第174話:再会


 二年ほど前。魔王アラニスに敗れて、死んだことになったエイジ。アラニスに敗れた直後、エイジは姿を消した。


 これまで何をしていたのか、俺は知らないけど。エイジは変わったな。


 エイジは地上からデュランを見据える。


「じゃあ、俺が『神獣』の相手をするよ」


 デュランのことはエイジに任せて。俺は『真のトゥルー・フェンリル』の元に向かう。


 『真のフェンリル』は『鑑定』済みだから、こいつのレベルとステータスは解っている。レベルはそこそこだけど。HPが膨大だな。

 まあ、レベル的にも俺から見るとって話で。デュランがダメージを受けていないのは、こいつが本気じゃなかったからだ。


「なあ。俺と戦うか、大人しく森の奥に帰るか。おまえに選ばせてやるよ」


 『真のフェンリル』が移動して来たのは、単純に餌場を求めたからか。それとも誰か・・の意志によるものか。

 理由は解らないけど。こいつに悪意を感じないからな。


 俺が本気の魔力を見せると『真のフェンリル』が怯える。

 普段の俺は魔力を隠している。手の内を晒したくないし。本気の魔力を見せると威圧することになるからだ。


「アリウス……その異常な魔力は何だ? てめえの方が『神獣』よりも化物じゃねえか」


 デュランも『索敵サーチ』で俺の魔力の変化に気づいたようで。ゴチャゴチャ言っているけど。


「デュラン、こっちを気にしている余裕があるのかよ? エイジさんを舐めない方が良いからな」


 エイジが愛剣『裁きソードオブの剣ジャスティス』を抜き放つ。

 紅蓮の炎を帯びる長剣は、もう見慣れたモノだけど。魔力の濃度が以前と違うことは直ぐに解った。


「元SSS級冒険者のエイジ・マグナスか。おまえは魔王に殺されたんじゃなかったのかよ。命乞いをして、見逃して貰ったのか?」


 デュランが嘲るように言うけど。エイジは眉一つ動かさない。


「ああ。今回も俺は見逃して貰ったことになるな。魔王が何を考えているのか、俺には解らないが。アリウスに生かして貰ったことくらいは、俺も解っている」


 確かに俺は魔王アラニスに、エイジたちを殺さないように頼んだけど。結局決めたのはアラニスだからな。


「他人に生かして貰うなんて、情けねえ野郎だな。戦いは殺すか殺されるかだろうが。てめえみたいな腰抜けは、俺が殺してやるぜ」


 デュランは魔銃の銃口を、エイジに向ける。正確に狙いを定めて、魔力の弾丸を連射する。

 だけどエイジは素早く躱すと、一瞬で距離を詰めてデュランに迫る。


 エイジは『裁きの剣』を横凪に一閃。デュランはニヤリと笑って躱そうとするが、エイジの方が速い。

 エイジはデュランの動きに合わせて、さらに距離を詰めながら。『裁きの剣』を振り抜いた。


 デュランは躱し切れずに、バトルナイフで受ける。だけどエイジの一撃はバトルナイフを破壊して、そのままデュランの右腕を切り落とした。


「チッ!」


 デュランは顔をしかめながら『完全治癒パーフェクトヒール』を発動する。だけどエイジはその隙を逃さない。

 

 デュランの背後に回り込んで、『完全治癒』を発動するタイミングで放たれた斬撃。

 デュランは躱し切れずに、背中を深々と切り裂かれる。


「てめえ……殺してやる!」


 デュランは痛みに耐えながら距離を取って、魔力の弾丸を連射する。だけどエイジは全て躱すと。再び距離を詰めてデュランに迫る。


「おまえは口だけのようだな」


 エイジが『裁きの剣』を二閃すると。魔銃が真っ二つになって。再生したばかりの右腕が、肩口から切り落とされた。


「まだやるなら、俺は構わない。戦いは殺すか殺されるかというのは、俺も同感だからな。だがおまえが命乞いをするなら、殺しはしない」


 速度もパワーも正確さも、レベルが違う。

 デュランも以前に戦ったときより強くなったけど。エイジはそれ以上に強くなった。


「てめえ、俺を舐めているのか……命乞いなんかするかよ!」


 この状況でも、デュランは戦意を失っていない。だけど力の差に気づかなかった時点で、勝負はついているからな。


「なあ、デュラン。おまえがやったことは、許されることじゃないけど。エイジさんのお陰で、被害は出なかったし。今日のところは見逃してやるから、おまえも諦めろよ」


 デュランの罪を問えるかというと、微妙なところだ。こいつはスタンピードを放置したけど。『真のフェンリル』の相手をするのに手一杯で、動けなかったと言えばそれまでだからな。


「アリウス、ふざけるんじゃねえ! 俺はまだ生きている。だから敗けてねえぞ!」



 まあ、そう言うと思ったけど。デュランにいつまでも付き合っているほど、俺は暇じゃないんだよ。


 俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』を発動して、デュランを閉じ込める。


「てめえ、何をしやがった?」


 デュランが『絶対防壁』の中で暴れるけど。デュランの力じゃ絶対に敗れないからな。


「デュラン、そこで頭を冷やせよ」


 俺は『真のフェンリル』に向き直る。


「じゃあ、おまえも帰れよ。それに迷惑だから、二度とこっちに来るな。俺の言うことが聞けないなら……解っているよな?」


 俺の魔力に怯える『真のフェンリル』は、項垂れて森の奥に戻って行く。

 これでとりあえずは、全部片付いたな。


「アリウス。おまえに掛かったら、『神獣』も形無しだな」


 エイジが呆れたような顔をする。


「エイジさん。久しぶりだし、ちょっと俺に付き合わないか?」


 この2年間、エイジが何をしていたのか。話を訊きたいんだよ。


「ああ。俺もおまえたちに話したいことがあるからな」


 エイジは真っ直ぐに俺を見た。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:13,870

HP:147,058

MP:224,289

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