度か来ているってのもあるけど、カーネルの街の冒険者ギルドは、砕けた雰囲気だから。2人も緊張しないんだろう。
「シリウス、アリシア、今日は私が奢ってやるよ。てめえらも、しばらく見ない間に良い面構えになってきたな」
ツインテール女子のヘルガが、ニヤリと笑う。ヘルガと初めて会ったときは、生意気な後輩って感じだったけど。年齢は俺の1歳下だから、もう20歳か。
シリウスとアリシアをカーネル街に連れて来る度に、ヘルガは何かと構っている。口は悪いけど、良い先輩って感じだな。
「ヘルガさんにそう言われると、嬉しいな」
「ヘルガさん、ありがとう。私もヘルガさんに負けないように頑張るわ」
「生意気言うじゃねえか。このヘルガ姐さんに勝とうだなんて、10年早えぜ」
ヘルガはグラスに並々と注いだ透明な蒸留酒を一気に空ける。
ゲイルやヘルガたちと酒を飲みながらメシを食べていると。冒険者ギルドの扉が開いて、ジェシカたちが入って来る。
「アリウスたちの方が早かったみたいね。マスター。とりあえず、私はワインとチーズね」
「シリウス君、アリシアちゃん、久しぶりだね! マスター、あたしは肉の串焼きとエールね」
ジェシカたちは『竜の王宮』を攻略中だから、今は別の街を拠点にしているけど。シリウスとアリシアをカーネルの街に連れて行くと伝えたら、自分たちも合流すると言っていた。
ジェシカにはMPを節約するために、『
「アリウス君。シリウス君とアリシアちゃんが一緒だから、今日は当然アリウス君の奢りだよね?」
マルシアがいつもの調子で言うと。
「マルシアさん。僕とアリシアが一緒だと、どうしてアリウス兄さんが奢らないといけないの?」
「そうよ。マルシアさんが言っていることは意味が解らないわ。それに私とシリウスを『ちゃん』と『君』を付けて呼ぶのは、止めて欲しいわ。もう子供じゃないんだから」
真顔で言うシリウスとアリシアに、マルシアが目を丸くする。
「マルシア、言われちゃったわね。シリウスとアリシアが言っていることの方が正しんだから、今日は諦めなさいよ」
「そうだぜ、マルシア。むしろ今日は先輩の俺らが、2人を歓迎するために奢るべきだろう」
ジェシカとアランに窘められても、マルシアは全然悪びれない。
「もう、みんなノリが悪いな。こういうときはアリウス君が奢るのがお約束だよね。だけどシリウスとアリシアに言われちゃったから。今日のところは大人しく引き下がるよ」
まあ、別にメシくらい奢っても構わないけど。シリウスとアリシアの手前、派手に金を使うのは良くないからな。
結局、シリウスとアリシアの分はヘルガが払ってくれたから。カーネルの街の冒険者ギルドで、自分のメシ代だけ払うなんて。ホント、久しぶりだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます