第201話:本気


 シンたちがさらわれたことと、俺たちが魔神シャンピエールと戦うことは、エリスと他のみんなにも伝えてある。

 みんなは心配していたけど、俺を止めることはなかった。


「絶対に帰って来るからな」


 俺はエリスとみんなに約束する。俺はこの世界の魔神や神よりも強くなるんだからな。こんなところで死ぬ訳にはいかないだろう。


※ ※ ※ ※


 翌日の夜。アークデーモンのサウラスは約束通りに王都にやって来て。

 魔神シャンピエールが指定した場所は、シャンピエールが支配する魔界の国アンゴルネーゼの北端にある奴の城だった。


 魔界の地理については、魔神エリザベートに教えて貰っている。

 俺はグレイ、セレナ、エリザベートに『伝言メッセージ』で場所を伝えると、『転移魔法テレポート』と『飛行魔法フライ』で指定された場所に向かった。


 雪と氷に覆われた山岳地帯に、魔神シャンピエールの城はあった。

 100m以上ある城壁に囲まれた城の中庭で、魔神シャンピエールは部下の悪魔たちと共に待ち構えていた。

 シン、ガルド、シュタインヘルトの姿もある。意識を失って檻の中に閉じ込められているけど。


 俺は『鑑定』で魔神シャンピエールと悪魔たちのレベルとステータスを調べる。

 当然だけど、魔神シャンピエールはレベルすら一切解らない。もう一人気になった奴は、一番前に立っている20m級の巨人だ。


 四本の角を持つ鋼のような身体の巨人は、全身に鎖を巻かれて拘束されていて。虚ろな目で虚空を見ている。こいつのレベルは15,000超えだ。


「アリウス・ジルベルト。逃げずに来たことだけは褒めてやる。だが愚かな奴だ。ゴミ屑のために自分の命を捨てるとはな」


 流れるような蒼い髪と金色の瞳。光り輝く白銀の鎧を纏う体長10m級の美丈夫。

 魔神シャンピエールの見た目はまるで神のように神々しいけど。皮肉な笑みを浮かべる顔は、妙に俗物じみている。


「人を攫うような汚い真似をする奴に言われたくないな。約束通りに来たんだから、シンたちを解放しろよ」


 不遜な態度の俺に、シャンピエールの部下の悪魔たちが文句をいっているけど。全部無視する。


「俺はそんな約束をした覚えはない。ゴミ屑を捕縛したと貴様に教えてやっただけだ」


 シャンピエールが勝ち誇るように笑う。まあ、これくらいは想定していたけど。


「魔神ともあろう者が、小賢しい真似をするんだな。彼らは私の部下と客人だから、返して欲しいんだが」


 忽然と姿を現した魔王アラニスが皮肉な笑みを浮かべる。


「アリウス・ジルベルト。貴様には1人で来いと伝えた筈たが?」


「ああ、それは聞いたけど。俺も約束していないからな」


 魔神シャンピエールが舌打ちする。やっぱり、こいつは見た目に反して俗物っぽいよな。


「良いだろう。アラニス・ジャスティア、俺が貴様も纏めて片付けてやる。貴様は殺さない約束・・だが。何、殺さなければ良いだけの話だ」


 勝手に自分から喋ってくれて助かるよ。これで魔神シャンピエールが『RPGの神』と繋がっていることは確定だな。


「おい、ゼフィロスの拘束を解け!」


 シャンピエールの指示に、部下の悪魔たちが巨人の全身に巻かれている鎖を解く。

 拘束を解かれても、巨人の目は虚ろなままだ。


「『狂乱』のゼフィロスよ、俺に従え! 貴様の力を存分に振るい、こいつらを捻り殺せ!」


 たぶんだけど、魔神シャンピエールの言葉がキーワードになっているんだろう。

 ゼフィロスと呼ばれた巨人の目に狂気が宿って、大地を揺るがすような咆哮を上げる。


 ゼフィロスが俺たちの方に突進して来るけど、魔神シャンピエールは動かない。

 ああ、シンたちを人質にしているから、俺たちが手出しできない前提なんだな。だけど――


 俺は『短距離転移ディメンジョンムーブ』を発動して、ゼフィロスの頭上に移動すると。魔力を集約した2本の剣で、奴の両眼を抉る。


「アリウス……どういうつもりだ? ゴミ屑どもがどうなっても良いのか!」


 憮然とした顔の魔神シャンピエールを、俺は見据える。


「シンたちだって、魔界に来た時点で覚悟は決めている筈だ。だけど殺すなら覚悟しておけよ。俺は絶対に仇を取るからな」


「ああ、そういうことだ。私たちが手出しできないと、勝手に勘違いているみたいだね」


 アラニスは巨大な魔力の塊を出現させて。ゼフィロスの頭上に落とす。

 ゼフィロスの巨体は城の中庭にめり込んで、クレーターを作った。


「貴様らがそのつもりなら……良いだろう。俺も本気で相手をしてやる!」


 魔神シャンピエールの指示に、部下の悪魔たちが一斉に襲い掛かって来る。まあ、部下を使うこともシャンピエールの力には違いないけど。


 下から伸びて来た巨大な腕を、俺はギリギリで避ける。大地にめり込んでいたゼフィロスが立ち上がって、反撃して来た。

 俺が抉った両目はもう再生している。回復力とHPは化物クラスだな。


 このとき。突然、無数の魔力の塊が上空に出現して、レーザーのような光の雨がゼフィロスの全身を貫く。

 同時に出現したグレイが、魔力を集約した2本の大剣をゼフィロスに叩き込んだ。


「アリウス、こいつの相手は俺たちに任せて良いぜ」


「ええ。アリウスとアラニスは、魔神シャンピエールに集中して」


 セレナが上空で笑みを浮かべる。


「どうやって貴様たちは……」


 『短距離転移ディメンジョンムーブ』を連発して、『索敵サーチ』の範囲外からの奇襲。俺たちとっては常套手段だけど、魔神シャンピエールは驚いているみたいだな。


 この世界で圧倒的な力を持つ魔神にとって、同じ魔神や神くらいしか脅威になるモノは存在しない。

 それでも魔神エリザベートや魔神ニルヴァナは隙が無いけど。どうやら魔神シャンピエールは違うみたいだな。


 まあ、相手は魔神だからな。油断なんて一切するつもりはないけど。

 魔神シャンピエールに、俺の力の全てを叩き込んでやる。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 19歳

レベル:17,368(+15)

HP:184,214(+162)

MP:280,956(+246)

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