第195話:襲来


 魔神エリザベートに、魔神ニルヴァナについて教えて貰った後。俺たちはエリザベートに手合わせをして貰った。


 結果は今回も完敗で、エリザベートに傷一つ付けられないまま俺のMPは枯渇したけど。また少しだけ、魔神の領域に近づけたと思う。


「夕食を用意させたから、おまえたちも食べていけ」


 魔神エリザベートのところに来ると、大体このパターンだ。

 ハイネルフォードたち魔将が一緒に囲むテーブルには、魔界の生き物を素材にした料理が並ぶ。

 ドラゴンの頭の姿焼きとか、インパクトがあるけど。ドラゴンの目玉は食べてみると、結構美味いんだよな。


「おまえたちも、すっかり魔界に慣れたようだな」


「ああ。もう3ヶ月以上、こっちに来ているからな」


 魔神エリザベートに手合わせをして貰うために、週に1度魔界の国イスペルダを訪れるくらいで。ほとんどの時間を世界迷宮ワールドダンジョンの攻略に費やしているけどな。


「おまえたちならば、問題ないとは思うが。他の魔神たちには気を付けることだな。ナイジェルスタットは気まぐれな奴で、いつ仕掛けて来るか解らぬ。ニルヴァナは先ほど話したように、計略に長けている」


 魔神ナイジェルスタットは、俺たちが初めて魔界に来たときに。俺たちの様子を見に、いきなりエリザベートの城に現れた。

 何もしないで帰って行ったけど。ナイジェルスタットが本気で仕掛けて来たら、今の俺たちじゃ勝てないことは解っている。


「だが一番問題なのは、もう1人の魔神だ。魔神シャンピエール・ラトリウス。奴にだけは関わらぬ方が良いぞ。性格がねじ曲がっているからな」


 正面から戦うタイプのエリザベートとナイジェルスタットに対して、ニルヴァナはからめ手を好む。だけど魔神シャンピエールはどちらでもなくて、自分の欲望のままに手段を択ばずに動くタイプで。自分以外の全てを見下しているそうだ。


「シャンピエールも他の魔神に違わず、他者の言葉に従うような奴ではないが。『RPGの神』の甘言に乗る可能性が一番高いのは、自尊心の塊のようなシャンピエールだろう。奴は自分で思っているほど、したたかではないからな」


 エリザベートが魔神シャンピエールを嫌っていることが、言葉の端々から解る。まあ、シャンピエールがエリザベートが言ったような性格なら、俺も嫌いだけど。


「向こうが接触して来ないなら、俺たちの方から魔神シャンピエールに関わることはないと思うけど。エリザベート陛下の忠告は頭に入れておくよ」


※ ※ ※ ※


 エリザベートたちとの食事を終えると。今日はエリスがロナウディア王国の王都に来ているから、俺は王都にある自宅に戻った。


「アリウス、お帰りなさい」


「エリス、ただいま」


 俺は王都に邸宅を買っただけで、ほとんど使っていなかったけど。

 エリスと付き合うようになって、エリスが王都に来るときは俺の家に泊るようになったから。家のことはエリスの好きにして構わないと伝えてある。


 おかげで俺の家も家具や調度品が揃えられて、ようやく人が住んでいるという感じになった。生活感があるけど雑多じゃなくて、さすがはエリスらしく洗練されている。

 家の管理のために1人だけ使用人を雇っているけど。使用人も家の主人は俺じゃなくて、エリスだと思っているんじゃないか。


「エリス、今日は遅くなって悪かったな」


「予定通りのことだから、別に構わないわよ」


 夕飯を食べて帰ることは事前に『伝言メッセージ』で伝えていたけど。エリスは俺のスケジュールを把握しているから。今日は俺の父親のダリウスと母親のレイア、弟と妹のシリウスとアリシアの4人と一緒に外食をして来たそうだ。


「シリウス君とアリシアちゃんが、週末はアリウスもジルベルト家に来てって言っていたわよ。私はレイアさんと一緒に夕食を作るつもりだけど、それで構わないわよね?」


 俺も王都にいるときは、家族と一緒に食事をすることが多いけど。エリスだけが俺の家族と食事をするのは、これが初めてじゃない。

 王国宰相のダリウスと宰相夫人のレイアと、元王女のエリスは元々良く知っている間柄だし。シリウスとアリシアとも、エリスはすっかり打ち解けている。


「ああ。俺は構わないけど。エリスは良いのか?」


「別にアリウスに気を遣っている訳じゃないわよ。ダリウス宰相もレイアさんも良い人だし。私もアリウスの家族と過ごすのは楽しいから」


 魔導具の熱いシャワーを浴びて、エリスと同じベッドで眠る。こうしてエリスと毎日一緒にいることが、当たり前になって来たけど。


「エリス。俺はおまえが隣にいることが嬉しいよ。エリスがいるから、俺は安心して魔界に行くことができる。エリスには感謝しているからな」


「アリウス。私も貴方の傍にいられることが何よりも嬉しいの。そしてきちんと言葉で伝えてくれる貴方が愛おしいわ。アリウス……」


 俺はエリスの温もりを感じながら、眠りについた。


※ ※ ※ ※


 それから数日、俺は自宅と世界迷宮を往復する生活を続けて。


 今日は久しぶりに、魔界で鍛錬をしているシン、ガルド、シュタインヘルトの3人に会うことになっている。

 魔界で再会したときに、俺はシンと『伝言』の登録をしていて。たまには鍛錬に付き合えと、向こうから連絡が来た。


 俺とグレイとセレナは夕方まで世界迷宮で魔物たちと戦ってから。『伝言』でシンたちの居場所を聞いてそこに向かう。

 シンたちは魔界の魔物を狩ることで鍛錬をしているから、魔界の各地を転々としている。

 今シンたちがいるのは、魔神エリザベートが支配する魔界の国イスペルダの外れで。


「お主たちは……どういう鍛え方をしておるのじゃ? 儂も本気で鍛えているつもりだが、どんどん背中が遠くなるのう」


 荒野で会うなり、シンが目を細める。ガルドは舌打ちしているし、シュタインヘルトは俺たちを睨んでいる。


「俺は本気で、魔神の領域を目指しているからな。まだ全然遠いけど」


「なるほど。確かにユーグレントの報告通りに、面白そうな奴みたいだな」


 不意の声。反応したときには、そいつ・・・は目の前にいた。


 両目を包帯で覆った白い髪の女子で。身長は170cmくらい。

 顔立ちは整っているけど。蝋のように白い肌と痩せた身体は、まるで人形のようだ。


 見た目は決して強そうに見えない。だけどそいつは――魔神エリザベートに匹敵するほどの膨大で圧倒的な魔力を放っていた。


「魔神ニルヴァナ・ハンティエルド……」


「ご名答だ。アリウス・ジルベルト、グレイ・シュタット、セレナ・シュタット。僕は君たちに会いに来たんだ」


 魔神ニルヴァナは薄く笑った。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:15,573(+44)

HP:165,160(+471)

MP:251,891(+707)


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ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


アリウスのデザインは近況ノートとTwitterに載せました。

https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330660746918394

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA

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