第209話:新たな街
ロナウディア王国の魔族の領域に面する辺境の土地を、譲渡して貰って。人間と魔族が一緒に暮らす国を創る。
これが、俺がやろうとしていることだけど。土地の譲渡は半年前くらい前に完了していて。街の建設工事もすでに始まっている。
「アリウス。土木工事はほぼ完了しています。工事を全部魔法で行いましたので、工期が通常の10分の1に短縮できました」
街の工事を請け負って貰ったのは、ロナウディア王国の公共工事を手広く手掛けるビクトリノ公爵のソフィアだ。
ソフィアは魔法の才能があるけど、身分や資金の問題で学院のような場所で教育を受けられなかった人間を、積極的に採用して。工事専門の魔術士として育てている。
普通の魔術士の多くが、工事に魔法を使うことを嫌う。自分の魔法にプライドがあるから『工事に使うなんて』と考えるんだよな。
だけど初めから工事に使う前提で魔法を習得した奴なら、文句なんて言わないからな。
「やっぱり、ソフィアに任せて正解だったな。ありがとう、ソフィア」
「私はアリウスの役に立てて嬉しいです。それに報酬もキチンと貰っていますから」
土地を譲渡して貰うのに、勿論、ロナウディア王国には適正な対価を払った。
アルベルト国王と王太子のエリクは、これまでの俺の功績を考えれば対価は不要とか言っていたけど。ロナウディア王国と完全に独立していることを示す必要があるからな。
まあ、辺境の土地だし。そこまで凄い金額じゃなかったけど。
「あとは建設中の建物のことですが、幾つか問題が発生していまして。変更プランを図面に加えたんですが、確認して貰えますか?」
「ああ、これで問題ないよ。あとの細かいところは、ソフィアに任せるから」
新しい街の中心部には、すでに幾つもの建物が完成している。だけど街を守るための外壁は、まだ仮のモノで。とても堅固とは言えないけど。
「アリウスはん。この街の守りのことは、うちららに任せて貰えばええで。魔物一匹、街には入れへんからな」
現
シンとエイジが死んだことになって。元フランチェスカ聖王国騎兵団団長のデュランがSSS級冒険者になるとか、SSS級冒険者のメンツが目まぐるしく変わる時期があったけど。
結局、元々実力がある元勇者パーティーのアリサがSSS級冒険者になって。順当に序列9位に収まった形だ。
アリサは今でも勇者アベル以外の元勇者パーティーのメンバー全員を従えて。冒険者パーティー『クスノキ商会』のリーダーをしている。
「なあ、アリサ。本当にこの
俺は人間と魔族が共存することを目指す国の事務的な運営を、アリサに任せるつもりだ。アリサも承諾している。
勿論、役人とか事務的な役割を果たす者も必要だけど。その人選も含めてだ。
「アリウスはん。あのなあ……最難関ダンジョンを攻略するとか、幾ら金になると解っていても。本当にやるのはアリウスはんのような戦闘狂だけやで。普通に考えれば、途中で死ぬのが見えとるからな」
呆れた顔のアリサに、元勇者パーティーのメンバーたちが頷く。俺に喧嘩を売ったクリス・ブラットは舌打ちして目を反らすけど。
「それに他に稼ぐ方法があるのは事実やけど。アリウスはんほど金払いがええ相手は滅多におらんし。うちのビジネスは並行して続けで構へんという条件やし、仕事に見合うだけの報酬はキッチリ貰うから何の問題ないで」
何だかんだと言って、アリサとの付き合いはもう5年になるからな。十分な報酬を払えば、アリサが完璧に仕事をこなすことは解っている。
国の運営自体はやったことがなくても。アリサは勇者パーティーにいたときに、勇者アベルを通じてイシュトバル王国の政治に関わっていたし。
各地に情報網を持っているアリサなら、情報網を通じて国の運営に関する知識や人材を集めることはお手の物だろう。
「まあ、アリサが言うことは解っけど。おまえたちも、それで構わないのか?」
俺は元勇者パーティー――今は冒険者パーティー『クスノキ商会』のメンバーたちに話を振る。
「『魔王の代理人』閣下、俺はアリサの剣として従うだけだ。元勇者のアベルよりも、アリサの方がよほど怖いからな」
そう言ったのは『クスノキ商会』の眼鏡の刀使い、リョウ・キサラギだ。
「俺も同じ意見だぜ。アリサには敵わねえし、アリサに従っておけば問題ねえからな
」
「そうね、私たちのボスはアリサだから。勿論、自分にできることは最大限やるわよ」
ドワーフのタンクのバスターと、エルフのドルイドのフォンが続く。
「あたしはアリサに無条件で従うつもりはないけど。結局、いつも正しいのはアリサだからね」
グラスランナーの斥候リンダはお道化た感じで、お手上げのポーズを取る。
クリスはまた舌打ちするけど。こいつの生殺与奪権は、アリサが握っているからな。
「なあ、アリウスはん。納得したんやったら、細かい打合せもしたいし。今夜は親睦も兼ねて、うちと2人で飲まへんか?」
わざとらしい流し目をするアリサに。
「申し訳ありませんが、アリサさん。アリウスは忙しいんです。打ち合わせでしたら、私が代わりにしますが」
ソフィアは社交的な笑みを浮かべているけど。一歩も引かない感じだ。
「ああ、そういうことやな……ソフィア閣下、安心してええで。うちとアリウスはんは、100パーセント利害関係やからな」
アリサはニヤリと笑う。
「アリサさん。勿論、私も
ですが貴方にとって
「なるほどな……ソフィア閣下、良く解ったわ」
ソフィアとアリサは握手を交わすけど、目が笑っていなかった。
アリサたちと別れて、ソフィアと俺の2人きりになると。
「アリウス。こんなことを私が言うのは、おこがましいかも知れませんが……アリサさんは有能な人のようですけど。利害関係100パーセントというアリサさんの言葉を、言葉通りに取らない方が良いと思いますよ」
「まあ、アリサは油断ならない奴だけど。十分な報酬を払えば、依頼した仕事は確実にこなすし。こっちが下手を打たなければ、アリサは裏切らない。それくらいは信頼しているけどな」
「いいえ、アリウス。そういう意味ではなくて……」
ソフィアが困った顔をする。
「その……たぶんですけど。アリウスと男女の関係になることも、アリサさんは自分の利益になると考えていますから。私としては、油断ならならないんです」
「まあ、アリサがそう考えていることは解っているよ」
自慢するつもりはないけど。事実として、俺には金と力があるからな。
アリサが俺と関係を持つことで、利益に繋がると考えていることは解っている。
そこに恋愛感情とか、そういうモノはないと思うけど。
「俺はその上で、アリサと上手く付き合うつもりだから。これまでもそうだったし。これからもソフィアが心配しているようなことにはならないよ」
「私だって、アリウスのことは信じています。ですがアリサさんは本当に油断できない感じですから」
ちょっと心配し過ぎじゃないかと思ったけど。
このときソフィアが言ったことが、あながちお大袈裟でもなかったと。
後日、俺は知ることになる。
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