第207話:将来のこと
「この前。結婚式の二次会のときは、一緒に飲んだけどよ。こうしてアリウスとじっくり酒を飲むのは、結構久しぶりだよな」
俺はカーネルの街の冒険者ギルドで、ゲイルたちと酒を飲んでいる。
この世界の魔神や神に対抗できる力を手に入れるために、俺は四六時中
最近はようやく落ち着いて来たからな。今日は久しぶりに、ゲイルたちと飲むことにしたんだよ。冒険者仲間たちと喋りながら飲み食いするのは、楽しいからな。
「それにしても。アリウスは結婚しても変わらねえな。まあ、奥さんのエリスだけじゃなくて、ジェシカたちとも一緒に住んでいることは聞いているけどよ。惚気話とか全然しねえよな」
俺がみんなと一緒に住んでいることは、冒険者仲間たちには話してある。別に隠すようなことじゃないからな。
「惚気話とか、そういうの俺の趣味じゃないんだよ。それに32歳独身のゲイルの前で惚気るとか、俺はそこまで性格が悪くないからな」
「アリウス、おまえ……ホント、良い性格してるよな」
まあ、ゲイルは面倒見が良いから。実はそれなりにモテることは知っているけど。本人は結婚する気が全然ないみたいだからな。
いや、俺だってエリスと出会ったから結婚しただけで。この世界に転生したころは、自分が結婚するなんて想像もしていなかったど。
ちなみにエリスたちみんなは、今日は女子会ということで。王都の街に外食に出掛けている。勿論、たまには男同士で飲んで来ればと、エリスたちが気を遣ってくれているのは解っている。
「アリウスさんが忙しいことはジェシカから聞いていたから、仕方ねえとは思っていたけど。こうしてまた一緒に飲めるのは嬉しいぜ」
アランが俺たちのテーブルにやって来て、ジョッキを掲げて豪快に
「ジェシカもアリウス君の家に住むようになってから、全然ご飯に付き合ってくれないんだよね。あたしとしてはアリウス君にジェシカを取られちゃったみたいで。ちょっと寂しいんだけど」
マルシアがニマニマしている。確かにジェシカも俺の家に住むようになってから、夕食はほとんど毎日俺たちと一緒だからな。
「まあ、ジェシカが幸せそうだから良いじゃねえか。俺たちは毎日ダンジョンには一緒に行っているんだしよ」
アランがフォローする。だけどアラン、マルシアは煽りたいだけだからな。
「アリウスさんと一緒に暮らすようになって。ジェシカはノっているけど、地に足がついてるって言うか。良い意味で変わったよな」
ジェシカたち『白銀の翼』の活躍は、俺も聞いている。
「あたしだって、ジェシカが幸せなら良いんだけど。ちょっと釈然としないんだよね。だからアリウス君、今日は当然アリウス君の奢りだよね!」
いや、何が当然なのか意味が解らないけど。
「まあ、この前は結婚式の二次会で祝って、みんなに貰ったからな。今日は俺が奢るから、好きなだけ飲み食いしてくれよ」
冒険者たちが歓声を上げる。こういうノリは嫌いじゃない。
「やっぱり、アリウス君は太っ腹だね! マスター、お酒と食べるモノを高い順からジャンジャン練って来てよ!」
それにしてジェシカがいないと、マルシアにツッコむ奴がいないな。
「アリウスさんはマルシアの姉御に甘いよな。まあ、今日は徹底的に飲もうぜ」
ツインテール女子のヘルガはニヤリと笑うと、自分と俺のグラスに蒸留酒を並々と注いで。自分のグラスを一気に空ける。
「ヘルガ。そんな飲み方をしたら、酒がもったいねえだろう」
「うるせえよ、ゲイル。私はアリウスさんと、一度飲み比べをしたいって思っていたんだよ」
ヘルガをパーティーに入れたゲイルたちは、今でもA級冒険者だけど。レベル的にはほとんどS級冒険者で、後は功績の問題だ。だけどゲイルのイマイチ欲がないからな。
俺がカーネルの街の冒険者ギルドに来なかった間に、新しい冒険者が増えたり。街を去った冒険者もいるけど。
まあ、冒険者なんて生きていれば、またどこかの街で会えるからな。
※ ※ ※ ※
それから数日後。俺は実家であるジルベルト家の邸宅に来ている。
「僕はアリウス兄さんみたいに、冒険者になりたいんだよ」
「私もアリウスおいちゃんみたいに、冒険者になりたいわ」
学院の3年生になった双子の弟と妹のシリウスとアリシアの進路について、話をするためだ。
参加しているのは俺たち3人と、父親のダリウスと母親のレイア。義理の姉になったエリスにも声を掛けたけど。義姉になったばかりの自分が口出しするのはどうかと思うから、今回は遠慮すると言っていた。
まあ、シリウスとアリシアはすでにA級冒険者レベルを余裕で超えているからな。冒険者になりたいという可能性は考えていけど。
「俺がどうこう言える話じゃないけど。シリウスとアリシアは、本気で冒険者になりたいのか?」
ジルベルト侯爵家の家督を継ぐことについては、そもそも長男の俺が放棄したから2人に役割が回って来たんだからな。2人に家督を継ぐ話をするつもりはない。
だけど俺の我がままを抜きにしても。俺がジルベルト侯爵家を継ぐことには問題がある。
別に自慢するつもりじゃないけど、俺は強くなり過ぎたからな。ロナウディア王国の貴族として俺が一国に加担することになると、冗談抜きでパワーバランスが崩れる。
元王族で公爵のエリスと結婚してからも、俺が公爵配じゃなくて『魔王の代理人』を名乗っているのも、ロナウディア王国と一線を引いていることを示すためだ。
「アリウス兄さん、僕は本気だよ。ジルベルト侯爵家を継ぐ継がないという話の前に、僕は冒険者として世の中を見てみたいんだ」
「アリウスお兄ちゃん、私だってそうよ。もし私が将来侯爵になるとしても、もっと視野を広げないと駄目だと思うわ」
「おまえたちも、なかなか言うようになったな。2人とも将来のことをキチンと考えていて偉いぞ」
シリウスとアリシアには、子ども扱いしないでと文句を言われたけど。ホント、2人も成長しているんだな。
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