第184話:本当の強者


 ロンダルキアとガガーランの敗北を目にして、悪魔たちに動揺が走る。

 8,000レベル超えの2人が、まさか敗けるとは思っていなかったんだろう。


 だけど魔神エリザベートだけは、面白がるように笑っている。エリザベートはグレイとセレナの実力が解っていたからな。


「さあ、最後はアリウスの番だな。相手は――ここにいる残り全員だ」


 エリザベートの言葉に、悪魔たちが騒めく。


「エリザベート陛下、何を考えていらっしゃるのですか? 魔将であるロンダルキアとガガーランが敗れたとはいえ、怒りに任せて人間風情を弄り殺しにすれば。陛下の沽券に関わります」


 エリザベートを止めようするのは、隣にいるイケメンの悪魔だ。闇を凝縮したような黒い髪と赤い目。まさに悪魔のように整った顔。こいつはエリザベートを除けば、悪魔たちの中で一番強いな。


「ハイネルフォード、勘違いするな。私はおまえたちがアリウスを弄り殺しにできる・・・などと考えておらん。むしろ戦力が足りぬと思っておるわ」


 ハイネルフォードと呼ばれた悪魔が憮然とする。


「この私が人間風情に勝てぬと、陛下は仰るのですか?」


「アリウスと戦ってみれば解ることだ」


 エリザベートは鼻で笑う。


「陛下、解りました。皆の者、アリウスを全力で殺しに掛かれ」


 ハイネルフォードは冷ややかな声で言うと、俺を見据えて漆黒の剣を抜く

 黒い焔を纏う剣は禍々しい光を放ち、魔力の刃が長く伸びる。


 エリザベートが煽ったことで、他の悪魔たちも殺意に満ちた視線を俺に集める。まったく余計なことを言うから、面倒なことになっただろう。


「アリウス、おまえの本気を見せてみろ」


「エリザベート陛下、解ったよ。ハイネルフォード、始めても構わないか?」


「ああ。いつでも掛かって来るが良い」


 ハイネルフォードの膨大な魔力は、ロンダルキアやガガーランとは文字通りにレベルが違う。2年前に戦っていたら、俺では絶対に勝てなかったな。


 俺は収納庫ストレージから2本の剣を取り出す。銀色の光を放つ2本の剣は、どちらも10番目の最難関トップクラスダンジョン『神々の狂乱』のラスボスからのドロップアイテムだ。


 服も一瞬で着替える。銀糸で装飾された青い上着に、黒革ズボンとブーツ。普通の服に見えるけど、これも『神々の狂乱』のドロップアイテムで。動きを阻害しないのに物理攻撃と魔法攻撃の両方に対して、大抵の鎧よりも高い防御力を持つ。


 他にもステータスを強化するアイテムは沢山あるけど。俺にとっては誤差・・の範囲だからな。これが今の俺のフル装備だ。


「じゃあ、行くからな」


 俺は加速すると同時に、ハイネルフォード以外の全ての悪魔たちに『絶対防壁アブソリュートシールド』を放つ。1,000体以上の悪魔たちを、それぞれ別の『絶対防壁』に閉じ込めた。


「な……」


 俺が何をしたのか、ハイネルフォードが気づいたときには。俺はもう奴の目の前に迫っている。

 奴が反応できない速度で、右の剣で黒い焔を纏う剣を真っ二つにすると。左の剣の剣先を奴の額に尽きた立てた状態で、ピタリと止める。


「ハイネルフォード、まだ続けても良いけど。おまえには俺の動きが見えなかっただろう?」


 10番目までの最難関ダンジョンを攻略したことで。俺が手に入れた一番の武器はスピードと動きの正確さだ。

 互いが超高速で、一瞬でも気を抜けば死に繋がる戦いを延々と続けてきた。俺にとってハイネルフォード動きは遅過ぎる。


「アリウス、私の敗北は認めるが……他の者たちを閉じ込めるなど、卑怯ではないか! おまえは我ら全員と戦うのではなかったのか?」


「ハイネルフォード、貴様は本当に何も解っていないようだな」


 エリザベートが呆れ果てた顔をする。


「陛下、どういう意味ですか?」


 エリザベートはハイネルフォードの質問に答えないで、俺の方を見る。。


「アリウス、おまえが使った魔法は伸縮自在なのだろう?」


 エリザベートが俺に何を言わせたいのか解ったから、素直に応える。


「ああ、そうだよ。『絶対防壁』を極限まで小さくして、中にいる奴を押し潰すこともできる」


 『絶対防壁』は攻撃に使うこともできるからな。だけど1,000以上の『絶対防壁』を同時に出現させると、MPの消費が膨大になる。悪魔たちを殺すつもりなら、こんな非効率な方法じゃなくて。奴らが反応する前に殺すこともできた。


「おまえたちも解っただろう? アリウスは魔界においても、屈指の強者であり。その力は魔王アラニス・ジャスティアに匹敵する。 

 アリウス、グレイ、セレナ。おまえたち3人の強者を、我がイスペルダに招くことができたのは、何よりも喜ばしいことだ」


 魔神エリザベートは嗜虐的な笑みを浮かべる。今度はエリザベートと戦うってことか?

 本当のところは、エリザベートが何を考えているのかは解らない。まあ、相手は魔神だからな。解る筈がないけど。


 今の俺とグレイとセレナじゃ3人掛かりでも、エリザベートには勝てないだろう。ハイネルフォードたちが俺に勝てないことと同じで、文字通りにレベルが違い過ぎる。


 このとき――


「エリザベート、面白い余興をしているな」


 そいつは突然出現した。本当に突然で、出現する瞬間まで俺の『索敵サーチ』に全く反応がなかった。


 金色の髪と金色の瞳で、エリザベートに匹敵する巨大な美丈夫。背中に生えた鳥のような白い翼は、まるで天使のようだけど。


 視線だけであらゆるモノを殺しそうな眼光は、こいつが暴力が具現化したような存在であることを示しているようだ。


 そして何よりも、こいつを『鑑定』してもレベルもステータスも全く解らなかった。


 ハイネルフォードが即座に反応して動こうとしたけど。そいつに睨まれただけで動けなくなる。

 俺は全ての『絶対防壁』を解除して、悪魔たちを解放する。こいつなら『絶対防壁』に閉じ込めたままの悪魔たちを、皆殺しにしてもおかしくないと思ったからだ。


「ナイジェルスタット。いきなり来るなど、貴様は相変わらず礼節を弁えぬ奴だな」


 エリザベートだけは全然驚いていないけど。嗜虐的な笑みを浮かべたまま、ナイジェルスタットに殺意を向ける。


「エリザベート、俺の侵入を許した貴様の部下が無能なだけの話だろう。俺の部下ならば、貴様の侵入など決して許したりはせぬ」


「フン、口では何とでも言えるわ。それでナイジェルスタットよ、貴様は何の用だ? 魔界の国ゲルドアの王として、我がイスペルダに宣戦布告するなら受けて立つぞ」


 2人の殺意を込めた視線がぶつかるけど。ナイジェルスタットは何食わぬ顔で。


「俺は強い魔力を感じたから、魔力の正体を確かめに来ただけだ」


 ナイジェルスタットは、俺とグレイとセレナに冷徹な視線を向ける。


「なるほどな。人間にしておくは惜しい強者だが、貴様たちも俺に勝てぬことくらいは解っているだろう?

 だがこの魔神ナイジェルスタット・ヴォルガノフに剣を向ける気位があるなら、いつでもゲルドアに来るが良い。真の絶望というモノを教えてやろう」


 俺はナイジェルスタットの視線を浴びながら。どうすればこいつに勝てるか、それだけを考えていた。

 

※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:14,060

HP:149,082

MP:227,375



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