第190話:みんな

「アリウス。さっきの続きだけど、じっくり話を聞かせて貰うわよ」


 エリスの言葉に、みんなが俺を見つめながら頷く。

 俺の家に残ったのは、エリス、ソフィア、ミリア、ノエル、ジェシカの5人だ。


「ああ。みんなが俺のことを心配してくれるのは解っているからな。飲み物でも飲みながら、ゆっくり話をしようか」


 俺の家にはほとんど何もないけど。『収納庫ストレージ』の中には、色々なモノが入っている。

 収納庫から取り出したのは、入れ立ての紅茶が入ったティーポットに、温めた人数分のカップ。それに王都の有名店で買ったチョコレートケーキだ。

 収納庫は入れたモノの時間が経過しないから便利だよな。


「さっきも言ったけど。『RPGの神』はこの世界の魔神や神たちをそそのかして、俺を殺そうとしているみたいだけど。俺が置かれている状況は、そこまで深刻でもないんだ。

 『RPGの神』が唆したところで、絶対的な力を持つ魔神や神が、言いなりになるとは限らないし。少なくとも今のところは、魔神や神に戦いを挑まれている訳じゃない」


「それでも『RPGの神』がアリウスを殺そうとしているのは、事実なんでしょう?」


 ミリアがじっと俺を見る。


「それも『ダンジョンの神』に聞いただけの話だからな。それに命を狙われること自体は東方教会のテロリストで散々経験済みだし。相手が自分よりも強いことだって、俺にとっては日常茶飯事だからな。

 みんなには正直に話すけど。俺がダンジョンを攻略しているときは、いつもギリギリの状況で戦っているんだよ。そうしないと強くなれないし。ギリギリの戦いに勝ち残って、自分が強くなっていくことを実感できるのが堪らなく楽しいからな。

 もしみんなに反対されても、俺はこの戦い方を止めるつもりはないよ」


 戦闘狂の感覚を本当の意味で理解できるのは、グレイとセレナくらいだろう。

 だけどみんなも俺の性格が解っているから、無茶な攻略の仕方を止めろとは言わなかった。


「アリウスは私たちがいるこの世界を守るために。魔界に行くことで自分を囮にして、『RPGの神』の神の目を引きつけているんですよね?」


 ソフィアの碧色の瞳が問い掛ける。


「まあ、否定はしないけど。俺は売られた喧嘩は買う主義なんだよ。もしみんなのことが関係ないとしても、俺は魔界に行ったと思うよ」


 みんなのことを守りたい気持ちも本当だけど。『RPGの神』の好きにさせるつもりはない。自分よりも強い奴と戦うなんて、馬鹿のやることだけど。戦いようはあるからな。


「私じゃ、アリウスの力になれないし。気持ちとしては、アリウスに無茶をして欲しくないけど。私も冒険者だから、アリウスの気持ちは解るわ」


 ジェシカが困った顔をする。


「悪いな、ジェシカ。おまえにそんな顔をさせるつもりはないんだ。だけどこれが俺の生き方だからな」


「私は……アリウス君が置かれている状況が、本当のところは良く解っていないと思うよ。だけどアリウス君が危険な目に遭うのは嫌だよ……」


 涙を浮かべるノエルを、ミリアが優しく抱きしめる。


「ゴメンな、ノエル。みんなもホント、ゴメン。だけど俺はこういう奴なんだよ」


 開き直っていると言われたら、それまでだけど。

 俺にはみんなが悲しむからという理由で、止めるという選択肢はない。

 結局のところ、これは俺の我がままなんだよ。


「みんながアリウスのことを心配する気持ちは解るし。私だって本音を言えば、アリウスに魔界に行って欲しくないけど」


 エリスの海のように深い青の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。


「アリウス、地上のことは私たちに任せて。貴方なら魔神や神よりも強くなれるし、『RPGの神』なんかに殺されないわよ」


 根拠なんてない筈だけど。エリスは俺のことを本気で信じてくれる。俺のことを想ってくれる優しい笑みがその証拠だ。


「ありがとう、エリス。俺がいない間、悪いけど地上のことはお願いするよ」


 俺にとって、みんなが何よりも大切で。

 誰が一番とか、みんなを比べることはできないけど。


「俺は絶対に魔神や神よりも強くなって、『RPGの神』にも勝つからな。だからエリス・・・、俺のことを待っていてくれないか」


 こんな状況で言うのは、俺の我がままだと解っているけど。

 こんな状況だからこそ、有耶無耶にしたまま行く訳にはいかない。


 俺はみんなを見る。


「俺はみんなのことが大切で、これからもずっと守るつもりだけど。俺が誰よりも何よりも好きなのは、エリスなんだ」


 エリスは俺のことを理解してくれて。俺のために動いてくれる。

 だけどそんな理屈じゃなくて。俺はエリスが好きなんだよ。


「アリウス……」


 エリスが俺の胸に飛び込む。俺はエリスを強く抱きしめた。


「アリウス、私も貴方が好き。貴方ためなら、世界中を敵に回しても構わないわ」


 エリスの温もりを感じながら、俺たちは見つめ合って。互いに引き寄せられるように、唇を重ねる。


「私はアリウスを待っているわよ。だけど私のことよりも、アリウスは自分のことを考えてね。貴方がいない世界なんて、私にとって何の意味もないから」


「ああ、エリス。俺は絶対に勝つからな」


 俺とエリスはもう一度唇を重ねると。


「その言葉を聞けただけで。アリウスが最初に・・・私を選んでくれただけで、十分よ」


 エリスは俺から離れて、みんなに向き直る。


「ソフィア、ミリア、ノエル、ジェシカ。私にこんなことを言う資格がないことは解っているわ」


 エリスがみんなに語り掛ける。優しい声で。


「だから決めるのはみんなだけど。私はみんながこれまでと同じようにしてくれると嬉しいわ。アリウスを好きな気持ちも含めてね。

 アリウスがみんなのことを大切に想っていることは解っているし。みんなが本気でアリウスが好きなことも知っているから。私はできればみんなと一緒に・・・・・・・・アリウスの傍にいたいのよ」


 決して上から目線じゃなくて。エリスはみんなの気持ちに寄り添おうとしている。


「エリス様……」

「エリスさん……」

「エリスさん……」

「エリス……」


 みんながエリスに抱きつく。


「アリウス。勝手なことをして、ゴメンなさい。だけど、これが私の正直な気持ちよ」


 エリスが再び俺を見つめる。優しい笑みを浮かべて。


「俺が好きなのはエリスだ。その気持ちは変わらない。だけどみんなのことが大切なのも本当だからな。みんなが構わないなら、俺に言うことはないよ」


 みんなが俺を見つめて頷く。


 これが正しいことなのか。何が正解なのかは、解らないけど。

 俺は自分のやることをやるだけだ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:14,119

HP:149,715

MP:228,339


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ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


アリウスのデザインは近況ノートとTwitterに載せました。

https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330660746918394

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


アリウスが何故、眼鏡を掛けているかは秘密ですw

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