第187話:ワールドダンジョン


 空中に浮かぶ1,000を超える白銀の鎧の軍勢。


 サイズ的には普通の人間で、兜から覗く顔も人間に見える。鎧は統一されているけど、武器は剣や槍や戦斧など様々だ。


 軍勢を率いるのは金色の髪と瞳の男。膨大な魔力を放ちながら、日に焼けた褐色の顔に不敵な笑みを浮かべる。


「我は『世界迷宮ワールドダンジョン』第1階層守護者ゾルビア。いざ、参る!」


 鬨の声とともに、奴らは一斉に襲い掛かって来た。


 魔力を凝縮したレーザーを放ちながら。音速の3倍を超える速度で、『短距離転移ディメンジョンムーブ』を織り交ぜながら変幻自在に動く。


 しかも魔力のレーザーは奴らがいる方向からだけじゃなくて、360度全方位から飛んでくる。自分の身体から離れた場所からでも、レーザーを放てるってことだ。


 『鑑定』するまでもないけど。こいつら全員が『魔将』と呼ばれる8,000レベル超えの悪魔、ロンダルキアやガガーランよりも強い。


「ここがダンジョンってことは、おまえらは魔物モンスターなんだよな?」


 俺はレーザーの雨を躱しながら、軍勢の中に飛び込んだ。白銀鎧たちの間を擦り抜けざまに、2本の剣から伸びる魔力の刃を叩き込む。

 胴が真っ二つになった白銀鎧が、エフェクトと共に消滅して魔石が残る。


「こいつら『神々の狂乱』の最下層の魔物よりも強えな。差し詰めここは11番目の最難関ダンジョンってところか?」


 グレイも全方位からの攻撃を躱しながら、2本の大剣で白銀鎧を魔石に変えていく。


「だけど私たちが勝てない相手じゃないわね」


 セレナは『短距離転移』と高速移動で、白銀鎧たちを翻弄して。お返しとばかりに、全方位に向けて魔力のレーザーを放つ。

 セレナが『短距離転移』を繰り返す度に、周囲にエフェクトが次々と発生して。魔石が地上に落ちて行く。


 俺はソロで、グレイとセレナは2人で『神々の狂乱』を攻略してから。『迷宮の支配者ダンジョンマスターの指環』で毎日のように最下層に行って。1,000を超える最下層の魔物を殲滅させて、ラスボスまで倒している。


 『神々の狂乱』のラスボスの方がこいつらよりも強いし。1,000以上の敵に全方位から攻撃されるのも、俺たちにとってはいつものことだからな。


「おまえたちも、なかなかやるではないか」


 俺の周囲に無数の魔力の塊が出現して、一斉にレーザーを放つ。一瞬で迫るレーザーの雨に視界が真っ白になった。


「セレナばりの魔力操作だな。だけどセレナの方が精度も速度も上だな」


 俺は『短距離転移』でレーザーを躱して、ゾルビアの背後を取る。

 ゾルビアが反応して『短距離転移』で逃げる。だけど俺は奴が転移した先に『短距離転移』して追尾する。


「貴様……鬱陶しいぞ!」


 ゾルビアが再び全方位からレーザーを放つ。まあ、魔力の塊が出現した瞬間に『短距離転移』すれば良いだけの話だから。こいつの攻撃を躱すのは難しくない。


 結局のところ、思考速度と反応速度が速くて、魔法を瞬時に発動できれば。自分よりも遅い奴の攻撃は躱せるからな。


 俺はゾルビアの頭上に転移すると。ゾルビアが反応する前に、凝縮した魔力を込めた剣を叩き込む。


 魔力の刃が直撃して、ゾルビアのHPをゴッソリと削る。

 だけどゾルビアは階層ボスらしく、HPが異常に高い。まあ一撃で倒せないなら、倒すまで攻撃を続けるだけの話だ。


 結局、ゾルビアのHPを削り切るまでに20分くらい掛かった。光のエフェクトともにゾルビアが消滅して、巨大な魔石が残る。


 勿論、ゾルビアと戦っている間も、白銀鎧たちが攻撃を止める筈もなく。そいつらの相手もしながら戦ったけど。

 途中からゾルビアと一対一になったのは、グレイとセレナが残りの白銀鎧を全部倒したからだ。


 ゾルビアが消滅すると同時に、地上に巨大な魔法陣が出現する。ここがダンジョンなら、たぶん次の階層に行くための転移ポイントだろう。


 とりあえず、俺たちは地上に落ちた魔石を全部回収する。ドロップアイテムもそれなりの数が落ちていた。やっぱり、こいつらはダンジョンの魔物なんだな。


 正直に言えば『世界迷宮』に入れるようになったことは、俺にとって願ってもない話だ。

 エリザベートたち魔神や神の存在を知った今、俺はもっと強くなりたい。だけど10番目の最難関ダンジョン『神々の狂乱』を攻略するのも、そろそろ作業になってきたし。


 別に自惚れるつもりはないけど。悪魔たちを相手に鍛練するにしても、魔神クラス以外はそこまで強くないし。魔界の強い魔物を探そうとも思ったけど。結局殺さずに無力化するようなやり方じゃ、実戦経験としてはイマイチだからな。


 魔神エリザベートが相手をしてくれるなら、十分過ぎるけど。エリザベートは魔界の国イスペルダの支配者だからな。毎日相手をしてくれるほど暇じゃないだろう。


 だから『神々の狂乱』の最下層よりも強い魔物が出現する『世界迷宮』は、俺が強くなるためには打ってつけの場所だ。

 だけど俺が魔神エリザベートの力を知ったタイミングで、『世界迷宮』の存在を教えるなんて。『ダンジョンの神』の恣意性を感じるんだよ。


「なあ、『ダンジョンの神』。今も見ているんだろう? 俺はおまえには感謝しているよ。最難関ダンジョンがなかったら、俺はここまで強くなれなかったからな。

 おまえはこの世界の魔神や神と俺を戦わせるために、『世界迷宮』に導いたんだよな?

 だけど俺は強くなりたいだけで、エリザベートたち魔神や神と戦う理由がないし。他人の思惑に踊らされるのは御免だからな。俺は別の手段で強くなるよ」


 『世界迷宮』を攻略すれば、確実に強くなれるだろう。だけど『ダンジョンの神』がこの世界の魔神や神と戦わせるために手を差し伸べるのなら、俺はその手を掴むつもりはない。


『おまえがどう思おうが知ったことか。『世界迷宮』を攻略するのが嫌なら、好きにするが良い。俺はゲームを面白くするために、対抗手段を与えてやろうとしただけだからな』


 頭の中に直接響く声。グレイとセレナが驚いた顔をしているから、2人にも『ダンジョンの神』の声が聞こえているんだろう。


『1つ、忠告してやろう。おまえは勘違いしているようだが、戦いを始めようとしているのは『RPGの神』の方だ。

 これまでは『RPGの神』の駒として地上最強の存在である魔王アラニスがいたから、『RPGの神』はおまえを見逃していたが。アリウス、おまえは強くなり過ぎた。

 『RPGの神』はゲームに勝つために、この世界のルールを変えようしている』


 『ダンジョンの神』曰く。『神たち』のゲーム盤はあくまでも地上で。魔界や天界はゲームとは関係なしに、『RPGの神』が趣味で生み出したモノだ。だから魔界や天界の存在は地上に行くことができないというルールを作った。


 強過ぎる魔界や天界の存在を地上に解き放てば、ゲームが成立しなくなるだけじゃなくて地上が滅んでしまう。それは『RPGの神』も解っているから、これまではルールに従っていた。

 だけど俺というイレギュラーな存在が出現したことで、話が変わって来る。


 アリウスは『恋学コイガク』の攻略対象だから、『乙女ゲーの神』の駒と見做されるけど。彼は最難関ダンジョンを攻略することで勝手に強くなって。今では地上最強の存在である魔王アラニスに肩を並べるほどになった。


 『RPGの神』は『ダンジョンの神』と『乙女ゲーの神』がゲームに勝つために共謀して、俺を強くしたと思っているらしい。完全に誤解だけど。


 負けず嫌いな『RPGの神』は、ゲームに勝つために2人の『神』が共謀するならと。ルールを変えて魔界と天界の存在を地上を解き放とうと画策している。


『『RPGの神』が勝手にルールを変えることはできないからな。奴は他の『神たち』と交渉している。地上が滅ぶと解っていながら他の『神たち』が合意するとは思えないが、奴はしたたかだからな。絶対とは言い切れない。

 それに奴の性格を考えれば、ルールを無視して全てを無に変えることも考えられるからな』


 『神たち』はゲームをしているだけだから。ゲーム盤をひっくり返して止めることもできるってことか――最悪だな。


『だからアリウス、おまえが魔界に来たのは正解だ。この世界の神や魔神がおまえに手出しできる状況なら、ルールを変えることも無視する必要もなくなるからな。

 奴はこの世界の神や魔神をそそのかして、おまえを殺そうとするだろう。だがそいつらが奴の思い通りに動くとは限らない。この世界で絶対的な力を持つ神や魔神が、奴の言うことに素直に従うとは思えないからな。

 だから後はおまえがこの世界の神や魔神よりも、強くなれば良いだけの話だろう』


 簡単に言ってくれるけど、結局はそういうこと・・・・・・だ。

 魔界や天界の奴らを解き放って、地上が滅びるよりも。俺が命を狙われるだけで済むならマシだからな。


『だがアリウス、勘違いするな。俺はゲームを面白くしたいだけで、おまえに手を貸すつもりはない。『世界迷宮』の存在を教えたのは、ゲームバランスを保つためだ。

 あとはおまえの選択だ。『世界迷宮』を攻略しようが、放置しようが好きにするが良い』


 『ダンジョンの神』の言葉を鵜呑みにするつもりはないけど。俺も『神たち』がルールを変える可能性は考えていたし。この世界が『神たち』のゲームに過ぎないなら、世界が滅んでも『神たち』にとっては大した話じゃないだろう。


「だったら前言を撤回するよ。『ダンジョンの神』、おまえの甘言に乗ってやる。

 俺は『世界迷宮』を攻略して、この世界の魔神や神よりも強くなることを目指すよ」


 『RPGの神』と『ダンジョンの神』のどっちが正義で悪とか。そんなことはどうでも良い。俺の大切なモノを傷つけるなら、俺は誰とでも戦うからな。

 勝てるとか勝てないとか、そんなことは問題じゃない。俺はみんなを守るために、どんな手段でも使ってやる。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:14,119(+7)

HP:149,715(+77)

MP:228,339(+119)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る