第183話:セレナのやり方


「さてと。次はセレナとガガーランの番だな」


 魔神エリザベートの言葉に、悪魔たちの視線がセレナとガガーランに集まる。


 尖った鼻と耳が特徴的な痩せ型の悪魔。ガガーランも8,000レベル超えだ。


「なるほど。人間の力は見た目とは関係ないようだな。ならば貴様も強大な力を秘めているということか」


 ロンダルキアの敗北を目にしても、ガガーランは余裕の態度だ。

 確かにガガーランの方がロンダルキアよりもレベルが高いし。ステータスもSTRとDEF以外は、ロンダルキアよりも上だ。


「私は魔法系アタッカーだから、グレイみたいに力技は使わないわよ」


 黒髪で黒い瞳のミステリアスな感じの美人。セレナと出会ったのは俺が5歳のときだから、もう13年以上前だけど。グレイもそうだけど、セレナの見た目は全然変わらない。今でも20代にしか見えないからな。


「おい、手の内を晒すようなことを言うなど随分と余裕だな。それともブラフで俺を嵌めるつもりか? まあ、どちらにしても……無意味だがな!」


 ガガーランの周囲に無数の剣が出現する。その数は1,000本を余裕で超えて、全ての剣が強力な魔力を放っている。

 魔力の剣が全方位からセレナに襲い掛かる。避ける場所なんてない上に、ガガーランは『転移阻害アンチテレポート』も発動済みだ。ハメ技みたいな攻撃だな。


 無数の剣がセレナがいた場所に直撃。だけど剣の数が多過ぎて、セレナがどうなっているのか見えない。

 勝利を確信したガガーランが魔力の剣を消し去ると、そこには何もなかった。


「……どういうことだ?」


「『転移阻害』が有効なのは、同レベル以下の転移系魔法に対してだけよ。私の『短離転移ディメンジョンムーブ』の方が、貴方の『転移阻害』よりも上みたいね」


 ガガーランが慌てて振り向くと、直ぐ後ろにセレナがいた。

 セレナよりも魔法に詳しい奴なんて、俺は知らない。魔法を知り尽くしているセレナは、実戦を想定して魔法を極限まで強化している。 


「余裕なつもりでいるのは、どちらかしら? 私が声を掛ける前に攻撃していたら、貴方は終わっていたわよ」


「ならば……貴様が魔法を発動する前に仕留めるまでだ!」


 ガガーランが再び無数の魔力の剣を出現させる。至近近距離から剣の雨がセレナに襲い掛かる。


「それは無理な話ね。だって私の方が貴方よりも速いから」


 セレナが『短距離転移』を発動して空中に移動すると。ガガーランの無数の剣は軌道を変えて、セレナを追尾する。


 セレナの方が剣よりも速いけど。このドームのような広大な広間が、いくら広いと言っても。音速の数倍の速度で飛び回るには狭い。

 他の悪魔たちを巻き込んで良いなら、それでも問題ないけど。さすがに観戦者を巻き込む訳にはいかないからな。


「追い掛けっこをするのも良いけど。良い加減に邪魔よね」


 セレナがそう言った瞬間。ガガーランの魔力の剣が全て消滅する。無詠唱で『魔法解除ディスペル』を発動したからだ。セレナに掛かれば、大抵のスキルや魔法は無効化される。


「エリザベート陛下が、力を見せつけろと言っていたから。こういうときは攻撃を受けた方が良いのかしら? だけどわざと当たるのは、私の趣味じゃないのよね」


「貴様……俺の攻撃など効かぬと言いたいようだな!」


 ガガーランがセレナを睨む。


「良いだろう……ならば、俺の全力を見せてやろう!」


 ガガーランは1,000本の魔力の剣を集約したような、膨大な魔力を放つ大剣を出現させる。

 集約した魔力が放電現象を起こす。シンやエイジも同じような戦い方をするけど、さすがは8,000レベル超えというところか。2人とは魔力の量も質も桁違いだな。


 ガガーランは加速すると、セレナとの距離を一瞬で詰める。まあ、セレナなら普通に躱せるから。どんな攻撃も当たらなければ意味がないけど。


「だから、こういうのは趣味じゃないのよね」


 だけどセレナは躱さなかった。武器を出して受止めるでもなく。ガガーランの膨大な魔力を放つ剣がセレナに直撃する。

 それでもセレナは服さえ無傷だった。ガガーランの剣はセレナに触れる直前に、何かに阻まれれて動きを止める。


「ど、どういうことだ……何が起きている?」


「私の『絶対防壁アブソリュートシールド』の方が、貴方の全力よりも上ってことよ」


 セレナは『絶対防壁』を凝縮して、魔力を纏うように自分の身体を包んでいる。

 自分の動きに合わせて『絶対防壁』も変形させるから、動きを阻害されることもない。魔法を自在に操れるセレナだからできる芸当だ。


 セレナは自分で言っていたように、普段ならわざと当たるような真似は絶対しない。

 だけどガガーランは『鑑定』済みで。レベルやステータスだけじゃなくて、使えるスキルや魔法も全部解っている。

 しかもセレナの『鑑定』は『解析アナライズ』と呼ぶべきレベルだからな。ガガーランの能力じゃ、『絶対防壁』を破れないと確信していたんだろう。


「次は私のターンで構わないわよね? そろそろ私の攻撃力を見せないと」


 セレナは自分の周囲に、小さな魔力の球体を無数に出現させる。白い光を放つ球体はセレナの魔力を凝縮したものだ。


 セレナ曰く。攻撃魔法を突き詰めていくと、純粋な魔力に辿り着く。魔法とはイメージを魔力で具現化するモノで。魔法に炎や氷や雷とか属性を持たせるのは、イメージしやすいからだ。

 だけど具現化することに魔力を使うから、本来の魔力の50%も攻撃力に転換することはできない。だから魔力を直接操る方がエネルギー効率は良いけど。


 それはあくまでも理屈の話で。普通は具体的なイメージ無しに、魔力自体を魔法のように使えば。魔力を上手く集約できずに、逆にロスが増える。

 魔力を身体や武器に纏わせるのがせいぜいで。純粋な魔力を、ほとんどロスなしで武器として使うなんて。できるのはセレナと魔王アラニスくらいだろう。


 凝縮された無数の魔力はレーザーのように伸びて、反応できない速度でガガーランを貫く。

 勿論、殺すつもりはないから急所を外して。威力も落としているけど。セレナがその気なら、ガガーランは消滅していただろう。


 全身を貫かれたガガーランが崩れ落ちる。

 接近戦に弱い魔術士なんて失格だって、出会った頃のセレナが言っていたけど。セレナを魔術士とか、そういうレベルで考えるのはそもそもの間違いだろう。


 『絶対防壁』という装甲を纏って、レーザーのような魔力を無数に放つセレナは、機動力の高い移動要塞ってところだな。

 

※ ※ ※ ※


セレナ・シュタット 40歳

レベル:10,460

HP:69,870

MP:99,677

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