8章 これからのこと

第206話:アリウスの日常(ver.2)


 朝、目が覚めると。隣にいるエリスの寝顔。

 俺とエリスは同じ部屋で眠って、同じ部屋で目を覚ます。 


 俺は人を好きになるという感覚が解らなかったからな。前世でもこの世界に転生してからも、勿論初めての体験だ。隣にいるエリスの温もりが心地良い。

 俺はエリスを起こさないように、寝顔を眺めていた。


「……アリウス、おはよう」


 目覚めたエリスが、抱きついて来る。


「おはよう、エリス」


 しばらくエリスを抱きしめてから。今日のか俺の1日が始まる。


 朝の日課は鍛錬だ。赤ん坊の頃から、1日も欠かしたことはない。

 筋トレと高速移動ランニングと、シャドーバトル。シャドーバトルは敵がいることをイメージして、攻撃を叩き込むんだけど。全部自分を限界まで追い込むことがポイントだ。


 トレーニングもシャドーバトルも、中途半端にやっても意味がないからな。俺のMPを全部注ぎ込むつもりでトレーニングには負荷を掛けて。シャドーバトルでは、今の俺じゃ立てない敵を想定する。


「何回見ても、アリウスと同じ鍛錬は無理ね」


 自分の鍛錬を終えたジェシカが途中で合流する。ジェシカも毎日鍛錬を続けている。


「俺に合わせても意味がないからな。ジェシカは自分が強くなるには、どうすれば良いか考えながら鍛錬すれば良いんだよ」


 ジェシカと一緒に汗を流してから、魔導具のシャワーで汗を洗い流して。リビング戻ると、キッチンではエリス、ソフィア、ミリア、ノエルの4人が朝食の支度をしてくれている。


「みんな……私だけ手伝わないで、本当にごめんね。夕食の支度は手伝うから」


 ジェシカが申し訳なさそうに言うけど。俺と一緒に鍛錬できるのはジェシカくらいだからと、みんながフォローする。


 みんなで朝飯を食べると。みんなそれぞれ、やることがある場所に向かう。

 ミリアは王国諜報部に、ノエルは魔法省に行くから。普通に歩いて出掛けるけど、他のみんなは『転移魔法テレポート』で移動する。

 エリスはみんなの中で、1番色々なところに行くことが多いからな。MPを節約するために、エリスにも『転移魔法』を発動できるブレスレットを渡してある。


 俺は世界迷宮ワールドダンジョンに直行だ。基本は午前中に世界迷宮の攻略をして。午後から別の予定をこなす。何も予定のないときは、1日中世界迷宮を攻略しているけど。


 世界迷宮は何階層あるか解らないけど。いまだに攻略できていない。

 攻略済みの階層は、俺はソロで、グレイとセレナは2人で攻略しているけどな。


 そんな感じで午後は予定次第だけど。夜はそれなりの時間に自宅に戻ることにしている。

 みんなもロナウディア王国の王都を離れていても、『転移魔法』で戻って来るからな。


 夕食を作る手伝いくらいしようと思ったけど。みんなに俺は時間があるなら、鍛錬とか他のことをしていてと言われた。


 だから家に戻るのは、いつも俺が最後で。みんなは俺が戻るまで待っていてくれて。みんな揃って夕飯を食べる――これが俺の日常だ。


「ねえ、アリウス。今日はエリク殿下が……」


「アリウス君、聞いてよ。魔法省の偉い人が……」


「アリウス。私たちはそろそろ『竜の王宮』を攻略するんだけど……」


「土木工事を全部魔法でやるって話があるんですけど。どう思います?」


 みんなが、それぞれ今日あったことを話して。解らないことや迷っていることは、みんなで相談する。


 俺にとって特別なのは、今でもエリスだけど。他のみんなとも、こうして一緒に暮らしていることは、どうなんだろう?


「アリウスには、みんなの気持ちにも応えて欲しいと思うけど。急ぐ必要はないわよ」


 エリスはみんなを包み込むような優しい笑みを浮かべる。いや、エリスがどうしたいのか、他のみんながどうしたいのかも解っているつもりだけど。


 俺はそんなに器用じゃないからな。エリスを特別に思う気持ちを、他のみんなにもって……少なくとも、今は想像できないんだよ。


「アリウス、あの……お願いがあるんですが」


 ソフィアは不意に言うと、顔を赤く染める。


「ソフィア、何だよ?」


「その……あーん……」


 ソフィアは恥ずかしいそうに、フォークに刺した肉を俺の口の前に運ぶ。

 いや、ちょっと待とうか。


「ソフィア。1人で食べるからさ」


「アリウス。ソフィアは貴方に食べさせたいのよ。それくらい構わないわよね」


 エリスのフォローに、みんなが注目する。

 まあ、確かにその通りなんだけど。


 ソフィアにじっと見つめられて、俺は口を開く。ソフィアが口に入れた肉をゆっくりと咀嚼する。


「ソフィア、美味いよ」


「アリウス、だったら私も!」


「そうだよ、アリウス君!」


「うん。ソフィアだけじゃズルいわよね」


 いや、こうなることが解っていたから。遠慮したかったんだけど。

 みんながフォークやスプーンを持って迫って来る。エリスは満足そうに笑っている。


 こんな姿……他の奴には、絶対に見せられないよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る