第186話:魔界と天界の狭間


 魔神エリザベートに挑んだ結果。俺とグレイとセレナは、3人揃ってボロボロだった。

 傷の方は魔王アラニスに魔法で癒して貰ったけど。MPは完全にガス欠状態だ。


 だからその日はエリザベートの城で休ませて貰って。次の日に先に来ているシンたちと合流するつもりだった。


『おまえが一番欲しいモノがある場所に案内してやる。『迷宮の支配者ダンジョンマスターの指環』が導く場所に来い』


 『ダンジョンの神』の声が聞こえたのは、エリザベートの城の客室で寝ているときだった。


「俺が一番欲しいモノって何だよ?」


 とりあえず、質問してみたけど。何の反応もない。しばらく待ってみても、結局『ダンジョンの神』が応えることはなかった。


 グレイとセレナも10番目の最難関トップクラスダンジョン『神々の狂乱』を攻略して、『迷宮の支配者の指環』を手に入れているから。

 2人も『ダンジョンの神』の声を聞いたかも知れないと、翌朝になってから訊いてみたけど。『ダンジョンの神』の声を聞いたのは俺1人だった。


 一晩寝たからMPは全回復。俺たちはエリザベートと一緒に朝飯を食べてから。魔王アラニスに案内して貰って、シンたちがいる場所に向かうことにする。

 昨日食べた夕飯もそうだけど、魔界の料理は肉中心で俺好みだ。悪魔はデカい奴が多いからだろう。量も俺が満足するのに十分だ。まあ、何の肉かは怪しいところだけど。


 俺たちが魔界の国イスペルダの荒野に向かうと、シンたちが魔界の魔物モンスターと戦っているところだった。

 相手は昨日エリザベートの城に向かう途中で見た、首が3つあるドラゴンの群れ。

 シン、ガルド、シュタインヘルトの3人は、10体ほどの3つ首ドラゴンに囲まれながら、確実に仕留めていく。


 周りには意識を失った沢山の3つ首ドラゴンが倒れているから、ここは3つ首ドラゴンのテリトリーってところか。

 3つ首ドラゴンの強さにも個体差があって、一番強い奴は3,000レベルを余裕で超えているけど。シンたち3人は無言で連携しながら、ほとんど傷を負うこともなく、最後の1体まで全て倒した。


「魔物を殺さないで倒すなんて意外だな。何か縛りでもあるのか?」


 シンたちは3つ首ドラゴンを気絶させただけで、1体も殺していない。


「魔界に来る条件として、そこにいる魔王アラニスが儂らに課した制約じゃ。魔物に襲われた場合は別だが、自ら魔物と戦うときは無暗に殺すなとな。

 まあ、その方がハードルが上がって良い鍛錬になるからのう」


 シンがニヤリと笑う。2年近く経って、さらに年を取った筈なのに。シンは健在どころか、さらに強くなっている。


「魔界に来てから、儂も少しは強くなった気でいたが。アリウス、お主はさらに化物になったようじゃな。

 魔神エリザベートの城で暴れたことは、悪魔たちから聞いているぞ。それにグレイとセレナも……儂はこの歳になって、初めて世界の広さを知った思いじゃ」


 シンがカラカラと豪快に笑う。


「クソ爺がうるせえぞ! アリウス、俺はてめえに敗けたつもりはねえからな!」


 2年ほど前に死んだことになったシンとガルドは、魔族の領域に残って自分を鍛え直した。そんな2人に魔王アラニスが声を掛けて、魔界に修行に来ることになったそうだ。


「グレイ、アリウス。おまえたちが強くなったことは認めるが――」


 シュタインヘルトが俺たちを睨む。こいつもアラニスに仕えるようになってから、修行ために度々魔界を訪れているらしい。


「俺もおまえたちの領域に必ず辿り着いてみせる。だから待っていろ」


 魔界には1,000レベル超えが普通にいるし。シュタインヘルトよりも強い奴だって沢山いるだろう。

 それでも折れないで上を目指しているところは、嫌いじゃないけど。だからって変に絡んで来るなよ。


「お主たちも、しばらく魔界に留まるつもりか?」


「いや、俺は地上でもやることがあるからな。魔界と地上を行き来するつもりだよ」


 最初に魔界に来るには『異界の門ゲート』を通る必要があるけど。一度来てしまえば、『転移魔法テレポート』で地上と魔界の間を移動できる。


 『転移魔法』で移動できることも、『伝言メッセージ』で地上と通信できることも、魔界に来て直ぐに確認済みだ。

 つまり魔界と天界は地上と普通に繋がっている・・・・・・・・・ってことだ。


 魔界や天界の奴らが地上に攻めて来る可能性を危惧しているのは、これが理由だ。

 魔神エリザベートを疑うつもりはないけど。魔界と天界の奴が『異界の門』を通れないという『神たち』が決めたルールが変わらないとしても。抜け道なんて、いくらでもありそうだからな。


 シンたちはまだ魔物狩りを続けるみたいだし。アラニスはエリザベートに用があるから城に戻ると言うので。俺はグレイとセレナと3人で『ダンジョンの神』が言っていた『迷宮の支配者の指環』が導く場所に向かうことにした。


 『迷宮の支配者の指環』を嵌めると『魔界と天界の狭間』という言葉が頭に浮かんで。

それがどこにあるか感覚として解った。

 俺たちは指輪に導かれるままに飛行魔法フライで移動する。


 辿り着いた場所は、活火山に囲まれた溶岩溜まりの2,000mほど上空。

 『迷宮の支配者の指環』が反応して、空中に巨大な扉が出現する。

 『異界の門』のような光の扉じゃなくて。金属製で重厚感がある物理的な扉だ。


 巨大な扉は勝手に開いて、中には広大な空間が広がっていた。

 魔界とは全く違う。晴れ渡った青い空の下に、緑の草原がどこまでも続く。まるで地上のどこかにあるような景色だ。

 だけど太陽が3つあるから、俺たちの世界の地上じゃない。


「『世界迷宮ワールドダンジョン』へようこそ。我々は全力で戦うことを以て、おまえたちを歓迎しよう!」


 声とともに出現したのは、空中に浮かぶ白銀の鎧の軍勢。

 数は1,000を超えていて。中心にいるのは、膨大な魔力を放つ金色の髪と瞳の男。良く日に焼けた顔に、不敵な笑みを浮かべる。


「我は『世界迷宮』第1階層守護者ゾルビア。いざ、参る!」


 白銀の鎧の軍勢は、有無を言わせずに襲い掛かって来た。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:14,112

HP:149,638

MP:228,220


―――――――――――――――――――


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

少しでも気に入って貰えたり、続きが気になる方は

下から【★★★】で評価とか【フォロー】して貰えると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る