第198話:激突

 夜の闇の中。こっちに向かって来るのは、山羊のような角と蝙蝠のような翼を持つ、典型的な姿の悪魔だ。

 神たちが取り決めたルールだと、魔界の存在は地上に出ることができない筈だ。だけど例外はある。地上の奴が魔法で召喚した場合だ。


 悪魔を召喚する魔法は存在する。普通に発動すると、召喚できる時間に制限があって。そこまで強い悪魔は呼び出せないけど。

 だけど依り代になる肉体を用意すれば、時間の制限はなくなるし。依り代が強い魔力を持っていれば、魔力に応じた強さの悪魔を召喚することができる。

 『奈落』の創設者バイロン・ガストレイが、自分の身体を依り代にして。強力な悪魔を召喚したのが、そのパターンだな。


 だから地上に悪魔がいること自体は、別に不思議なことじゃない。

 だけどこのタイミングで、俺がいる場所に真っ直ぐ向かって来たってことは、魔界絡みだって考えるべきだろう。

 王国諜報部の連中も、悪魔の存在に気づいているみたいで。こっちに集まって来ている。


「なあ、おまえは俺に用があるんだよな?」


 悪魔は空中で立ち止まって、ニヤリと笑う。


「貴様がアリウス・ジルベルトか。そっちらから出て来るとは、手間が省けたぜ。俺は魔神シャンピエール・ラトリウス陛下に仕えるアークデーモンのサウラスだ。シャンピエール陛下からのメッセージを伝えに来たぜ」


 『伝言メッセージ』は魔界と地上の間でも、やり取りができるからな。こいつが魔神シャンピエールの配下なら、依り代に受肉した悪魔が『伝言』で指示を受けたか。悪魔と繋がりがある地上の奴らと連絡を取って、自分を召喚させたってところか。


「魔神シャンピエール陛下が、魔界にいる貴様の知り合いを捕縛したぜ。そいつらの命が惜しいなら、2日後に陛下が指定する場所に貴様1人で来いって話だ」


「俺の知り合いねえ。誰のことだよ?」


 可能性がある奴なんて、限られているけどな。


「人間風情の名前なんて、シャピエール陛下が知る筈がねえだろう。人間の男が3人で、そのうち1人はジジイだ。それで解らねえか?」


 試しにシンに『伝言』を送ってみたけど、返事はない。まあ、そういうことだろうな。


「たぶん俺の知り合いだけど。知り合いだからって、助けてやる義理はないからな。自分から魔界に行った時点で、自己責任だろう」


 こうなること・・・・・・は想定していたから。魔神に狙われる可能性を、シンたちには伝えている。

 それでも魔界に残ったのは、シンたちの判断だし。俺がどうこう言う話じゃない。


 だけど俺が巻き込んだのは事実だからな。シンたちを本気で放置するつもりはない。こんな言い方をしたのは、悪魔の反応を探るためだ。


「貴様は仲間を見捨てるのか?」


 アークデーモンのサウラスは、大して興味もなさそうに言う。


「だから仲間じゃなくて、只の知り合いだからな。そいつらは魔王アラニスの配下と客人なんだよ。そういう話はアラニスにしろよ」


 魔神シャンピエールが『RPGの神』にそそのかされた可能性は高い。

 だけど『RPGの神』は魔王アラニスを、自分の駒だと思っているみたいだから。魔神シャンピエールにアラニスを傷つさせたりはしないだろう。


 まあ、魔神シャンピエールが『RPGの神』に素直に従うとは限らないし。アラニスに丸投げするつもりはないけど。


「そんなことは、俺の知ったことか。俺は魔神シャンピエール陛下のメッセージを伝えに来ただけだ。

 要件は伝えたからな。2日後の夜、シャンピエール陛下が指定する場所を伝えにまた来るぜ」


 サウラスは自分の言いたいことだけを言うと姿を消した。サウラスは只のメッセンジャーみたいだな。


 だけど現時点で場所を教えない理由は、こっちに準備をさせないためか?

 だったら直ぐに呼び出す方が効果的だと思うど。2日後に指定したってことには、他に何か理由があるのか?


 まあ、憶測していても仕方ないし。こっちも2日間を有効に使って、作戦を練るとするか。


※ ※ ※ ※


※三人称視点※


 少し時間を遡って。シン、ガルド、シュタインヘルトの3人は、魔界の荒野で野営をしていた。


 焚火で魔界の獣の肉を焙ってかぶりついて、酒で流し込む。シンたちは魔神エリザベートとの約束を守って、自分たちが食べる分以外は魔界の生き物を殺していない。


「ガルド、シュタインヘルト……」


 不意に、シンの眼光が鋭くなる。


「ああ。クソ爺、解っているぜ」


 ガルドが応えて、シュタインヘルトが頷く。


 3人はそれぞれ武器を抜くと、背中合わせに身構える。

 シンは両端に槍先がある三折槍。ガルドは禍々しい巨大な戦斧。シュタインヘルトは刃だけで2mはある長物の刀だ。


「俺たちに何の用だ?」


 シュタインヘルトの言葉に応えるように、闇の中から1悪魔たちが姿を現す。

 数は100人近い。勿論、数が多いだけじゃなくて。全員が最低でも1,000レベルを軽く超えている。


「お主らは、魔神エリザベート陛下の配下ではないな。纏っている空気が違う。アリウスが言っておった他の魔神の手の者か?」


 シンが三節槍に手を掛けたまま、鋭い殺気を放つ。

 ガルドは犬歯を剥き出しにして、臨戦体制だ。シュタインヘルトは目を細めて、悪魔たちの力を見極めようとする。


 悪魔たちは何も応えずに、無言のまま迫って来る。問答無用で制圧するつもりのようだ。


「ならば儂も容赦はせんぞ」


 シンは一気に加速して。悪魔たちの間を擦り抜けながら、三節槍の2つの槍先で悪魔たちを次々と切り裂いて行く。


「舐めた真似をしやがって。後悔させてやるぜ!」


 ガルドは野獣のように吠えて躍動しながら、魔力を集約した戦斧を振り回す。

 一見、雑な戦い方だに見えるが。パワーと正確さを兼ね揃えた攻撃で、悪魔たち蹂躙する。


「数で勝てると思うな。これくらいの死線なら、俺は何度も越えている!」


 シュタインヘルトの戦い方は、シンやガルドのように派手じゃないが。間合いを完璧に見極めた一撃必殺の斬撃で、悪魔を確実に仕留めていく。


「なるほど。人間風情が魔界の魔物モンスターを殺さずに戦っているとは聞いてしましたが。なかなか腕が立つようですね」


 だけど後方から新たな2人の悪魔が現れると、空気が変わった。

 慇懃無礼な態度で進み出たのは、4本腕で下半身が馬の悪魔だ。


「ムルシア、そこまで言うほどの相手か? まあ、それなりには戦えそうだから、退屈しないで済みそうだが」


 もう1人は体長8mクラスの1つ目巨人の悪魔で。胸の部分にある巨大な口を開けて、舌なめずりする。


「ボロニス、貴方は何を考えているのですか? 魔神シャンピエール陛下より我々が承った任務は、この者たちを捉えることですよ。ということですので、無駄な抵抗はしないで貰えると、手間が省けて助かるのですが」


 4つ腕で下半身が馬の悪魔ムルシアと、1つ目巨人の悪魔のボロニス。この2人は他の悪魔たちと、明らかに格が違う。

 シン、ガルド、シュタインヘルトの3人は魔界で鍛練を積むことで、確実に強くなったが。それでもムルシアとボロニスが放つ魔力は、彼らを遥かに上回っていた。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 19歳

レベル:17,353

HP:184,052

MP:280,710


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ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


アリウスのデザインは近況ノートとTwitterに載せました。

https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330660746918394

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA

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