第202話:魔神の力


 魔神シャンピエールと配下の悪魔たちに対峙する俺、グレイ、セレナ、魔王アラニス。


 俺とグレイはフル装備だ。剣と鎧は世界迷宮ワールドダンジョン産。付与や特殊効果のないシンプルなモノだけど、基本性能はこれまでに手に入れた中で1番高い。

 世界迷宮を攻略することで、俺たち自身が強くなっているけど。強い装備も手に入るから、俺たちの力は二重に上がっている。


 魔神シャンピエールの方が、レベルが遥かに高いことは解っている。だけどレベルはあくまでも強さの指標に過ぎないからな。

 今の俺の力がどこまで通用するか。魔神シャンピエールはムカつくけど。強い奴と戦う楽しさに、俺は思わず獰猛な笑みを浮かべる。


「ボロニス、魔神シャンピエール陛下をお守りしますよ! 人間風情に我々の本当の力を見せてやりましょう!」


「ムルシア、当然だ! 汚名を返上するチャンスだぜ!」


 四本腕で下半身が馬の悪魔と、1つ目巨人の悪魔が何か言っているけど無視だ。

 俺は一気に加速して、2人の悪魔との距離を詰めると。擦れ違いざまに2本の剣から伸ばした魔力の刃で、2人の悪魔の胴を真っ二つにする。


「グレイ、周りの悪魔たちを先に片づけるわ。グレイはそのデカい奴の相手をしていて」


「セレナ、解っているぜ」


 セレナは魔力を凝縮した無数の光の塊を再び出現させると。上空から悪魔たちにレーザーの雨を放つ。

 純粋な魔力をほとんどロスなしで武器として使うセレナに、魔神シャンピエールの部下の悪魔たちが蹂躙されて行く。


 グレイは『短距離転移ディメンジョンムーブ』と高速移動を繰り返して。ゼフィロスという体長20m級の巨人の悪魔を翻弄しながら。魔力を凝縮した2本の大剣で、ゼフィロスのHPを削っていく。


 15,000レベル超えのゼフィロスは、咆哮を上げながら。超自然災害級の威力の拳を、続けざまに何度も振るっている。

 ゼフィロスは魔神シャンピエールに精神支配されているみたいだけど。攻撃は速くて正確だ。拳が空気を押し潰して、周囲が物凄い熱を帯びる。


 だけど当たらなければ意味がないって感じで。グレイはゼフィロスの攻撃を全て躱している。

 ゼフィロスの高過ぎるHPと回復力は問題だけど。グレイとセレナに任せておけば、大丈夫だろう。


「アリウス、そろそろ行こうか」


 魔王アラニスが不敵な笑みを浮かべる。


「ああ、そうだな」


 俺とアラニスは一番奥に控えている魔神シャンピエールの元に向かう。


 シャンピエールの城中から、今も悪魔たちが集まって来ている。だけど中庭にいたのが主要な部下なのか、そこまで強い悪魔はいない。


 それでも魔神シャンピエールは全然余裕で――いや、そうでもないか。


「アリウス・ジルベルト、アラニス・ジャスティア。俺の部下たちに善戦したことは褒めてやろう。だが所詮は人間に魔族。魔神である俺に勝てると思っているのか?」


 魔神シャンピエールは、青く輝く巨大な剣を出現させる。

 青い大剣が途轍もなく強大な魔力を帯びていることは解る。もし直撃すれば、俺の身体は一瞬で消滅するだろう。


「さあ、この俺が相手をしてやる。掛かって来い」


 魔神シャンピエールは周囲に『転移阻害アンチテレポート』を展開している。だからこのままじゃ、シャンピエールの隙を突いて。シンたちを連れて『転移魔法テレポート』で逃げるのは無理そうだな。


 俺は支援系のマジックアイテムはフル装備だし。自分が使える支援魔法も全て発動している。これが現時点での俺の全力だ。2本の剣の剣先に魔力を集約する。


 魔王アラニスは自分を包み込むように、濃密な魔力を展開させる。

 アラニスが手にしているのは、魔力を凝縮した漆黒の剣だ。他にも幾つも魔法を展開している。アラニスも準備は整っているみたいだな。


 俺とアラニスは同時に動いた。一気に限界まで加速して、魔神シャンピエールに迫る。

 このとき、シャンピエールがニヤリと笑った。


 突然、魔神シャンピエールの周囲の空間を、異質な魔力が包み込む。

 グニャリと空間が歪んで、周囲の全てが消滅する。


「『支配領域ドミネイトユニバース』――これが魔神である俺の力だ! 人間や魔族風情では、決して辿り着けぬ」


 魔神シャンピエールが、勝ち誇るように笑う。


「確かに今の俺には真似できないけど。威力を別にすれば、範囲攻撃魔法と同じだろう」


「しかも効果範囲は限られるようだからな。私たちが近づくまで発動しなかったのは、そういうことだろう?」


 俺とアラニスは『支配領域』の外から、魔神シャンピエールに声を掛ける。


「何故……貴様たちは消滅していない? 『転移魔法』で逃げることも、できなかった筈だ!」


 シャンピエールは唖然としているけど。わざわざ説明してやるつもりはない。


 ネタは単純だ。俺は魔神シャンピエールの『転移阻害』を『解析アナライズ』して。俺の『短距離転移』のレベルなら、奴の『転移阻害』の中でも発動できることは解っていた。

 『短距離転移』と高速移動を繰り返すことが、俺の戦闘の基本スタイルだからな。『転移阻害』に対抗するために、『短距離転移』のレベルは最優先で上げている。


 あとは魔神シャンピエールの言動から、何か仕掛けて来ることが見え見えだったけど。敢えて近づいたのは。


「アラニス陛下。シンたちのことは、後は我々にお任せください」


 シャンピエールの城から少し離れたところにいるのは、魔王アラニスの配下の魔族シュメルザたちだ。

 今回は色々な状況が想定されたから。アラニスは人手が必要になることを考えて、配下の魔族たちを魔界に連れて来ていた。


 俺と魔王アラニスは『伝言メッセージ』で打合せして。俺が魔神シャンピエールの注意を引き付けているうちに、アラニスがシンたちが閉じ込められている檻ごと奪って、シュメルザたちに渡した。

 シュメルザたちは『転移魔法』を発動して、シンたちを連れて地上に戻る。これでもう、魔神シャンピエールが手出しすることはできない。


 さてと。シンたちを取り戻したことだし。このまま帰っても良いんだけど。

 シンたちが魔界に来なければ、俺たちは『転移魔法』で地上と世界迷宮を往復して。あとは魔神エリザベートのところにも『転移魔法』で行くから、魔神シャンピエールが俺たちに手出しする隙はないだろう。


 だけど魔神シャンピエールに捕まらないために、魔界に来るなとシンたちに言うのもな。シャンピエールが狙いは俺だからな。

 それに少なくとも、魔神シャンピエールに瞬殺されないことは解ったし。


「なあ、アラニス。もう少し付き合って貰っても構わないか?」


「アリウスなら、そう言うと思ったよ。私も魔神シャンピエールにはムカついているからね」


 今の俺たちが魔神と真面に戦うなんて、無謀と言われるかも知れないけど。


「じゃあ、魔神シャンピエール。第二ラウンドと行くか」

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