第208話:選択肢
「アリウス兄さん、僕は本気だよ。ジルベルト侯爵家を継ぐ継がないという話の前に、僕は冒険者として世の中を見てみたいんだ」
「アリウスお兄ちゃん、私だってそうよ。もし私が将来侯爵になるとしても、もっと視野を広げないと駄目だと思うわ」
双子の弟と妹のシリウスとアリシアも、将来のことをキチンと考えているんだなと俺は感心していた。
2人は今年の12月で14歳になるけど。俺が14歳の頃は、グレイとセレナと延々と
「シリウスとアリシアが言いたいことは良く解った」
ここまで黙って話を聞いていた父親のダリウスが口を開く。
「俺はまだ42歳だからな。あと10年以上は余裕で現役だ。だからシリウスとアリシアが、将来のことを急いで決める必要はない。
それに俺は別に侯爵の地位に拘っている訳じゃないんだ。そもそもジルベルト家は伝統とかじゃなくて、俺の代で侯爵になった訳だからな」
ダリウスが、俺がジルベルト家を継ぐ可能性について言及しないのは、ハッキリ断ったからだ。勿論、そのことは母親のレイアにも、シリウスとアリシアにも伝えてある。
「そうね。私たちはシリウスかアリシアが、ジルベルト家を継いでくれれば嬉しいけど。2人が世の中を知った上で貴族じゃなくて、別の道を選んだとしても構わないと思っているわ」
レイアが優しい笑みを浮かべて、シリウスとアリシアを見つめる。
「レイアがそう言ってくれると助かるよ。俺は故郷であるロナウディア王国を守るために強くなりたいと思っていたから。アルベルト国王に誘われて、ロナウディア王国の宰相になったが。俺の地位にシリウスとアリシアが縛られる理由はないからな」
「ええ、ダリウス。貴方がそう言うことは解っていたわよ。シリウスとアリシアが王国宰相や侯爵の地位を継ぐことも可能だから、私たちは親として可能性を示すだけで。選ぶのは貴方たちよ。シリウスもアリシアも自由に生きなさい」
俺がジルベルト家を継がないって言ったときも、父親のダリウスと母親のレイアは同じように言ってくれた。
「父さん、母さん……ありがとう」
「パパ、ママ……ありがとう」
シリウスとアリシアが、ダリウスとレイアに抱きつく。アリシアが今でも2人をパパとママと呼んでいるけど。そこは突っ込むところじゃないな。
「ところでアリウスは、ロナウディア王国の宰相や侯爵を継ぐというレベルじゃなくて。世間的には『魔王の代理人』と呼ばれているが、魔神や神に匹敵する力を手に入れたんだよな」
今度は俺に話が振られる。俺が魔界でしていることを、家族には全部伝えある。信じるか信じないかは別にして。
「アリウスがみんなを守るために力を得たことは解っているわ。だけどそこまでの力を手に入れた今、アリウスは何をするつもりなの?」
なんか、俺が伝えたことが全部本当だって前提の話なんだけど。
「父さんと母さんは、俺が言ったことを全然疑っていないみたいだな」
「当たり前だろう。アリウスが言ったことだからな」
「アリウスが嘘を言わないことは、親だから当然解っているわよ」
父親のダリウスと母親のレイアが即答する。
「僕だって、アリウス兄さんが言うことを疑わないよ」
「そうよ。アリウスお兄ちゃんが嘘を言う筈がないから」
シリウスとアリシアまで、こんなことを言ってくれるんだな。
いや、俺が『魔王の代理人』になって。魔王アラニスの後ろ盾を恐れる奴もいたけど。逆に人間の敵である魔王に寝返った裏切者だと、俺のことを悪く言う奴も沢山いた。
だから家族のみんなは、俺のせいで嫌な思いをした筈だけど。文句を言われたことがない。
「みんな、ありがとう。これから俺は人間と魔族が一緒に暮らせる街を作るつもりだよ」
これは前から考えていたことだ。エリスのおかげもあって、人間と魔族の交易は発展して来た。だけど交易するだけだと、あくまでも利害関係だ。
だけど同じ街で一緒に暮らせば、共同体を一緒に運営して、生活を共にすることになる。人間と魔族がさらに近づくことになるだろう。
「人間と魔族が一緒に暮らす街……アリウス兄さん、それって凄いことだよね!」
「そうよね……人間と魔族が一緒に暮らせるなんて、素敵なことだわ!」
シリウスとアリシアがキラキラした目で俺を見ているけど。
「いや、まだ上手く行くか解らないからな。そんなに期待するなよ」
とりあえず、具体的なことは一応決めてある。街を作る場所は、ロナウディア王国の辺境にある魔族の領域の境目だ。
ロナウディア王国のアルベルト国王と王太子のエリク、魔王アラニスの許可もすでに得ている。
俺がロナウディア王国の貴族として王国に仕えると、強くなり過ぎた俺のせいでパワーバランスが崩れるから。これは消去法として出した答えでもあるんだけど。
ロナウディア王国の辺境の土地の一部を、俺が譲渡して貰って。ロナウディア王国の自治領じゃなくて、完全独立した国を立ち上げること。
まあ、小さくても国を創ることも、運営することも、大変なことは解っているから。全部自分1人でやるつもりはない。
エリスが俺の力になってくれることは解っているけど。エリスもロナウディア王国の公爵だからな。人選は別に考えて、すでに承諾して貰っている。
「そうか……アリウスは、そこまで考えていたんだな」
「アリウス……私は貴方を誇りに思うわ」
父親のダリウスと母親のレイアが、俺を抱きしめるけど。
「いや、俺は父さんと母さんと、グレイとセレナの生き方を見て来たからな。俺も自分にできることと、自分のやりたいことを、やろうとしているだけだよ」
俺には尊敬できる4人がいるからな。
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