第196話:対決


 魔神ニルヴァナ・ハンティエルドが目の前に現われるまで。俺たちはこいつの存在に気づくことができなかった。


「アリウス・ジルベルト、グレイ・シュタット、セレナ・シュタット。僕は君たちに会いに来たんだ」


 両目を包帯で覆った白い髪の女子。整った顔立ちの魔神ニルヴァナは、まるで人形のようで。決して強そうに見えないけど。魔神エリザベートに匹敵するほど、圧倒的な魔力を放っている。


 いきなり魔神ニルヴァナが来るとは思っていなかったけど。俺たちだって、このタイミングで誰かが仕掛けて来ることは想定していた。


 俺たちは『迷宮の支配者ダンジョンマスターの指環』を持っているから。地上と世界迷宮の中を『転移魔法テレポート』で直接往復しているし。魔神エリザベートのところにも『転移魔法』で移動している。

 だから地上に行くことができない奴が、エリザベートに邪魔されないで仕掛けるなら、今のタイミングしかない。


 それが解っていたから、俺とグレイとセレナは武器を抜いていないだけでフル装備だ。支援魔法も全部常に発動しているんだけど。それでも魔神ニルヴァナが間合いに入るまで、全く気づけなかった。


 だけどここで距離を取ることは悪手だな。魔神ニルヴァナが『転移阻害アンチテレポート』を展開していることは、『解析アナライズ』で解っているし。魔神クラスに速度スピードで勝てる筈がないからな。


 いつでも収納庫ストレージから武器を出せるように準備して。魔神ニルヴァナの動きに反応できるように、精神を研ぎ澄まして意識を集中するしかない。包帯で隠しているけど、魔眼のことも警戒しないとな。


 グレイとセレナとは事前に打ち合わせしるし。2人も俺と同じ考えのようで、ニルヴァナに意識を集中している。だけど周りの連中全員が、俺たちと同じ考えの筈はなくて。


「てめえ……魔神だか何だか知らねえが。いきなり出て来やがって、邪魔するんじゃねえぞ!」


 ガルドも魔神ニルヴァナの圧倒的な力を感じている筈だけど。禍々しい巨大な戦斧に魔力を集中する。

 まあ、魔界の魔物モンスターと戦い続けたことで、ガルドが確実に強くなっていることは解っているけど。ニルヴァナに勝てるとか、そういうレベルじゃないだろう。


「止せ、ガルド!」


「うるせえ、クソ爺! こんな舐めた真似をされて、黙っていられるかよ!」


 シンの制止を無視して、ガルドが攻撃を仕掛けようとする。

 だけど俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開して、ガルドの動きを封じた。


「アリウス、てめえ……ふざけるんじゃねえぞ!」


「なあ、ガルド。もっと相手との力の差を自覚しろよ。おまえの実力じゃ、何もできないで殺されるだけだからな」


 ガルドと話している間も、魔神ニルヴァナから視線を外したりはしない。

 油断したら、簡単に殺されることは解っているからな。


「魔神ニルヴァナ、ガルドの非礼については謝るよ。だけどいきなり間合いに入って来たそっちにだって、非があるからな。それで俺たちに何の用があるんだ?」


「確かにその通りだね。僕は弱い癖に良く吠える犬には興味がないし。お互い水に流そうじゃないか」


「何だと、てめ……」


 ガルドが文句を言うけど、これ以上面倒なことになりたくないからな。『絶対防壁』の中に電流を流して、ガルドの意識を奪う。


「さてと、うるさい犬が黙ったことだし。そろそろ本題に入ろうか」


 魔神ニルヴァナは、本当にガルドのことなんて興味がないようで。何事もなかったかのように薄く笑う。


「アリウス、グレイ、セレナ。人間に過ぎない君たちが、どうしてそこまでの力を手に入れることができたのか。しかも魔界に来てからの短期間に、君たちはさらに成長している。本当に興味深いよ」


 魔王アラニスは世界中の魔力を感知できるチートな能力を持っているからな。魔神ニルヴァナが同じような能力を持っていても不思議じゃない。

 だけど魔神ニルヴァナから、一切の敵意を感じない。ニルヴァナにとって俺たちは、敵ですらないのか。それとも……


「僕が魔神エリザベートに宣戦布告したことは、君たちも知っているよね? 単刀直入に言おう。君たちがエリザベートの客人に過ぎない・・・・・・・なら、僕の臣下にならないか」


 2つ頭を持つ悪魔ユーグレントが立ち去った後に、魔神エリザベートと話した内容まで知っているみたいだな。確かに魔神ニルヴァナの諜報能力は侮れない。

 だけどユーグレントも同じような話をしていたけど。魔神ニルヴァナは本気で俺たちを誘っているのか? それともこれはニルヴァナの計略なのか?


 いや、計略の筈はないか。ニルヴァナが本気になれば、俺たちを皆殺しにすることができるんだから、その必要はない。計略に嵌めるとしたら、俺たちじゃなくて魔神エリザベートの方で。俺たちを裏切らせておいて、エリザベートの背後を突くとかだな。


「アリウス、君は頭が回るようだね。確かに君たちが魔神エリザベートを裏切って、伏兵として潜入してくれるなら最高だけど。君たちは腹芸をするようなタイプじゃないだろう? 僕は純粋に君たちの力を買っているんだよ」


 俺の考えを見透かしたように、魔神ニルヴァナが笑う。


「残念だけど君たち以上戦力なんて、魔界には魔神である僕たち以外に存在しないんだよね。君たちが魔王と呼ぶアラニス・ジャスティアだけは例外だけど。アラニスは魔神エリザベートとの付き合いが長いからね。僕の臣下になるとは思えないから」


 魔神ニルヴァナは包帯越しに、真っ直ぐ俺たちを見る。


「アリウス、グレイ、セレナ。僕は君たちが望むモノを全て与えることができる。君たちは魔神エリザベートを裏切りたくないと思うだろうけど。君たちはエリザベートの臣下じゃないんだろう。だから裏切りじゃないと思うよ」


 魔神ニルヴァナが言いたいことは解るけど。俺たちの答えは決まっている。


「俺たちは魔神エリザベート陛下の臣下にも、他の魔神の臣下にもなるつもりはないよ。だけど万が一、エリザベート陛下が窮地に立つようなことがあったら。俺たちはエリザベート陛下のために戦うつもりだ」


 適当なことを言って誤魔化しても、無駄だろうからな。全部正直に答える。


「なるほどね……君たちは自分の道を突き進むってことだね」


 このとき。魔神ニルヴァナが初めて、本当に楽しそうに笑った気がした。

 包帯で目を隠しているから、表情が全部解る訳じゃないけど。


「君たちを勧誘することは諦めるよ。だけど君たちが勘違いしているかも知れないから、一応伝えておくけど。僕と魔神エリザベートの戦いは、暇潰しのじゃれ合いのようなモノだよ。

 僕は『RPGの神』が言っていることなんて、下らないと思っているし。君たちが警戒すべきなのは、僕じゃないってエリザベートも言っていただろう?」


 魔神ニルヴァナが何を考えているのか。本当のところは、俺には解らないけど。そこまで悪い奴じゃないとは思う。


「君たちの邪魔をして悪かったね。僕は帰るとするよ」


 そう言うなり。魔神ニルヴァナは姿を消した。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:15,573

HP:165,160

MP:251,891


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書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


アリウスのデザインは近況ノートとTwitterに載せました。

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