第170話:約束


 カーネルの街の冒険者ギルドで、ゲイルたちと酒を飲んでいると。ジェシカから『伝言メッセージ』が届いた。


 高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』の今日の攻略が終わったから。これからカーネルの街に向かうそうだ。ジェシカたちも後から合流することになっていたからな。


「ゲイル。俺はちょっとジェシカたちを迎えに行ってくるよ」


 ジェシカたちは500レベル台だけど。『竜の王宮』とカーネルの街は結構離れているからな。全員を転移魔法テレポートで運ぶとMPを結構消費する。


 ジェシカたちは明日も『竜の王宮』を攻略するだろうから、MPを温存したいだろう。俺のMPなら余裕だから、『伝言』で迎えに行くとジェシカに伝える。


 転移魔法で『竜の王宮』と往復。ジェシカたちを連れて冒険者ギルドに戻る。


「アリウス、ごめんね。送り迎えなんかさせて」


「ジェシカ、気にするなよ。これくらいのMPなら、直ぐに回復するからさ」


 MPは時間とともに割合で回復する。回復力は人によって差があるし。睡眠中の方がより回復するけど。1時間でMP総量の何パーセントという感じだ。

 

 今の俺のMP総量なら、カーネルの街と『竜の王宮』を往復した分のMPは、普通に過ごしていて数分で回復する。

 どれだけMPがあるんだよって、普通ならツッコむところだけど。こいつらは慣れているからな。誰もツッコまない。


「ジェシカたちも久しぶりだな。ほら、とりあえず乾杯と行こうぜ!」


 ジェシカたちが来ることは解っていたから。ゲイルたちに席を確保しておいて貰った。


「ジェシカの姉御、待ってたぜ! 『ギュネイの大迷宮』を攻略した『白銀の翼』は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだからな。『竜の王宮』を攻略しているときの話を聞かせてくれよ」


 ジェシカも面倒見が良いからな。ヘルガもすっかり懐いているみたいだな。


 周りの冒険者も、ジェシカたちに憧れや尊敬の視線を向ける。ジェシカたちは元々カーネルの街で、1番強い冒険者だけど。

 『ギュネイの大迷宮』を攻略したことで。他の冒険者たちは、さらに一目も二目も置くようになった。


「ヘルガも解って来たみたいだね。実力はまだまだだけど」


「そりゃあ、マルシアさんに掛かったら、私なんて形なしだぜ」


 マルシアは冒険者としては一流だからな。ヘルガもマルシアのことを認めている。


「じゃあ、そういうことで。今日は当然、アリウス君の奢りだよね! マスター、お酒と料理を高い順からジャンジャン持って来てよ!」


「なあ、マルシア。何がそういうことで、何で俺が奢る話になるんだよ?」


「そんなの、あたしたちが『ギュネイの大迷宮』を攻略したお祝いに決まっているじゃない。アリウス君は太っ腹だもんね!」


 マルシアがニヤニヤ笑う。


「ちょっと、マルシア! 毎回毎回アリウスに集って、良い加減にしなさいよ!」


「ジェシカ。まあ、そういうことなら構わないよ。みんなにもメシくらい奢るからさ」


「やっぱりアリウス君は太っ腹だね!」


「アリウス、いつもごめんね……マルシア、少しは遠慮なさいよ!」


 そんなことを言っても、マルシアが聞く筈がない。大量の料理と酒を注文して、次々と平らげていく。

 俺も結構食べるけど。食うことに関しては、マルシアは規格外だよな。


「そう言えば、アリウス。話は変わるけどよ。新しくSSS級冒険者になった奴が、アリウスのことを散々悪く言ってるみたいだな」


「ああ。その話は俺も聞いたぜ。適当なことを言いやがって。ホント、ムカつく奴だよな」


 ゲイルの話に、アランが顔をしかめる。


 シンとエイジが死んだことになって。空席になったSSS級冒険者に、2人のSS級冒険者が昇格した。

 だけど話はそこで終わらなかった。


 本来は最難関トップクラスダンジョンを攻略したり、スタンピードを殲滅するとか。冒険者ギルド本部が認めたSSS級冒険者に挑戦する資格を持つ者が、現役のSSS級冒険者を倒すことで、初めてSSS級冒険者になることができる。


 だけど今回のようにSSS級冒険者に欠員が出た場合は、SS級冒険者から希望者を募って、トーナメント戦で新しいSSS級冒険者を決める。


 でもそれじゃ本当にSSS級冒険者レベルの実力があるか解らないし。SSS級冒険者序列1位のシンが魔王アラニスに敗れたことで、SSS級冒険者の実力自体も疑われている。


 そこで冒険者ギルド本部は、新たにSSS級冒険者になった2人について。今後1年間、誰の挑戦でも受けると宣言した。もし挑戦した奴が勝てば、そいつが新たなSSS級冒険者になれると。


 冒険者ギルド本部の狙いは、新たにSSS級冒険者になった2人の実力を示すことだった。だけどそれが完全に裏目に出ることになる。

 新たなSSS級冒険者の2人が、アッサリと挑戦者に敗北したからだ。


 その後もSSS級冒険者になった奴が、挑戦者に何度も敗れて。SSS級冒険者の顔ぶれがようやく落ち着いたのは、半年ほど前のことだ。

 俺のことを悪く言っているのは、勝ち残ってSSS級冒険者になった奴の1人だ。


「俺は何て言われても構わないからな。好きに言わせれば良いだろう。面と向かって喧嘩を売るなら、当然買うけどさ」


 冒険者ギルドを支配する奴らのこともあるし。今の冒険者ギルド本部はイマイチ信用できないけど。とりあえず向こうから何かを仕掛けて来るまで、しばらくは傍観だな。


「アリウスも大人になったじゃねえか。昔のおまえなら、絶対にシメに行くだろう」


「いや、ゲイル。俺は昔から陰でゴチャゴチャ言う奴なんて相手にしないからな」


 まあ。俺がしばらく傍観する理由は、もう1つあるんだけど。


「アリウスがそう言うなら構わないけど。私も一度しか・・・・見たことがない・・・・・・・けど、あいつは何をするか解らない感じだったわ」


 ジェシカが心配そうな顔をする。まあ、ジェシカが言うことも解らなくはないけど。


 元フランチェスカ皇国重装騎兵団長デュラン・マグナス。勇者アベルの国イシュトバル王国の王宮で、魔族の姿をした俺に襲い掛かって来て。フランチェスカ皇国でも、俺に絡んで来た奴だ。

 そいつが新たにSSS級冒険者になった奴の1人で。俺のことをゴチャゴチャ言っているんだよな。


 ジェシカもフランチェスカ皇国には一緒に行ったから、デュランのことは知っている。


「ジェシカ。冒険者ギルド本部に1人、俺の知り合いがいるんだけど。とりあえず俺はそいつがデュランを暴走させないって、期待しているんだよ」


 SSS級冒険者序列1位オルテガ・グランツ。シンの後に序列1位になったオルテガは、冒険者ギルド本部の役員を兼任していて。

 冒険者ギルドを真面まともにするって、俺に約束したからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 18歳

レベル:13,671

HP:144,944

MP:221,068

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