第179話:思うところ


 シリウスとアリシアを連れて、学院の正門から出ようとしたとき。


「アリウス先輩。卒業したのに、こんなところで何をしているんだよ?」


 後ろから声を掛ける奴がいた。振り向くと、そこにいたのは3人。


 ブリスデン聖王国からの留学生、銀髪君のアレックス・オースティン。

 アレックスのお目付け役で、金髪のやる気のない男子ゼスタ。

 もう1人のお目付け役。水色のベリーショートの髪の毒舌家女子ノアだ。


「アレックス先輩、ゼスタ先輩、ノア先輩、こんにちは」


「先輩たちはアリウスお兄ちゃんを知っているんですか?」


 シリウスとアリシアも、この3人と顔見知りみたいだな。


「アリウスお兄ちゃんって……いや、俺もシリウスとアリシアの家名がジルベルトってことは知っていたが。まさかアリウス先輩の兄弟とは、知らなかったぜ」

 

 アレックスは驚いているけど。


「髪と目の色が同じで、家名がジルベルトなんですから。アリウス卿の兄弟だと気付かない方がおかしいですよ。アレックス様は本当に馬鹿ですね」


「ノア、アレックス様が馬鹿なのは解り切っているだろう。傷口に塩を塗り込むような真似は止めろ」


 ノアとゼスタは相変わらず、アレックスに対しては容赦がないな。

 話が進まないので、俺がシリウスとアリシアに説明する。


「まあ、こいつらとは昔ちょっとあったけど。今は何とも思ってないよ。普通に知り合いの後輩ってところだな」


 俺が学院の2年生のとき。ミリアに気がある後輩のアレックスが、俺に絡んで来たけど。後で反省して素直に謝って来たからな。


「そう言えばアリウス卿は、まだ婚約してないんですよね? 水色の髪のピチピチ年下女子なんて、如何ですか? 私って、好きな人には意外と尽くすタイプなんです」


 ノアが真顔で言う。どこまで本気なのか解らないけど。


「ノア。冗談でも、そう言って貰えるのは嬉しいよ。だけど俺には大切な奴がいるんだ」


 俺が素直に答えると、何故かノアの顔が赤くなる。


「嬉しいって……アリウス卿はズルいですよ」


 いや、言いたいことは何となく解るけど。俺は素直に思ったことを言っただけだからな。


「アリウスお兄ちゃんの大切な人って……」


「アリウス兄さんは結婚するの?」


 アリシアとシリウスがつぶらな瞳で、真っ直ぐに俺を見る。こういうときに誤魔化すのは良くないよな。


「結婚とか、まだそういう話じゃないけど。俺には大切で、何があっても守りたい奴がいる。だけど俺が大切に想っている奴は1人じゃないんだ。

 俺はそいつらみんなが大切で守りたいけど。今の関係をずっと続けるのは、みんなの想いを無視することになる。だから俺は自分にとって、何が本当に大切なのかを考えて。答えを出すつもりだよ」


 大切な奴が1人じゃないとか。いきなりこんな話をしても訳が解らないよな。


「アリウスお兄ちゃんは、いっぱい好きな人がいるってこと? 私たちよりも、その人たちのことが大切なの?」


「どっちが大切とか、比べられないよ。俺はアリシアもシリウスも大好きだけど。みんなを想う気持ちと、家族を大切に想う気持ちは違うんだ。アリシアにはまだ解らないかも知れないけどな」


 俺も偉そうなことは言えないけど。人を好きになるという感覚が、ようやく解るようになって。他の誰にも渡したくないって気持ちを、自覚したのは最近だからな。


「アリウス卿が誰のことを言っているか、大体想像できますが。そのような話を、私たちの前でして良いんですか?」


「ああ。俺は隠すつもりがないからな。余計な口出しをする奴は、容赦しないけど」


 結局、俺が決めれば解ることだし。この件で評判が悪くなるのは、みんなじゃなくて俺の方だろう。俺は周りの奴に何を言われても構わないからな。


「俺たちはこれから出掛けるんだよ。用がないなら、もう行くけど?」


「ああ。アリウス先輩。呼び止めて悪かったな」


 アレックスが申し訳なさそうに言う。まあ、アレックスが呼び止めなければ、こんな話にならなかったけど。


「いや、別に構わないよ。そう言えば、アレックス。おまえも強くなったな。この2年間、真面目に鍛練して来たたんだろう?」


「アリウス先輩……どうして、それを……」


「おまえの動きを見れば解るよ。動きに無駄がなくなったな」


 『鑑定』しなくても解る。魔力が強くなっただけじゃなくて、今のアレックスには以前のような隙がない。


「アリウス先輩が俺を認めてくれた……」


 なんかアレックスが感動しているんだけど。


「アリウス兄さん。アレックス先輩は生徒会の副会長なんだよ。ノア先輩は書記で、ゼスタ先輩は会計なんだ」


「先輩たちは私たち1年生に優しくしてくれるわ」


 アレックスたちのブリスデン聖王国とロナウディア王国の関係は、特に良いという訳じゃないからな。アレックスたちは純粋に実力で選ばれたんだろう。


「おい、アレックス。これからも気を抜くなよ」


「ああ。アリウス先輩、俺はもっと頑張るぜ!」


 アレックスは単純だけど、根は真っ直ぐで良い奴だ。ノアとゼスタも何だかんだ言って、しっかりアレックスをサポートしているし。この3人も良い仲間だよな。


※ ※ ※ ※


 アレックスたちと別れて。俺たちはカフェでパンケーキを食べてから、冒険者ギルドに向かった。


 王都の冒険者ギルドと、俺は少しだけ因縁がある。

 俺は7歳のときに特例で冒険者になったけど。特例を認めさせるために、王都のB級冒険者たちをボコボコにしたんだよな。

 まあ、グレイとセレナが仕掛人で。10年以上も前の話だけど。


 シリウスとアリシアに剣術と魔力操作を教えるのは、そのときも使った冒険者ギルドの地下にある鍛錬場だ。


「ギグナスさん。こっちで勝手にやるから、俺たちに付き合う必要はないよ」


「いや、是非付き合わせてくれ。この2人もダリウスとレイアの子供なんだろう?」


 ギグナスは俺の父親のダリウスと母親のレイアが、グレイとセレナと一緒に冒険者をしていた頃からの知り合いで。

 ロナウディア王国冒険者ギルドのトップ。俺が7歳で冒険者なる特例を認めたのも、ギグナスだ。


「10代前半に見えるが……まさかこの2人も7歳なのか?」


「いや、シリウスとアリシアは11歳だよ。ギグナスさん、変な期待はしないでくれよ。2人はまだ冒険者になるつもりはないからな。今日は俺が2人に教えるために、鍛錬場を借りに来ただけだから」


 真剣を使うから、シリウスとアリシアには防具を付けて貰う。

 強過ぎる装備だと、実力を勘違いするから。2人の武器と防具はいつも使っている市販品だ。


「じゃあ、まずはシリウスの魔力操作からだな。今の実力を見せてくれよ」


「うん。アリウス兄さん、行くよ!」


 シリウスは魔力を剣に集中する。魔力の動きもスムーズだし、集約度も問題ない。

 シリウスとアリシアには俺が学院の1年生のときに、魔力操作を練習するための短剣を渡していて。今も真面目に鍛練を続けているからな。


「シリウス。全力で攻撃して来いよ」


「うん!」


 シリウスは魔力を集約した剣を、躊躇ちゅうちょなく叩き込む。俺ならダメージを受ける筈がないって解っているからだ。

 傍にいるアリシアも集中して見ている。自分の番じゃなくても、俺たちの動きから学ぼうとしている。さすがはアリシアだな。


 俺は何度かシリウスの攻撃を避けた後。収納庫ストレージから取り出した剣で受ける。


「シリウス、魔力を剣に集約するだけじゃなくて。相手に当てる部分に、さら魔力を集めるんだよ。こんな感じで」


 俺が今使っているのも市販の剣。カーネルの街でジェシカと買い物したときに、ジェシカが選んでくれたバスタードソードだ。


 解り易いように、魔力を視覚化する。

 剣に込めた魔力をシリウスの剣に当てる瞬間、一点に集約する。凝縮した魔力は、シリウスの剣を真っ二つにした。


「僕の剣が……」


「シリウス、悪かったな。だけど俺は魔力を加減したから。おまえが同じように魔力を操作すれば、剣が折れることはなかったからな」


 俺はシリウスの剣を魔法で再生する。


「自分と相手の動きに合わせて、魔力をもっと繊細に操るイメージだな。だけど魔力を集約することで他の部分の魔力が弱くなるから、外したら逆効果だからな。外すと解った瞬間に魔力を広げてカバーするとか、臨機応変に操作する必要があるよ」


「うん。アリウス兄さん、解ったよ」


 シリウスは納得したようだけど。


「なあ、アリウス。そこまで精密な魔力操作はA級冒険者でもできない奴がいるレベルだぞ。11歳の子供に、それを求めるのか?」


 ギグナスが唖然としている。


「問題ないよ。シリウスとアリシアなら、できるようになるから」


 2人は真面目で努力家だし。センスも理解力もあるからな。その証拠にシリウスも、見ていただけのアリシアも、真剣な顔で練習を始めている。


「さあ。次はアリシアだ」


「うん。アリウスお兄ちゃん、初めから全力で行くね!」


 俺とアリシアの模擬戦を、シリウスが集中して観察する。シリウスとアリシアなら1年生のうちに、A級冒険者レベルになるだろう。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:13,998

HP:148,420

MP:226,368

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