第203話:戦い方


「じゃあ、魔神シャンピエール。第二ラウンドと行くか」


 魔神シャンピエールと正面から対峙しながら。俺は宣言する。


「アリウス・ジルベルト、貴様……人間風情が舐めた真似を。愚かにも魔神であるこの俺に、勝てるとでも思っているのか?」


 シャンピエールの周囲の空間を、異質な魔力が包み込んで。空間がグニャリと歪む。

 『支配領域ドミネイトユニバース』――あらゆるモノを消滅させる魔神シャンピエールの能力だ。


「さあね。勝てるとか勝てないとかじゃなくて。俺は売られた喧嘩は買う主義なんだよ」


 俺は2本の剣から魔力の刃を伸ばして、魔神シャンピエールに切りつける。だけど『支配領域』が魔力の刃を消滅させる。

 『支配領域』は攻防一体の能力みたいだな。


「確かに俺の攻撃が効かないみたいだけど。魔神シャンピエール、いつまでも自分の領域に閉じ籠っているつもりか?」


「抜かせ!」


 魔神シャンピエールが一気に加速して、距離を詰めて来る。俺は反応して加速するけど、シャンピエールの方が速度が速い。


 だけど問題ない。俺は『短距離転移ディメンジョンムーブ』を連続発動して、不規則な動きで魔神シャンピエールとの距離を空けながら。グレイたちを巻き込まないように、上空へと誘導する。


「ちょこまかと……うるさい虫けらだな!」


 魔神シャンピエールが『支配領域』を拡大して、俺を飲み込もうとする。だけど俺はこの瞬間を待っていたんだよ。


 右手の剣の剣先一点に魔力を集約して、シンピエールに向けて放つ。俺が放った魔力は『支配領域』に飲み込まれるけど、完全に消滅する前に命中して。シャンピエールの頬に浅い傷を作る。


 まとんど同時に、別の魔力の塊がシャンピエールの背後から襲い掛かる。放ったのは魔王アラニスだ。俺と同じことを考えていたみたいだな。


「やっぱり『支配領域』を拡大すると能力が落ちるんだな」


 そうじゃなければ、初めから『支配領域』をもっと広げている筈だからな。


「それに『支配領域』は、シャンピエール自身の魔力も飲み込んでしまうようだね。領域を展開したまま魔力を放てるなら、当然しているだろう」


 俺とアラニスが言ったことは、図星みたいだな。魔神シャンピエールは舌打ちして、俺たちを睨みつける。


「『支配領域』だけが俺の力じゃない。魔神である俺と貴様たちの格の違いを教えてやろう!」


 魔神シャンピエールは『支配領域』を解除して。青く輝く巨大な剣と、高出力の魔法を同時発動して襲い掛かって来る。

 確かに魔力の強さも速度もシャンピエールの方が上だけど。


 俺は高速移動と『短距離転移』を繰り返して、魔神シャンピエールの死角を狙う。

 限界まで魔力を凝縮した一撃を放つと同時に、再び『短距離転移』を連続発動して不規則な動きで距離を空ける。一瞬でも止まればシャンピエールが『支配領域』を発動することは、解っているからな。


 最難関トップクラスダンジョンや、世界迷宮ワールドダンジョンで1,000体以上の敵と高速戦闘を続けて来た俺にとって。魔神シャンピエールが『支配領域』を発動する直前に回避することは難しくない。


 魔王アラニスも考えていることは同じようで。不規則な動きで魔神シャンピエールを幻惑しながら、凝縮した魔力の塊を叩き込む。

 魔力の塊を無数に出さないのは、それだけ魔力を集約しているからで。ピンポイントに集約した魔力が、魔神シャンピエールの身体を貫く。


「何故……格下の貴様らの魔力が俺に通用するんだ?」


「魔力操作の精度の問題だよ。確かに魔神である君の方が、魔力は遥かに強いようだけど。魔力効率と集約度は私とアリウスの方が上みたいだね」


 魔力は効率良く使うことと、集約することで威力が上がる。魔神シャンピエールの魔力操作は精度が低い訳じゃないけど。限界まで精度を高めるような鍛錬はしていないだろう。

 同じ魔神でも魔神エリザベートは、魔力をもっと研ぎ澄ましていたけどな。


 まあ、それでも魔神シャンピエールが持つ圧倒的で膨大な魔力と、回復力を考えれば、俺とアラニスが勝つのは難しいだろう。

 どんなにダメージを与えても、シャンピエールは一瞬で回復するし。魔力が減る様子は一切ない。これが魔神の力って奴か。


 魔神シャンピエールを倒せるとしたら。シャンピエールの『支配領域』みたいに、全てを一瞬で消滅させるしかないだろう。

 だけど今の俺たちに、そんな力はないし。アラニスの能力の限界は解らないけど。俺のMPは無限じゃないからな。結局のところ、勝ち筋は見えない。


 それでも魔神シャンピエールと真面に渡り合えることが解ったのは収穫だし。シャンピエールに俺たちが簡単に殺せないと、解らせることができた。

 あとは今回の幕の引き方だな。シンたちが再び魔界に来ても、魔神シャンピエールが手出ししないような手を打つ必要がある。


「魔神シャンピエール、それくらいで良いだろう。これ以上、貴様は醜態を晒すつもりか?」


 戦場に響き渡る声。血のように赤い髪と金色の瞳の美女。褐色の肌に赤銅色の甲冑を纏う姿は、悪魔というよりも闘神という感じだ。

 魔神エリザベートの登場に、魔神シャンピエールが動きを止める。


「魔神ともあろう者が、人質を取るような下劣な真似をした上に。貴様の配下たちは殲滅されて、貴様自身もここまで苦戦しているのだ。なあ、魔神シャンピエール。これ以上の醜態はなかろう?」


 地上のシャンピエールの城での戦闘は、ほとんど終わっている。グレイとセレナは15,000レベル超えの巨人の悪魔ゼフィロスのHPを削り切ったみたいだな。


「魔神エリザベート、貴様……」


「シャンピエール、貴様は私の客人を手に掛けようとした。つまり私に喧嘩を売ったのだ。これ以上続けるのなら、私が相手をしてやる」


 魔神エリザベートに殺意を向けられて、魔神シャンピエールが黙る。


「今後についても同じことだ。私が魔界に招いた客人を貴様が狙うなら、この私が相手になろう。それで構わぬなら、好きにすれば良い」


 このタイミングで魔神エリザベートが登場したのは、勿論、事前に打ち合わせしたからだ。

 できれば自分で幕を引きたかったけど。今の俺じゃ、魔神シャンピエールを出らせることはできないからな。

 俺たちがお膳立てをして、魔神エリザベートに幕を引いて貰うのが、今は最善策だろう。


 魔神エリザベートなら、魔神シャンピエールを消滅させることもできそうだし。遺恨を残さないためには、それが正解かも知れない。

 だけど魔神同士が相手を消滅させるまで戦ったら、魔界がどうなるか解らないからな。今回の争いの原因は俺だから、魔神エリザベートにそこまでして貰うつもりはない。


「シャンピエール。貴様は『RPGの神』とやらに踊らされたようだが。アリウスだけではなく、アラニスもいずれは我々のステージまで登って来るぞ。

 貴様はそれが面白くないようだが、『RPGの神』はアラニスを自分の使徒だと思っているようだからな。アラニスが強くなることは容認するだろう」


「エリザベート……貴様は何が言いたい?」


「本来、魔神も神も力こそが全ての存在だ。新たな強者が現れるなら、むしろ喜ばしいことであろう? 貴様も魔神なら小賢しいことなどせずに、自らを研鑽して力を示せ。策に溺れるような軟弱な輩は、この私が滅ぼしてやるわ」


 魔神エリザベートまさに武神という感じで、獰猛に笑った。

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